「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第303話 収益低下の非常事態を乗り切る体制があるか?
「うれしくなるものですね。」
生産装置メーカー経営幹部の言葉です。
この2、3年間、収益が低迷しています。コロナの影響もあって売上高が右肩下がりです。底は打ちそうですが、回復の兆しが見えません。
人時生産性が2,000円台に落ち込む月もあります。赤字基調です。とにかく付加価値額を積み上げなければ事業が行き詰ります。
非常時です。そのことは現場にも伝わっています。火事になっている家を目の前にしたら、後は行動あるのみ。付加価値額を積み上げる市場戦略、販売戦略に従って、全員営業、全品商売、製販一体です。
製造部門担当の経営幹部も経営者と一緒にお客様へ通い始めました。
数カ月が経過して、地道な取り組みが実を結び始めました。経営幹部が経営者と訪ねたお客様から新規受注を獲得できたのです。
その工場担当の幹部にとっては初めての経験です。受注を決めた瞬間のことを語ってくれました。冒頭の言葉です。
●お客様に選ばれる商品、製品を効率よくつくること。
儲かる工場経営の要諦です。まずは選ばれなければなりません。
お客様から、毎月、確実に、受注の電話が届くなら、選ばれることを気にしなくても問題はないです。旺盛な需要をこなすために、お客様も貴社をあてにしているからです。
すでに選ばれています。
しかし、旺盛な需要がなくなったら、お客様はどうするか?
その事業をやめる、より安価な調達先を探す、内製化する等々。お客様は貴社にとってマイナスのことを実行します。お客様も生き残りに必死なので仕方がありません。
黙っていたら、我が社はジリ貧です。そうであるなら、選んでもらえる新たなお客様を自分で探すのみです。
自分で新規の受注、新規のお客様を開拓する力。これを持たなければなりません。
人時生産性が低い場合、具体的には2,000円台から3,000円台前半で低迷している場合、原因は2つです。
・分母が分子に比べて大きすぎる。
・分子が分母に比べて小さすぎる。
前者はいわゆる人が多すぎる状態です。大手はこれを理由に手を打ちます。リストラです。昨今、しばしば報道される早期退職者制度が該当します。
大手では間接員のパフォーマンスが計測され、新たな付加価値を生み出せない間接員はそうなるということです。生み出す付加価値額に見合った人員になっていません。大手は分母が分子に比べて多すぎると考えるのです。
余剰人員を抱えられるのが大手のいいところでもあります。しかし、背に腹を変えられなくなるとこうなります。
一方、少数精鋭の中小は大手とは異なります。もともと体制がスリムです。したがって、人時生産性低迷の原因は分子が分母に比べて小さすぎるだけです。付加価値額の積み上げが足りていません。足りないのなら、積み上げなければならないのです。
お客様からの電話が届いたら仕事が始まると考える営業部門があります。
「お客様から届いた仕事を滞りなく製造に引き渡すのが営業の仕事なのだ~。」
こうした思考回路の営業部門には「開拓」の文字はありません。売上が低迷し人時生産性も低い数値でヨコヨコしていたら、赤字体質に陥る目前の危機的状況です。
付加価値額の積み上げが足りないのなら、その業務を最優先でやらなければなりません。緊急事態です。のんびりやっていられません。時間がないのです。当然、トップダウンです。
トップダウンで新規の受注、新規のお客様を開拓します。
やったことがなければ、これからやればいいだけです。従来の下請け型モデルで営業活動に経営資源を投じてこなかった経営者もこうした現状に直面して、外での行動を強化し始めています。試行錯誤で得られることが大切なのです。
早ければ早いほど有利です。腰の重い競合先を出し抜けば、それだけお客様に選ばれる確率が高まります。外での活動はできるとかできないとかではなく、やるかやらないかです。
付加価値額を積み上げる外での活動の標的は2つです。
・既存のお客様
・新規のお客様
闇雲にやっても疲れます。しっかり作戦を立ててからそれぞれの標的に働きかけるのです。前者を標的にした場合、「深掘り」で働きかけます。
既存のお客様との付き合いは長く、今さら新たな受注などないだろうと考えがちですが、その既存のお客様を深掘りするのです。
中小管理者時代にその職場で新たに始めたメンテナンス業務は深掘りで見つけました。
また、先の幹部もそうです。経営者と一緒にある既存のお客様を訪問した際、こんな風に一声掛けられて、新規の受注が決まったのです。
「わざわざ、足を運んでくれたので●●●さんにこの案件をお願いしようと思います。」
仕事が獲得できなくて苦しんでいた中での新しい仕事の依頼です。嬉しくないはずがありません。いきさつをお客様に伺うと、どこにお願いしようかと決めかねていたとのこと。
直接に足を運んだ成果以外の何物でもありません。お客様がそう説明してくれました。深掘りの成果です。
「お客様に選ばれるとはこういうことなのですね。」
その経営幹部の言葉です。成功体験は次へつながります。全員営業、全員商売、製販一体へ一歩近づきました。
・既存のお客様の深掘り
地域、業界、お客様、どんな領域でもいいので、お客様に選ばれるネタを磨き上げ、そこで目立つことを目指します。
何か刺さるものがあればお客様は貴社のことを思い出してくれるのです。貴社のことを憶えてもらわなければなりません。足を運ぶのも具体策のひとつです。
汗をかけば何かが変わります。競合と同じことをやっていても儲かりません。
付加価値額を自分で積み上げられないと経営者は苦しくなります。生殺与奪の権を他人に握られてはダメです。自ら握ります。
自分で付加価値額を積み上げる力を持った中小製造企業だけが生き残ります。
マーケティングの理論によると生き残るのは原則ナンバーワンだけです。したがって、行動あるのみ。
新規のお客様を開拓する前に、既存のお客様に働きかけるやり方があります。具体行動はここからでもイイのです。
外での活動に不慣れでもこれなら具体的に動けます。
トップダウンでやります。必要なら現場も参加です。
あるご支援先でのこと。現場生え抜きで職人気質の工場長がお客様の現場へ足を運んだ結果、その現場のキーパーソンと仲良くなり、これがビジネスに重要な結果をもたらしました。
全員営業、全員商売、製販一体の実践です。これは分担とか体制というより、従業員マインドの話かもしれません。我が社に貢献したいという志の有無次第です。理屈はありません。
既存のお客様の深掘りにも儲けは潜んでいます。お宝を掘り出すのです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、全員営業、全員商売で既存のお客様を必死に深掘りして宝を掘り当てる。
停滞する現場は、相変わらず既存のお客様からの電話を待つだけなのでジリ貧が続く。