「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第306話 儲けの羅針盤がないとなぜ不安になるのか?

「これならどの事業で儲けられるかがわかります。」

 

大型部品中堅メーカー経営者の言葉です。先日、収益向上策のご相談をいただきました。

売上高は右肩上がりで堅調です。工場を新設しながら事業を拡大しています。お客様から届く仕事をドンドンこなせば結果がついてくるステージです。

とにかく今は、足元の収益を確保することに集中すればいいですねという話になりました。

 

3億から5億へ、5億から10億へ、10億から20億~30億水準へ成長するそれぞれのステージに至ったとき、経営者は勢いに乗る時期があるようです。

苔むした石を転がそうと力を入れても、石はすぐには回りません。ただ、苔がベリベリとはがれて一旦回り始めると、石に勢いがつき、回り始めます。そんなステージです。

ここではそれまで培ってきたチーム力が花開きます。全般的に調子がイイ感じです。

 

しかし、経営者は不安を感じています。

会社全体で収益確保ができていることは分かっていますが、個別の事業、個別の商品・製品では、儲かっているのか、儲かっていないのか把握できていません。

今はいいですが、将来へ向けてどこをどう強化すればいいのか?ここが今一つはっきりしません。一抹の不安を感じるのです。

 

収益力を高めるには、儲かる事業に集中するのが王道です。「デパート」は儲からない時代となりました。経営者は儲けの羅針盤を手にする必要があります。

いくつかの事例を目にして先の経営者は「なるほど」と納得しました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

製造業は技術の世界で戦っています。技術の進化と競合の追い上げに晒されています。そんな中で事業を継続させなければなりません。

現状維持は相対的な後退です。市場からの退場を余儀なくされます。そのための将来投資です。人と設備への投資が欠かせません。その原資が利益です。

 

売上高-費用が利益の定義式です。工場全体で生み出す利益はこの式で計算できます。経営者は費用が売上高を上回らないように目を光らせるわけです。

先の経営者は、「今」の利益をしっかり確保しています。

 

マクロはミクロの集合体です。工場全体で生み出す利益を拡大させたかったら個々の事業や個々の商品・製品の儲ける力を高めなければなりません。

利益を生み出す原動力は個々の事業、個々の商品・製品です。経営者はそれらの儲ける力を把握している必要があります。

将来の収益力を高めるには、儲かっている事業や商品・製品に経営資源を集中するのが王道です。そうであるなら、儲かっているものと儲かっていないものの見極めが大切になります。

そうでないと、選択もできなければ、集中もできません。

 

先の経営者はここに不安を感じていました。儲けの羅針盤がなければ、目隠しされた感じで心配です。

「蓋を開けなければ結果は分からない。」

不安の原因は儲けの羅針盤がないことにあります。経営者は枕を高くして寝られません。

 

 

 

 

 

利益は工場経営全体、マクロの成果として得られます。そして、マクロはミクロの集合体です。したがって、工場全体で生み出す利益を増やしたかったら、個々の事業、個々の商品・製品で生み出す利益を増やせばイイ・・・・・・と考えたくなります。

しかし、当コラムでお伝えしていますが、個々の事業、個々の商品・製品で生み出す「利益」は計算できません。計算できるのはあくまで儲け、付加価値額です。

なぜ、「利益」を計算できないか?これも当コラムで繰り返しお伝えしていますが、儲かる工場はチームで仕事をするからです。製販一体、全社一丸、営工一体。そうした仕事ぶりを間接費の配賦で評価できません。

生産量基準、工数基準など、理屈をつけて機械的に配賦はできます。ただ、そうやって計算された個々の事業、個々の商品・製品の利益にどれだけ客観性があるのかは疑問です。

無理やり理屈をこねるとは、恣意的とも言い換えられます。現場のキーパーソン達は恣意的に計算された利益に納得するでしょうか?

