「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第281話 技術ノウハウを大切に扱う雰囲気があるか?

「あえて図面に記載しないのです。」

先日、個別相談をいただいた30人規模、産業機器メーカー幹部の言葉です。

 

コロナ禍の影響で売上高が低迷しています。幸い底を打ったようですが、お客様からの新規受注が減っており、年商ベースでもコロナ前に戻っていません。

既存のお客様に働きかけ、さらに新規のお客様との出会いを探る必要があります。積極的に接触し、お客様に興味を持ってもらわないと、数ある選択肢から選んでもらえません。

 

ウチはお客様にどんな「価値」を提供できるのだろうか?

新たな付加価値額の積み上げは、そうした素朴な疑問からスタートします。闇雲にやっても上手くいきません。

 

ご相談いただいた先の企業では、部品の製造プロセスに特長があるようです。部品は外注が多いですが、キモの部分は内製化しています。そこにノウハウがあるのです。

そうしたノウハウが製造設備の図面に整理されているのかと思いきや、意外な言葉が返ってきました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

製造業は技術の世界で戦っています。自社技術を磨き続けなければなりません。歩みを止めると、技術の進化と競合先の追い上げに負けます。

技術革新のスピードが加速度的にアップしている昨今、「できないこと」を「できること」に変えられる、胆力を持ったチームだけが豊かに成長発展するのです。

 

戦いを放棄した瞬間、私たち中小製造企業は「人工」で稼ぐしかない下請け業に成り下がります。利益アップ、給料アップどこではありません。その日を生き残るだけで精一杯です。

だからコア技術を磨きます。

2つの技術を磨くのです。

・固有技術

・管理技術

 

下請けモデルの事業でもしっかりやれば儲かるので、貴社が持つ技術ノウハウは整理される必要があります。お客様から選ばれることに貢献している「技術」が対象です。

 

対象が先端技術や先進技術である必要はありません。先のご相談いただいた企業でもそうです。技術の先進性が優れていたわけではなく、普通にある、既存技術の組み合わせで、競合が実現できないお客様にとってのベネフィットを創出しています。

 

整理の対象はそうしたノウハウです。せっかくのノウハウです。「権利」として保護することも考えなければなりません。

 

 

 

 

 

ご存じのように、技術の世界では新規性や進歩性のあるアイデアを独占的に使用する権利(排他的権利)を獲得できます。特許です。

特許法に従い、出願してから20年間、そうした状況をつくれます。後願者を排除して、技術を独占的に使用できる権利です。

 

ただし、特許出願すると1年半後にその技術内容が公開されます。

したがって、技術を公開しても、宣伝により事業を有利に展開できるなら、特許の出願は絶対です。権利の存在を証明しながら優位性を確立できます。

なにせ私たちは技術の世界で戦っているのですから。

 

しかし、特許には新規性・進歩性等の要件が必要です。工学上の先進性がなければ取得できません。さらには特許出願料、特許料の維持費用がかかります。

特許の重要性は論を俟ちませんが、ノウハウ保護を目的として特許出願をするか否かは議論の余地もあるのです。

 

特許出願がダメなら、実用新案というのもありですが・・・。貴社の強みを技術ノウハウとして秘匿したいなら「営業秘密」で保護するというやり方もあります。

独占的に使用することをねらうのではなく、自社のノウハウを守るのです。不正競争防止法に従い、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報を保護します。

 

貴社が持つ技術ノウハウが秘密として管理されていて、広く知られことがなければ、知られることがない限り、無期限で保護されるのが営業秘密です。

さらには、特許と異なり内容を公開する必要がありません。

・特許は特許法に従い、内容を公開する必要がある。

・営業秘密は不正競争防止法に従い、内容を公開する必要はない。

 

 

 

 

 

営業秘密も知的財産のひとつであることは知っておいていいことです。工学的な先進性がなくても、貴社のノウハウを保護できます。

3つの要件をクリアすればOKです。

1.秘密として管理されていること(秘密管理性)

2.事業活動に有用な情報であること(有用性)

3.公然と知られていないこと(非公知性)

 

貴社の事業に有益な、他に知られていない技術ノウハウや営業ノウハウを整理して、その文書に「社外秘」を押印し、保管していれば「営業秘密」になります。

こうしておけばノウハウを法的に保護できる状態になるのです。

 

 

 

 

 

「営業秘密」は、ノウハウを保護するという観点で、それ自体に意味があるのですが、自社の強みを大切にしようとする心構えを醸成するのにも重要な役割を果たします。

 営業秘密の対象となる技術ノウハウや営業ノウハウを整理して、共有すれば、自社にとっての大事な情報を保護する意識や雰囲気が現場に生まれるでしょう。

 

経営者の「これは秘匿する必要があるのだ」という説明を耳にした現場は、改めて自社の強みに思いを馳せるとともに、外部に漏洩してはいけないという意識も自然と醸成されます。自分の人生を掛けて働いている職場が不利になるような行為をやろうという従業員はいません。

 

・技術ノウハウは我が社の財産なのでチームで共有し、さらなる高みを目指してブラシュアップするのだ。

・技術ノウハウは自分で獲得したものなので、ほかのメンバーには明かさず、自分ひとりで抱えるのだ。

どちらの従業員が貴社が持つノウハウを大切に扱い事業の成長発展に貢献するでしょう?

 

 さらに、昨今は企業のコンプライアンスも重視されます。自社の営業秘密を漏洩させない姿勢と共に他社の営業秘密を侵害しない姿勢も求められるのです。

競合他社の営業秘密を手にしたからと安易に自社で展開するようでは法的にも当然ですが、仁義にもとるのは明らかです。商売は競争ですが、ルールもあります。

 

経営者が従業員へ教えなければならない商売上の躾です。経営者は従業員へ商売上のルールやマナーも教える必要があります。

 

 

 

 

 

自社の強みをお客様のベネフィットに変換できなければ選ばれません。先の企業では新たな技術戦略に挑戦します。

ただし、闇雲にはやりません。経営者陣が考えていることは現場にほとんど伝わっていないからです。このことは現場ヒアリングをすれば一発で明らかになります。

だから、ロードマップです。先の企業の人時生産性4,000円~5,000円で推移しています。上限を破る経営計画を立てたいと考えている幹部です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、技術ノウハウを営業秘密で保護しながら、チームで共有し高みを目指す。

停滞する現場は、技術ノウハウを個人で囲い込み、共有Hしないのでチームに貢献しない。