「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第279話 今までのやり方は間違っていない
「やればできると実感できました。」
プロジェクトが仕上げ段階に至った中堅製造企業、経営者の言葉です。
展開している事業をまだまだ成長させられると考えています。ただし、何らかのブレークスルーが必要です。受注活動と現場活動の意識改革が必要であると考えました。
そこで、経営者ご自身が受注活動の改革を主導する一方、現場活動の改革をプロジェクトリーダーとサブリーダーに託しました。現時点で、いろいろな制約があるのは分かっています。
それでも成果を信じて次世代を担う人材を抜擢して活動に着手しました。その結果が冒頭の言葉です。現場の変化を感じます。
人時生産性向上プロジェクトのフィールドは3つです。「内」「外」「製販一体」。製販は一体でなければなりません。製販分業では儲からないからです。
企業活動は、外部環境(外)の変化に合わせて社内(内)を変えることと言われます。企業は「変化適応業」、「変化創造業」です。
外部環境の変化に気付いた経営者や幹部は、「改革をしなければならない!」との思いを抱きます。従来の仕事のやり方では生き残れないと肌感覚で感じ取るからです。
改革は生き残りをかけた必死のプロジェクトでなければなりません。決定的にトップダウンです。ボトムアップの改革は存在しません。経営者や幹部の覚悟次第です。
経営者や幹部が必死になれば、プロジェクトも必死になります。経営者や幹部が、まぁ、それなりにと考えれば、それなりのプロジェクトで終わるのは当然です。
先の企業のプロジェクトでは経営者の「必死」を理解したプロジェクトメンバーが倦まず弛まず地道に取り組みました。その成果です。
経営者の言動以上の成果が現場から生まれることはありません。経営者や幹部が理念や将来を繰り返し、繰り返し語ることが必要な理由がここにあります。
プロジェクトは3つの改革で構成されます。
現場改革
意識改革
構造改革
現場改革では、お客様(外)に合わせて、現場(内)を変えなければなりません。そして、儲けの源泉は全て外にあることに気付かせることです。ここから経営者目線になります。
意識改革とはお客様目線を知ることに他なりません。こうして貴社独自の儲けの体系と手順を構築します。構造改革とは儲かる体質に変わることです。改革にも手順があります。
現場改革とは今の仕事のやり方を「変える」ことです。ビフォーとアフターを比べます。これまで気付かなった問題点がいやでも言語化され、リスト化されるのです。
「ウチはなんでこんな状況になったのだ・・・」
将来を見通すと焦りが生まれます。
「ビフォーからアフターに変わらなければならないことは理解できるけれども、何をどうやったらいいのだろう?」
見通しが立たないと自信も揺るぎます。いきおい弱い気持ちが出てくるかもしれません。
「これまで一生懸命にやってきたけど、何か間違っていたのだろうか?」
焦って、望ましいアフターに変えようと手を打ちますが、現場は変わろうとしません。焦りが募るばかりです。
個別面談やご支援のなかで、経営者や幹部がこうした焦る気持ちを吐露されることがあります。改革は現状を否定することから始めるので、これまでは間違っていたのか?という考えに囚われるのです。
ただ、これはある意味で正常なプロセスです。変わろうとする前向きの意志があるからこそ目指すアフターが見えてきます。見えれば、いやでも今の仕事のやり方とのギャップが目につくのです。
変わろうとしなければ、そもそもギャップに気付きません。
貴社のこれまでのやり方は正しいのです。間違っていません。
だからこそ今日まで事業を継続させられました。そうでなければ、とっくの昔に事業が行き詰まっています。
今、まずまず儲かっているなら、それが答えです。したがって、現場も変える必要がないと考えます。これは自然なことです。しかし・・・・。
私たちは常に「技術革新」と「競合の追い上げ」に晒されています。現状維持では生き残れないのが製造業です。事業のステージを高めて、価格競争を回避します。
現場はそのことを知りません。現場改革の初手は知らせることです。闇雲に着手しようとしても失敗します。手順を踏んでください。
事業のステージを高めようと考えるなら、仕事のやり方を変える必要があります。改革では現状を否定することから始めますが、それはあくまでステージアップのためです。
従来の仕事のやり方が劣っているのではありません。
水準に応じた仕事のやり方に変えるだけです。
裏山に登るのと、富士山に登るのでは、同じ山登りでも準備すべきことが異なります。ステージに応じたお作法や知識や体系を組み込まなければなりません。
それをやればいいのです。それを決断した貴社は競合よりもすでに一歩前へ出ています。
・これまで事業を継続できているなら、今までの仕事のやり方は正しい。
・ただし、事業のステージを高めたかったら、仕事のやり方を変えなければならない。
・改革では現状を否定することから始めるが、それはステージアップのため。
・これまのやり方が間違っていたわけではない。
自分のことは自分が最も知ることができないと言われます。物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になることがしばしばです。
認知バイアスです。
自分は間違っていない、自分は大丈夫だと思い込むのにはそうした背景があります。
逆に、現場改革はできないかもしれないとの思い込みもあります。これまで自ら何度やっても、失敗が続けばそうした思いに囚われるのも仕方がありません。
先の経営者に必要なのは後押しでした。外部の力を上手に活用した結果です。客観的な評価を得られました。ちょっとした後押しで進むことがあるのです。
自分のことは自分が最も知ることができないというのなら、外の力を借りれば解決できます。コロナ禍で失われた時間を買い戻すことにもなるのです。
無理を承知でも、挑戦したからからこそ手にできたものがあります。「やればできる」という実感です。冒頭の言葉です。
次世代を担うプロジェクトリーダーやサブリーダーも同様です。自ら変化を起こせるという自信は次へつながります。
ご支援先の現場で感じることがあります。どんな現場にも「心意気」を示してくれる中堅や若手がいることです。さらには、陰ながら支えてくれるベテランもいます。
貴社にも使命感を持った人材がいるはずです。
そうした人材は経営者や幹部の思考回路をすでに持ってくれています。改革を進めて、利益アップ、給料アップを実現させようという考え方をしてくれる人材です。
現場改革はそうした人材に活躍してもらう場となります。そうして、経営者や幹部の思考回路を一人ひとりの作業者へ埋め込むのです。
新たなやり方に変えるのです。思考回路を入れ変えなければなりません。グレードアップではなく、ヴァージョンアップです。
人時生産性向上プロジェクトの初手は納期遵守以外の論点を知ってもらうことです。
今までの経験からやれない、できないと思い込まないことです。
貴社には今日まで積みあげた実績や歴史があります。良いところは引き継ぎ、次世代にそぐわないものを捨てて、変えればいいのです。
・良いところを引き継ぐ
・次世代にそぐわないものは捨てる
・望ましいアフターに変える
貴社の使命感を持った人材を生かせばできます。経営者と幹部が主導してやり切るのが改革です。やればできます。
今度は貴社が成功する番です!
成長する現場は、これまでの経験に囚われず思い込みを排除して現場改革をやり切る。
停滞する現場は、今までの経験からできないと思い込み、現場改革に着手しない。