「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第311話 指示導線をつくらせようとしていないか?
「期待の人材が会社を辞めてしまい困りました。」
個別相談をいただいた中堅製造企業経営者の言葉です。昨年、起きたことにさかのぼり、説明が始まります。
一昨年、中途の従業員を採用しました。意欲的な中堅従業員です。工場長候補としてあるプロジェクトのリーダーを担わせることにしました。
プロジェクトがスタートした時点では、その中堅従業員も張り切っていました。が、その後、言動に変化があったようです。経営者も気になっていました。
声を掛けてフォローもしていたようですが・・・結局、残念なことになりました。ご相談の要点は今後のプロジェクトの進め方です。
製造現場の仕事は2つです。
・納期遵守の仕事(緊急度が高く、重要度も高い仕事)
・納期遵守以外の仕事(緊急度は低いけれど、重要度は高い仕事)
お客様から提示された納期は守らなければならないことは概ね現場に理解されています。商売の基本です。
どんな現場でも「前者の仕事」はこなしています。それができないと、そもそも会社は残っていません。
前者の仕事=「今」の仕事です。
このあたりは、工程管理のお作法でチーム力を生かすのが王道ですが、やり方を知らなくても、現場担当者がやろうと思えばなんとかやます。
力尽くでもこなしていれば儲かる時代なら、それで十分でした。
ただし、時代は変わりました。
削減の時代から積み上げの時代へ。
黙っていても、電話が鳴って仕事の依頼が届く時なら、後はコスト削減に精を出し、ひたすら仕事をこなせば利益が残ります。
しかし、昨今、黙っていると、電話は鳴りません。自ら受注を獲得し、自ら付加価値額を積み上げなければ成長は限定的です。従来のビジネスモデルを続けているだけでは、経営者ご自身が価格競争に疲弊します。
だからこそ、今、下請け型モデルの中小製造企業には「生殺与奪の権」を自ら握るビジネスモデルづくりが求められているのです。それが後者の仕事です。
後者の仕事=「将来」の仕事です。
・お客様に選ばれる商品や製品を効率よく造る。
・そのために詰めて、空けて、取り込む。
・儲かるタイムマネジメントでリードタイムを短くする。
利益アップと給料アップを目指し、人時生産性を5,000円、6,000円と伸ばすのです。納期遵守以外の仕事とは「生殺与奪の権」を自ら握るビジネスモデルづくりに他なりません。
ただし、現場はそうした仕事を余分で面倒なことと感じるものです。「将来」の仕事です。今、やらなくても、当面は困りません。だからやる必然性を感じないのです。
納期を守る日々の仕事に加えて、やらなければなりません。現場では、やったことがない仕事も求められるのです。そうなると「やらなくてもイイのに」という思考回路が生まれます。
人時生産性向上プロジェクトの定着は一筋縄ではいかないのです。
これをやらないと我が社は生き残れない。我が社を変えるのだ。まだ見ぬ将来のお客様に我が社を選んでもらうためだ。納期を守る日々の仕事に加えて、時間を割いてやって欲しい。協力を願う。
経営者の叫びです。
経営者から本気と覚悟が示されない限り、現場に定着しないのが「生殺与奪の権」を自ら握るビジネスモデルづくりです。トップの明確な意思表示からスタートさせます。
経営者は、構想を言語化、数値化するのです。時間軸を示し、段階を踏みながら進める手順を現場に知らせます。マイルストーンを示したロードマップがその作戦書です。
ロードマップを手にした幹部や工場長は経営者が考える時間軸、スケジュール感を理解します。そして幹部や工場長は、ロードマップを実現させる現場活動計画を立てるのです。
幹部と工場長が経営者構想の具体策を現場へ提示します。
現場活動計画を目にした現場キーパーソンは、実務を作業者一人ひとりに指示するのです。
そして作業者は指示された業務をこなすことに専念します。
経営者の構想が幹部と工場長を通じて、作業者への指示となって現場へ伝わります。これが指示の導線です。指示導線がなければ、納期遵守以外の仕事は定着しません。この仕事は力尽くではできないからです。
トップダウンがあるからベクトルが揃います。トップダウンが道標を知らせているのです。
