「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第268話 若手の採用が上手くいかない2つの理由とは?

「先生、これから3年間は若手を採用しません。」

 

30人規模産業機械製造企業、経営者の言葉です。

ここ数年売上高減少傾向にあります。苦渋の決断で体制をスリムにしてきました。幸い、損益分岐点比率が小さく、差別化された製品があります。おかげで営業利益は黒字です。

コロナ禍のような非常時でもイイ業績が出せるか否かは経営者の手腕次第です。非常時なので「運よく」や「たまたま」はありません。基礎体力がある企業です。

ただ経営者は今のままでいいと考えていません。スリム体制での事業継続は苦しいからです。改めて成長路線を歩もうとしています。

固定費は健全に成長させてこそ現場に夢を持たせられるとの説明に腹落ちした経営者です。詰めて、空けて、取り込むプロジェクトこそが生き残りをかけたやり方だと気付きました。

スリムになった既存のメンバーで改革を進めます。これを機会に属人的な仕事のやり方を変えたいと考えています。

従来の職人的な個力で仕事をするのではなく応受援性を高めたチームで仕事をやるのです。人時生産性の分子を積み上げる考え方を現場に広めます。

そうした環境が整備できてから、若手を採用しようと考えています。環境整備ができるまでの3年間は今の従業員でやることを現場へ宣言しました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

人材育成は経営課題のひとつです。多くの経営者が気に留めています。なぜか?戦略的だからです。思い付きでは成果が出ません。人材育成は2段階で構成されます。

・採用活動

・現場教育

 

若手人材を採用しても定着しない、そもそも採用できない問題に直面しているなら原因は明らかです。2段階を踏んだ戦略になっていません。振り返ってみてください。

先の企業ではスリムにした体制を強化するために若手を採用しようとしています。2段階を実践するためにもプロジェクトをスタートさせました。

 

●採用活動

国内の生産年齢人口(15~64歳)は現在7,400万人余りですが既に減少モードです。45年後には4割減るとの予測もあります。(内閣府HP「人口減少と少子高齢化」データより)

右肩下がりで一方的に減るのです。これが何を意味するかはお分かりでしょう。生産年齢人口減の背景には少子化があります。貴社の将来を担う若手人材を獲得するのが困難になるということです。

 

「地元の大手企業が新卒を根こそぎ持っていってしまいます。」と若手人材採用の苦労を語る経営者がいらっしゃいます。

どんなに「今」が良くても「将来」の事業の担い手がいなくなれば、企業は行き詰まるのです。若手人材の継続的な採用ができなくなったその時点で貴社の命脈が絶たれます。

大手も生き残りをかけて必死です。

 

採用の決定権は採用される若手側にもあります。今の若手には働く場の選択肢が多いのです。まずは、働く場として、若手に貴社が選ばれなければどうしようもありません。

「どうしたら我が社は若手に選ばれるような企業に・・・」と真剣に考えなければ、やる気があって元気な若手に選ばれることはないでしょう。いい若手の採用活動はここからです。

 

自分を成長させたいという意欲がある10代、20代の若手も多いと言われています。そうしたやる気満々な若手が、貴社従業員の仕事ぶりを目にし、現場の雰囲気を感じたらどう思うでしょうか?想像してください。

 

先の経営者は次のようにも語っていました。

「若い人に魅力を感じてもらえる会社に変わらないとダメです。」

この企業は地域でも給与水準は高い方で、地元の高校などのつながりを持っています。そうであっても選ばれるために、今、何をするべきかとも先の経営者は考えていました。

採用活動はその活動をする前にほぼ勝負が決まっているのかもしれません。

貴社はどうですか?

