「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第270話 小日程計画が予定通りでなくてもイイ理由とは?

「先生、現場で計画を立てても、割り込みがあって守れていないです。」

 

大型設備メーカー経営幹部の言葉です。

 

人時生産性4,000円後半の企業です。企業規模から判断して、いい水準と言えます。人時生産性の多寡は事業モデル次第です。

先の企業はニッチ分野で特有のコア技術を有し、独自製品を持って、自ら販路開拓をしています。海外にも拠点を持つ小粒ながらもピリリと辛い山椒のような企業です。

 

プロジェクトをスタートさせる際に「この人時生産性の水準でしたら、社長には悩みがないのでは?」と尋ねましたが経営者の答えは「いやいや、今はいいですけど、このままではまずいのです。」とのこと。

 

新たなプロジェクトで仕事のやり方を変え、新たな体系と手順をつくることにしました。経営改革です。挑戦する経営者は貪欲です。先手を打ちます。

日程計画の問題点を議論していた時、プロジェクト担当幹部が現状を説明してくれました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

先の企業ではすでに業界平均よりも高い水準の人時生産性を実現させています。そうした企業であっても日程計画を生かし切れていないと言うわけです。

詰めて、空けて、取り込む余地がありそうです。

 

まずは日程計画を機能させます。なぜ日程計画からなのか?日程計画はお客様と現場をつなぐ役割を果しているからです。製造現場は日程計画を通じてお客様に触れています。

 

日程計画は、製品仕様や納期から検討されます。そして、製品仕様や納期はお客様の要望を反映したものです。つまり、日程計画はお客様の声にほかなりません。

お客様を知らずして商売するなかれとは営業部門だけではないのです。製造業は今や製販一体でないと儲かりません。

 

付加価値額を積み上げる原資はお客様から頂いているという至極当然のことを理解させるためにも日程計画は蔑ろにできないのです。

 

DX化が進んで多様なスケジューラーが現場に導入されています。一方で、スケジューラーを入れさえすれば、生産活動が上手くいくと勘違いしている経営者もいらっしゃいます。

先日も導入を検討している経営者からご相談をいただきましたが、工程管理上の要点をお伝えしたら、生かすための準備が必要だと気付かれたようです

 

貴社には工程管理、特に日程計画の原理原則を理解している管理者はいますか?スケジューラーが現場を管理するのでなく、管理者がスケジューラーを使って管理するのです。

 

・日程計画を導入する目的がはっきりしているか?

日程計画はあくまで道具です。それを「新たに」導入する狙いを明らかにしなければ現場のベクトルは揃いません。全員参加でない日程計画は日程計画とは言えないのです。

 

・リードタイムを設計する手順が明らかになっているか?

納期遵守だけでは儲からない昨今、儲かるリードタイムを設計できなければ面白くありません。納期遵守は当然ですが、納期遵守は競合もやっています。

 

・能力VS負荷を把握できているか?

貴社では、毎度、能力>負荷だから日程計画に組み込もう、能力<負荷だけど日程計画に組み込もう、などの判断をしています。ここを勘や経験だけで乗り越えようとすると現場で摩擦が生じます。理由はいわずもがなです。

 

などなど、日程計画を生かすには知識体系が必要です。まずは、お作法から理解します。我流でない知識を使った方が結局近道です。体系を使ってください。

 

 

 

 

 

さて、生産管理用語辞典を紐解くと日程計画は3種類です。

大日程、中日程、小日程。

用語辞典では適用期間で定義されていますが、儲かる工場経営の観点では、経営者が願う人時生産性150%アップで儲ける論点に焦点を当てます。

 

・大日程:利益獲得

・中日程:あい路解消

・小日程:突発特急対応

 

上記が経営者の願望を実現させる各日程計画の狙いです。

日程計画にも役割と分担があります。

 

3つの日程計画の役割と分担を踏まえてスケジューラーを生かさなければなりません。

そして現場で最も使われるのが小日程計画です。

 

小日程計画は今日、明日、明後日、あるいは1週間ほどの作業指示を出す道具です。

・着手日時

・完了日時

・製品名(お客様先)

