「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第288話 何から手を付けていいか分らないときは?

「これで頭の中がスッキリしました。」

中堅製造企業、製造部門を担当する経営幹部の言葉です。

3ケ月前からロードマップの作成に着手をしています。コロナ禍で業績が低迷しているところです。業績の底は打っていますが戻りが鈍いままです。

業界全体をウォッチしていると、これまでのやり方を続けても、ジリ貧と気付きました。親企業も伸び悩みに直面しています。

体制を刷新し、人時生産性向上プロジェクトのスタートを決断しました。3,000円前後いったりきたりでは生き残れません。ロードマップで目指すのは5,000円です。

海図と羅針盤を手にした幹部の顔はスッキリしたように見えます。口から出てきたのが冒頭の言葉です。

 

 

 

不確実性の時代。

VUCAの時代。

私達は今、将来を見通すことが困難な状況にあります。新型コロナ感染拡大による外部環境変化を予測した人はいたでしょうか?

 

例えば観光業を取り巻く変化は典型的な例です。

2003年、政府は観光立国を目指すと宣言しました。その結果、2003年当時で訪日外国人数500万人だったのが、2018年で3,000万人を超えたのです。インバウンド需要の取り込みで観光地が活況を呈しました。

 

政府が「2030年に訪日外国人旅行者数6000万人!!」を掲げていたのは2年ほど前のことです。それが、今や・・・・言うまでもありません。観光業に関連した業界は死ぬか生きるかの戦いに直面しています。

経済環境、自然災害など予測できない変化は起こるものだと考えなければならない時代になりました。

 

 

 

将来を見通すことが困難な時代である今こそ、中小製造企業経営者に必要なことがあります。「時代の流れ」を読むことです。読まない限り主導権を握れません。

 

私たち製造企業は技術の世界で戦っています。その技術は進化しているのです。

なぜ技術は進化し続けるのか?

人間には豊かに成長発展したい欲求、欲望があるからです。

 

衣食住が必要な限り、この欲求、欲望はなくなりません。便利さや快適さを知ったら、もとには戻れないものです。スマホを思い浮かべれば分ります。

 

技術は人間の欲求、欲望を実現させる手段です。

水力や蒸気機関による工場の機械化

電力を用いた大量生産

情報技術を用いたオートメーション化

そして今、IOT、AIを活用したモノづくり

こうした産業革命を経て、人間は豊かに成長発展してきました。これは将来も変わらないのではないでしょうか?時代の流れを読みたいのです。

 

まずは技術革新の流れを読まなければなりません。

SDGs、カーボンニュートラル、DXなどのキーワードに紐付いて新技術の市場への適用が進んでいます。そして市場やお客様の変化です。お客様に選ばれる基準は市場やお客様の欲求、欲望と共に変わります。

 

景気を読むのではなく、大きな時代の流れを読みます。そうすると、我が社が5年先、10年先のために、今やらなければならないことが見えてくるのです。

「外」、「内」、「製販一体」のフィールドに課題を設定します。時間軸も設定しなければなりません。計画が必要になる所以です。

 

 

 

不確実性の時代であるからこそ、経営者に必要なのは海図と羅針盤です。これらがあれば、どんな大嵐に巻き込まれても船が向かうべき方向は明らかになっています。

風や大波で船が左右に振られても、船首を向ける方向が分っています。分っていれば頑張れるものです。船長が抱く確信のもとに船員が団結できます。

一方、海図や羅針盤がなければ、船は風や大波に流されるままです。風や大波に身を任せるしかありません。どこに向かうかわからないのです。船員は不安になります。それ以上に不安を感じているのは船長自身です。

しかし、どうしようもありません。生殺与奪の権を大嵐に握らせてしまいました。神のみぞ知る状況です。これからどうなるのかを船員に問われても、船長は何も説明できません。

どっちの船に乗りたいですか?