納期遵守の仕事は、経営者の下、全従業員がフラットな構造でもやれます。下請けモデルで製造工程が2工程程度の現場なら、都度対応の立ち話でこなせるからです。
ベテランが自分の裁量で仕事をクローズできる程度の製品なら指示導線はいりません。そもそも一人で仕事をするほうが気楽です。
チームで仕事をするのは意外と大変です。納期遵守だけなら、今まで通りのやり方でも問題ありません。わざわざチームでやることもないのです。
だったら現場は気楽に今まで通り、自分の裁量で仕事をやるでしょう。そこに、チームで仕事をやる思考回路は存在しません。
経営者が狙うのは、2割、3割ではなく、2倍、3倍の成果を狙う経営改革です。一人でやれる仕事などたかが知れています。いよいよチーム力が問われます。トップダウンの経路がなければなりません。
トップの意思表示で始めるのが人時生産性向上プロジェクト、「生殺与奪の権」を自ら握るビジネスモデルづくりなのです。
ですから、事前準備として絶対に必要なのが指示導線づくりになります。プロジェクトをはじめる前に、経営者は指示導線を自ら作る必要があります。
組織表があっても形骸している現場は少なくないです。トップダウンの指示伝達を阻害する要因があったらその要因は排除するか、隔離する必要があります。阻害要因を放置していると、指示導線が機能しません。
ご支援にあたって、ベクトル揃えを重視しているのは指示の導線を機能させるためです。
先の企業で、意欲的な中堅従業員が辞めるに至った原因は、その中堅従業員に導線づくりも期待したことにありました。
指示導線が構築される前です。プロジェクトを進めと、今までのやり方でもいいだろと考える従業員も出てきました。いわゆる抵抗勢力とも対峙することになります。
どんなに意欲があっても、一般の従業員はそれに対応する術を知りません。対峙する対象がベテラン相手となればなおさらです。意欲も徐々に削がれていきます。
人間は感情の生き物です。どんなに強力な「ドライブ」を持っていても見通しが立たなければ行き詰まります。経営者自身が指示導線をつくることに時間を割くべきでした。
成功するプロジェクトには手順があるということです。闇雲に始めても上手くいきません。
指示導線づくりは経営者が一刀両断でやるものです。組織表に経営者が考える我が社の指示導線が示されます。当然のことですが、導線づくりは従業員にできません。
そして、指示導線があれば、下記のようになります。
・経営幹部や工場長は社長の考え方を理解して、社長を支援する。
・現場キーパーソンは社長の考え方を理解して、経営幹部や工場長を支援する。
・作業者は社長や経営幹部、工場長の考え方を理解して、現場キーパーソンを支援する。
チームは「上」を向いて仕事をしなければなりません。「下」ではありません。指示導線で上向きにするのです。こうした環境なら先の中堅従業員も前職の経験を力一杯、活かせたことでしょう。
将来のお客様のことを知っているのは経営者だけです。まだ見ぬ将来のお客様に我が社を選んでもらうために我が社を変えなければなりません。
納期遵守以外の仕事は全て「将来」を向いています。現場にまだ見ぬ将来のお客様のことを理解せよと訴えてもムリです。緊急性が低いので、現場はその重要性を理解できません。
だから、指示導線が曖昧なプロジェクトは雲散霧消します。経営者の意志や意図が現場に浸透しないからです。健全な危機感すら共有できません。
ご支援する立場として、これがプロジェクトが行き詰まる原因と考えています。
一人でも多くの経営者に「生殺与奪の権」を自ら握るビジネスモデルを手にしていただきたいのです。多くの経営者も価格競争を回避したいと考えています。
人時生産性3,000円、4,000円台で甘んじてはならないのです。会社を、現場を、つくり変えます。改革です。だから指示導線を機能させます。
プロジェクトリーダーに力一杯仕事をしてもらう環境の整備は経営者にしかできません。弊社はこれからも挑戦する経営者をご支援していきます。
貴社には指示の導線がありますか?
次は貴社の番です!
成長する現場は、まだ見ぬ将来のお客様のために我が社を変えて生殺与奪の権を手にする。
停滞する現場は、納期遵守の仕事に追われるうちに価格競争に巻き込まれ疲弊していく。