 

 

 

 

 

・現場教育

環境が人を育てる。人は育った環境に応じた思考回路を持つものです。「あなたの周囲にいる5人の年収平均が、あなた自身の年収平均になる。」などともいわれます。

環境が人の言動へ影響を与えるからです。

 

貴社に18歳の高卒新人、22歳の学卒新人が入社したと想像してください。彼らは入社したその日から、現場で耳にする言葉、目にする仕事ぶり、雰囲気等々あらゆることを肌感覚で感じ取ります。若手は先輩方の言動に注目しているのです。

 

ウチの会社ではそのように仕事をするのか、そのような考え方をするのか。若手が持つ真っ白なキャンバスに貴社中堅、ベテランの言動を塗り込まれていきます。

影響力の大きい従業員のそれが優先的に塗り込まれていくという理屈は、現場で起きる出来事の理屈と同じです。

 

今の現場に経営者の考え方が浸透しているなら、若手が入社してきても特別な対応は不要です。影響力の大きいベテランや中堅がご自身の考え方を新人へ伝えてくれます。若手にはベテランにそのやり方を学んでもらいたいと考えるはずです。

 

ただし、現場にご自身の考え方が浸透していない場合、同じやり方をしてはダメです。経営者の考え方ではなく、現場で影響力の大きいベテランや中堅の考え方が伝わります。

従来の個力に固執したベテランや中堅のコピーが出来上がるのです。

 

経営者が、これからは従業員同士が連携し多能工化で切磋琢磨する仕事のやり方に変えたいと考えても、そうした若手は育ちません。せっかくの若手が改革の原動力にならないのです。

先の経営者が3年間は若手を採用しないと現場へ宣言した背景はここにあります。先の経営者は、若手を受け入れる現場側の準備が整っていないと考えたのです。

 

経営改革を推し進め、経営者の飛躍へ向けた新しい考え方や仕事のやり方を現場に定着させます。そうした現場へ若手を投入すれば、真っ白キャンバスに塗り込まれるのは、飛躍へ向けた新しい考え方や仕事のやり方です。

その若手にはそれが「普通」になります。環境が若手を育成してくれるのです。これが人材再生産体制です。継続的な人時生産性向上実現させる要点のひとつと考えています。

 

 

 

 

 

飛躍へ向けた新しい考え方を理解する若手を育成したかったら、経営者自身が現場と向き合い、改革をしなければならないということです。

経営者が意志や意図を持って現場を変え、新しい考え方を「普通」に学べる受け入れ態勢を整備しなけれなならないのです。

 

先の経営者はこの考え方に腹落ちしました。3年間若手を採用しないという宣言は3年間で今の仕事のやり方を変えようという決意に他なりません。

そうして若手受け入れ環境を整備します。職人的な個力で仕事をするのではなく応受援性を高めたチームが機能している環境に若手を投入するのです。

若手はベテランの言動に触れ、それを「普通」だと学び取ります。遠回りのようですが、効果的な現場教育方法です。

私が入社した自動車部品工場で現場のベテランや先輩方に育てられた過程を振り返るとますます確信できます。

 

 

 

 

 

今までのやり方の延長線上で成果を望むなら、従来のやり方を踏襲してください。それで十分です。

しかし、次世代へ向けた大きな飛躍を目指すなら改革です。改革で狙うのは2倍、3倍のスケール。人時生産性150%アップとは改革です。2割、3割を狙う改善とはやり方が根本から違います。中小から大手の仕事ぶりに変えるのです。

 

目指すのは利益アップと給料アップ。現場はチームで仕事をするやり方を知らなければなりません。職人的な個力で仕事をするのではなく応受援性を高めたチームで仕事をやるのです。そうした思考回路を持った人材を育てます。

 

人時生産性向上のお作法を普通に知っている若手がどんどん増える将来を想像してください。貴社には将来の発展へ向けた若手育成の環境がありますか?そもそも、どのような若手に育成したいか、その「雛形」がありますか?

 

人時性生産向上をプロジェクトでやる究極の目的は人材再生産体制構築です。そうした成果も狙いながら、先の企業では先月からプロジェクトに着手しました。

・若い人に魅力を感じてもらえる会社に変わらないとダメだ。

・職人的な個力ではなく、応受援性を高めたチームのなかで若い人を育てたい。

こうした先の経営者の願望を実現させる取り組みにもなっています。要点は人時生産性向上による現場のベクトル揃え。可能なら若手採用を前倒ししたいので時間との勝負です。

 

次は貴社の番です!

成長する現場は飛躍へ向けた新しい仕事のやり方や考え方を理解した現場が若手を育てる。

停滞する現場は、若手育成を現場に丸投げして旧態依然としたベテランのコピーをつくる。