「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第277話 高品質で安価なら儲かるという神話の崩壊後は?

「先生、売れ筋を見つければお客様が喰いついてくれます。」

先日、ご相談いただいた中小自動車部品メーカー幹部の言葉です。

 

お客様の構成はOEMとアフター市場が半々です。

コロナ禍の影響を受け、OEMが振るいません。

自動車業界は苦境に陥っています。大手自動車メーカーは減産です。コロナ以前の生産量に戻るのは23年との予測もあります。

 

一方、アフター市場は意外と堅調です。自動車にこだわりを持っているユーザーさんがいます。こうした市場は景気の影響を受けにくいものです。

黙って待っていてもOEMからの受注が復活することは、当面、望めません。その中でOEM減少による収益悪化を回復させる必要があります。収益回復戦略です。

 

話を伺うなかで出てきたのが冒頭の言葉です。

戦略の切り口が見つかりました。

 

 

 

 

 

製造業の収益構造が「固定費VS付加価値額」である以上、付加価値額の積み上げで貴社の命脈を保つ以外ありません。投資と回収です。

黙っていても受注が舞い込む時代ではない限り、コスト削減だけでは行き詰ります。「外」があっての「内」です。したがって、利益UP、給料UPの要点は下記の2つとなります。

・付加価値額の規模を成長させる。

・人時生産性を5,000円、6,000円、7,000円・・・と伸ばす。

 

中小製造経営者は貴社独自の儲かる工場経営の要諦を実践しなければなりません。売上高至上主義では儲からないからです。付加価値額の規模と効率に注目していますか?

 

付加価値額=Σ(@付加価値額×販売数量)=Σ{(単価-@変動費)×販売数量}(※)

この式から付加価値額の規模を成長させる具体策が出てきます。貴社のビジネスモデル次第では、さらに分解して考えなければなりません。

 

先日、自社商品(日常用品)で市場へ直接に働き掛けるビジネスモデルのご支援先と「販売数量をお客様数×購買頻度×1回当たり購入数量」にまで分解しました。

このご支援先とは「購買頻度に変化があって・・・」と言う議論になりました。付加価値額の規模を成長させる論点は多様です。いろいろあります。

 

ただ、どんな場合であれ、(※)式から見えてくる付加価値額規模を成長させる本質は単価にあります。限定的な品種数の製品を大量に生産していた頃の低価格では儲かりません。

多品種少量生産が時代の流れです。付加価値額の規模を成長させるキモは単価アップにあります。高く売るのです。少品種多量生産時代の低付加価値額のままでは辛くなります。

 

 

 

 

 

日本の中小製造企業には神話があります。

「(親事業者が言うとおりに)高品質のものを安く、たくさんつくれば儲かる」

こうした時代があったのは事実です。80年代、高品質はメイドインジャパンの代名詞であり、製造業の生産性も先進国のなかでトップクラスでした。

いわゆる現場力で稼いでいた時代です。

 

しかし、その後、時代が変わりました。多品種少量、マスカスタマイゼーション、マスラピッドなどなど。高品質のものを安く、たくさんつくっても儲からなくなったのは明らかです。

国内製造業の栄枯盛衰は国際競争力の推移を知れば分かります。

 

2000年、今から20年前、日本の製造業労働生産性はOECD加盟国中、1位でした。トップです。それが2018年時点で、16位まで後退しました。

・日本が怠けていたのか?

・世界が進化したのか?

 

前者なわけはありません。後者です。

データを読み解けばわかります。日本が怠けていたわけではなく、頑張っていたけど世界に取り残されたのです。

 

2000年からの18年間で日本の製造業労働生産性は16%アップでした。

一方、欧米ではスイス(2位)が147%アップ、米国(4位)が88%アップ、フランス(13位)が70%アップ、ドイツ(14位)が82%アップです(カッコは2018年時点での製造業労働生産性順位)。

 

確かに、日本もアップしています。ただ、その上げ幅が小さいのです。小さすぎます。頑張り方が間違っていました。そのことは認めなければなりません。

人時生産性が低いと、何がどうなるか?経営者の皆さんは分かっています。

米国では昨今、大学新卒者の年収が600万円台に達しているようです。国内では300万円前後、10数年前から伸びていません。これでは若手が気の毒です。こうした事態になります。

 

 

 

 

 

「高品質のものを安く、たくさんつくれば儲かる」という神話は崩壊しました。利益アップ、給料アップには、経営者のコペルニクス的転回が必要です。

納期遵守、コスト削減だけに囚われていませんか?「内」の活動だけやっても儲かりません。「外」に合わせて「内」を変えてこそ儲かります。

 

ですから、高く売ることを考えるのです。

1.高く売ることを考える。

2.そして、高く売ること実現させるように「内」を変える。

 

先の幹部は市場動向を把握しています。アフター市場の売れ筋を把握しているのです。付加価値額の積み上げにこだわる経営者や幹部は「外」に精通しています。

付加価値額の源泉は「外」にしかないことを知っているからです。

 

自動車部品にこだわりを持つ消費者層が一定水準存在します。自動車部品としての機能だけでなく、嗜好品の要素があるからこそのこだわりです。

機能はそこそこ水準でも、嗜好品の要素を強化すれば、単価を高く設定しても売れる可能性がある。この幹部はこのような見通しを立てています。

機能の水準よりは、嗜好性を追求した方が付加価値額は高くなるということです。貴社はこうした高く売る観点を持っていますか?市場を知らないと見えてきません。

 

 

 

 

 

「高く売ること考える」=「嗜好性を追求する」

先の企業はこう考えました。だた、今の現場では量産対応が難しいようです。したがって、これから、現場を変えます。現場には今のやり方を変える必然が出てきました。

高く売ることを実現させるように「内」を変えます。利益アップ、給料アップに反対する従業員はいません。

 

「高く売る」を実現させる方針、戦略をひねり出すことからです。

答えは「外」にあります。

中小現場管理者時代、お客様のところへ足しげく通った経験があります。このとき、幸いにも答えがそこにありました。

 

貴社ならではの「高く売る」を見つけたら、次はそれの検証です。ロードマップに整理します。闇雲に進んではダメです。固定費VS付加価値額、3つの人時生産性など、本当に儲かるのか?現場へ説明できない限り着手しません。

判断基準を明らかにします。数字に語らせることが必要です。その後、現場を変えるプロジェクトをスタートさせます。ロードマップとプロジェクトで幹部の育成です。

 

1.高く売ることを考える。

2.そして、高く売ること実現させるように「内」を変える。

 

「高く売ること」は簡単なことではありません。簡単なことではないですが、これをやらないと行き着くところは、低価格での価格競争・・・。貴社は疲弊します。

差別化で価格競争を回避するのです。弊社も経営者の方と一緒に知恵を絞っています。できることからやればいいのです。手法は無限です。

 

 

 

 

 

付加価値額の積み上では、コスト削減と共に、高く売ることを優先して考えます。コスト削減、薄利多売のみでは辛いからです。

優先順位の高い社長業のひとつは、この「高く売ることを考える」です。

お客様は、どのようなメリットがあったら、高くても貴社の商品、製品を選んでくれるでしょうか?

 

「では、嗜好性を追求するロードマップからですね。」

その幹部は次にやることがわかっているようです。それに基づいて現場活動に着手します。現場も腹落ちするはずです。

今度は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、高品質で安くつくれば儲かるという神話を放棄し高く売ろうと考える。

停滞する現場は、高品質で安く、たくさんつくれば儲かると信じてやり方を変えない。