 

 

 

儲かる工場経営の要点は人時生産性向上です。利益アップと給料アップを持続して実現したいのなら、これを高めるしかありません。

「高める」は意志や意図がなければできない行為です。生殺与奪の権を他人には握らせません。経営者が握ります。「高める」具体行動が必要です。

・やること

・時間軸

この二つを定めて経営者の意志や意図を言語化、数値化します。それがロードマップ、計画表です。時間軸がキモになります。計画は経営者の「優先順位」を表したものだからです。

 

先の幹部は、ロードマップを作成する以前から、いろいろなことを考えていました。

生き残るために、新たなやり方を模索しなければならないぞ。既存のお客様だけでは心もとないので、新規のお客様を開拓しなければ。ただし、新たなこと指示すると「やれない」と言う現場の風土も変えなければならない。今のベテランの言動のままでは若手も伸びない。そもそも、下請けだけをやっていてもダメだ・・・・・。

 

浮かびすぎて、頭の中がパンパンでした。何から手をつければいいのか分らないのです。焦って何かをやろうとすると、別のことが気になってしようがありません。優先順位を決めていないので、何から手を付けていいのか分らなくなるのです。

計画がなければ当然そうなります。

頭に浮かぶことをやっていれば、すぐに成果が出るような単純なモノづくりで儲かるわけはないのです。貴社のモノづくりも高度化、複雑化しています。作戦が必要です。

 

 

 

どんな頑張っても24時間、365日しかありません。そして、時間は失うと絶対に戻ってこない経営資源です。

時間軸を設定し、優先順位を決め、やることを順番にこなします。それを言語化、数値化したのがロードマップ、計画表です。

ロードマップとは経営者が考える優先順を従業員へ示したもの

 

大手と異なり中小の経営資源には制約があります。経営者もトップ営業で忙しいです。やらなければならないと分かっていてもできないことはたくさんあります。

それだけに経営者の頭の中を従業員に見せる必要があります。「今、●●をやらなければならない。」とともに、「今、〇〇はやれないので、待て」というのも重要なメッセージです。

 

 

 

ロードマップ(計画表)は予定表と違います。予定表は手順を示したもの、いわゆる標準書す。それにはできることが時系列に書かれています。

一方でロードマップ(計画表)は経営者の意志や意図、思考回路が書かれています。できないことをできるようにするためです。経営者が考えるやり方、目標が示されています。

 

できないことをできるようにしなければ人時生産性は高まりません。競合と同じことをやっていても儲からないのは商売のイロハです。

経営者はロードマップ(計画表)でできないことをできるようにするための優先順位を明らかにします。優先順位が分れば、頭の中はスッキリするのです。手順が分ります。

手順が分る=見通しが立つ

モヤモヤ感が払拭され、経営者はストレスから解消されるのです。

 

ただし、闇雲に優先順位をつけても上手くいきません。

優先順をつける基準は人時生産性向上にあるからです。取り組みの難易度であってはいけません。困難であってもやらなければならないことがあります。

優先順位をつけるにもお作法があるのです。

 

 

 

経営者は技術革新の背景を把握し「時代の流れ」を読みます。ただし、不確実性が高まる昨今、先が見通せず、不安になることも多いです。それは弊社も同じです。

ただし、経営者である以上、従業員に不安を感じさせてはいけません。そこで必要になってくるものがあります。「自信」です。根拠のない自信でも構いません。

経営者は自信を抱いている必要があります。

 

「我が社にはいつも何か大きな力が働いていてうまくゆくのだぁ。」「とにかくうまくゆくのだぁ。」という根拠のない自信でいいのです。

チームを引っ張るリーダーの弱気は現場へ伝播します。

 

根拠があろうがなかろうが自信を示さなければなりません。

そこで、「根拠のない」自信を「根拠ある」自信に変えるのがロードマップ(計画表)です。経営者の意志や意図による優先順が示されています。やれそうな気になるのです。

 

そして、さらには、「根拠ある自信」を「確信」に変えたいのです。

「自信」を「確信」に変えるにはどうしたらいいか?

それは、プロ野球界に入ったばかりの松坂大輔投手が語ってくれました。当時18歳です。“怪物”と言われたわけです。

 

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、ロードマップで優先順位をつけてできないことをできるようにしていく。

停滞する現場は、計画がないので何かをやろうとしても別のことが気になり長続きしない。