 

 

 

 

 

製造業の収益構造は「固定費vs付加価値額」なので、個々の事業、個々の商品・製品で計算すべきは利益ではなく、儲け、付加価値額です。

これは配賦で計算された個別利益と異なり客観的です。儲けの規模が大きければ大きいほど固定費回収が進みます。

個々の事業、個々の商品・製品で生み出す「付加価値額の規模」がミクロの儲けです。ミクロの儲けが積み上がり、マクロの儲けとなります。

そうして、それらが社長の意志の表れである固定費を回収するのです。儲かっている、儲かっていないを見極める判断基準のひとつは「付加価値額の規模」です。

 

儲かっている、儲かっていないを見極める判断基準がもうひとつあります。現場の制約項目です。多くの中小現場は投入工数に制約があります。

工数は不足しているからと言って容易に増やせません。また、働き方改革が標榜されている昨今、残業、休出もスマートな仕事のやり方ではなくなりました。仕事の密度が問われます。

投入工数が制約項目なので、儲かっている商品・製品と儲かっていない商品・製品の見極め判断基準に「工数当たりの儲け」が加わってくるのです。

こちらは「付加価値額の率」と言えます。

 

儲けの羅針盤は付加価値額の「規模」と「率」で整理できます。儲けの羅針盤で儲けの勘所が分かるのです。固定費回収の源泉を設計できます。

儲けの羅針盤を手にできたら、最早、蓋を開けないと・・・・ではありません。これがあれば経営者は枕を高くして寝られます。

 

 

 

 

 

儲かっている商品・製品と儲かっていない商品・製品を見極める判断基準に何を選択するかは重要な課題です。現場の制約が判断基準になると先述しました。

多くの中小現場では投入工数に制約があるので「工数当たりの儲け」を考えます。

 

例えば、「売上高当たりの儲け」も判断基準になりそうですが、売上高は制約項目ではありません。売上高の付加価値額率は儲かっている、儲かっていない判断基準としては不適です。売上高の付加価値額率はビジネスモデルで決まる数値です。使い方に留意します。

 

面積が制約項目になる場合があります。生産能力はたっぷりあるけれども、出荷待ちで製品を保管する倉庫スペースに制限がある工場の場合です。そうした工場は倉庫の空きスペースに合わせて製造します。「スペース当たりの儲け」が見極め判断基準です。

 

また、自社トラックだけを使って、お客様へ全製品を出荷している工場を想定します。製品在庫なしを前提にすると、制約項目はトラックで運搬できる製品の物量です。生産計画はトラックの運搬量で決まります。この場合は「運搬量当たりの儲け」が見極め判断基準です。このように儲け、付加価値額の率は制約で決めます。

 

 

 

 

 

儲けの羅針盤で規模と率を見える化します。人時生産向上活動で欠かせない仕事です。闇雲に、詰めて、空けて、取り込めばいいわけではありません。標的を明らかにするのです。

儲けや制約項目の定義をしっかりやる必要があります。このあたりは我流でない方がいいかもしれません。設定した各種定義を客観的にチェックしてもらうことも大切です。

大手と中小の事情差を考慮した定義も必要だからです。

 

チームで仕事をする現場は儲けを積み上げた結果得られるものが利益であると知っています。リードタイム短縮の意義も分かっています。

儲けの羅針盤を見せれば、納期遵守以外の活動にも自主的にやってくれるはずです。経営者はますます現場のことを現場へ任せられて楽になります。

 

人は見通しがなければ不安になります。

今は苦しいが、将来の見通しがある。

今は楽だが、将来の見通しがない。

経営者にとってはどちらが好ましいかは明らかです。持続的な競争優位を確立するには将来が見えていなければなりません。先が見通せないから不安になります。

先を見通すのに必要なのは、将来の飯の種です。将来も稼げる商品・製品、サービスを手にしていれば先を見通せます。儲けの羅針盤が教えてくれるのです。

羅針盤がなければ、何をどう強化していいのかわかりません。お客様に主導権を握られた商売をするだけです。経営者は不安を感じます。

先の経営者も経営判断に使える儲けの羅針盤をつくろうと決意したようです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、儲けの羅針盤にしたがって自主的にリードタイム短縮を目指し動き出す。

停滞する現場は、個々の製品で利益を生み出すと考えるから納期遵守以外の動きがない。