・数量

 

作業者はこれらの情報に基づき作業を組み立てます。

これが小日程計画の基本的な機能ですが、多品種少量生産、変種変量生産、モノづくりが高度化・複雑化している昨今、小日程計画が計画通り進むことは稀という状況になりました。

特急、突発案件も”普通“になっています。毎日、特急、突発が入って現場が混乱しまくっています・・・と嘆いている作業者が少なくないのです。

 

しかしながら、大手にはできないけれども、中小だからこそやれる要点がここにあります。つまり儲かる現場は突発、特急案件でその実力を発揮するのです。

中小現場の強みは駆逐艦の機動力です。戦艦大和ではありません。小回り性や柔軟性です。混乱を乗り越えるチーム力が中小の現場にはあります。

 

 

 

 

 

小日程計画は予定通りいかないものです。お客様の声に応えようとすればするほど、そうなります。お客様にも事情があるのでしかたがありません。

一方で先の経営幹部の言葉にはある思い込みがありました。

計画はその通りにやらなければならない。(変更される計画はあまり意味がない。)

 

そうではありません。計画を守ることなどはどうでもいいのです。お客様の要望に応える作業指示を出すことが小日程計画の役割です。

したがって、小日程計画は、お客様の要望を実現させるために、毎日変わるモノ、変えるモノと考えなければいけません。

 

小日程計画の実務では、しばしば、現場の工程室や詰め所のホワイトボードが使われます。当初計画に対する変更、修正、割り込みを消しては書き、消しては書くからです。

気軽に変更できないと使い続けられません。

 

現場のキーパーソン達は計画変更に注目しています。いつ何が起きるかわかりません。応需援性を発揮するにも、相互補完するにも、情報を把握することからです。

そして、何かが起きたら、キーパーソン達はすぐにホワイトボードの前に集まって、どうしたらできるか?知恵を出します。これが小日程計画を生かす正しい姿勢です。

 

突発や特急を出すお客様にも事情があります。競合がやりたがらないこうした案件を積極的にこなせば、お客様との信頼関係もできるというものです。

当然ですが、突発・特急をこなすことは容易なことではありません。だからこそ、チーム力です。一人で悩むものではありません。

 

 

 

 

 

計画外の突発・特急はやっていられないという現場があったら論外です。

現場の考え方を正さなければいけません。ただ、これも思考回路によるものです。小日程計画は変わるのが普通と考える思考回路を新たに植え付けます。

 

・小日程計画は計画通りでないことが普通だ。

・小日程計画は変更するのが当たり前だ。

・計画変更に対応できるようにするのが現場の仕事だ。

・応受援性高く、相互補完のチーム力をやるので一人で悩むことではない。

・突発、特急案件は価格でプレミアが付く上に、お客様からの信頼も獲得できる。

 

「ウチは業界の駆け込み寺です」と宣言しながら商売をしている経営者がいらっしゃいますが、そこの現場の思考回路はどうなっているか?言うまでもありません。

小日程計画を生かす思考回路を植え付けるのは経営者の仕事です。それが普通になってしまえば、突発、特急案件も普通になります。

 

 

 

 

 

日程計画は生産活動の羅針盤です。先の企業は、新たな羅針盤の使い方に挑戦しながら、さらなる高みを目指します。

突発、特急案件への対応力アップは、儲けを積み上げる具体策のひとつです。日程変更はイケナイコトダとの思い込みを外します。お客様の要望に応えるのですからイイコトです。

 

ただし、闇雲にやってはだめです。思い込みを外すには手順があります。プロジェクトで手順を踏むことです。

 

日程計画にはお客様の声が反映されています。お客様要望で日程計画が変更されるのは当然と考える思考回路はお客様目線に通じます。

現場の都合で計画外はやれないとか言っているようでは早晩、お客様に選ばれなくなります。予定どおりでない=お客様の要望に応えている。イイことなのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、小日程計画は変更が当たり前と考えて、突発、特急を普通にこなす。

停滞する現場は、やれるとかやれないとか自分の都合を考えて、すぐできないと言う。