「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第313話 我が社の「はやい」をお金にかえるには?
「設備担当者の困りごとを解決できます。」
産業設備企業、経営幹部の言葉です。
自社商品の強みを整理し直しています。付加価値額積み上げのためです。待ちの営業だけでは付加価値額が積み上がらないことに気付きました。固定費回収に至らないのです。
経営陣で営業活動を強化しようとしています。儲からない下請け型から儲かる下請け型モデルへの転換を図ろうとしている経営幹部です。経営陣でお客様を訪問します。
ただ手ぶらではお客様の興味を引けません。そこで改めて「我が社の商品」の強みを整理して、それを訴えようとしています。
強みの伝え方や伝える対象者を考えていた時、先の幹部から発言がありました。
冒頭の言葉です。
我が社の強みはお客様の欲望や願望を実現して初めてお金になります。
困りごとを解決できた!
できなかったことができるようになった!
それを手にしてほんとうによかった!
貴社の商品や製品を手にしたお客様がこうした感情を抱いてくれないと、貴社はお客様の最終選考に残れません。選ばれないのです。
あまたの競合の中から選んでもらうには相当の理由が必要となります。そうでないと行き着くところは価格競争です。
中小製造企業が価格で選ばれるビジネスモデルで戦ってはダメです。これは規模の経済を武器に規模の小さい競合を駆逐する大手の戦略ですから、中小が同じことやっても疲れるだけで持続的な成果は出ません。
私たち中小製造企業はあくまで差別化戦略でやります。あまたの競合から貴社を選んでもらう中小の生き残り策です。
差別化=強み=お客様の欲望や願望を実現させる源泉
自動車部品工場勤務時代、足回り部品の軽量化ニーズに対応した技術開発、製品開発に携わったことがあります。自動車燃費向上を目的としてお客様から軽量化の要求が高まってきた90年代中盤の頃です。
お客様は足回り部品の軽量化を望んでいる。
従来工法でもある程度の薄肉化、軽量化はできる。
しかし、薄肉化、軽量化をすると強度や剛性が劣化し、強度要件を満たせない。
お客様の困り事は薄肉化、軽量化と強度要件を両立させられないことである。
したがって、我が社の強みが、薄肉化、軽量化と強度要件を両立させる固有技術にあれば、その強みはお金になります。
当時、そうした固有技術を持っていなかったので、それを強みにしようと開発に挑んだわけです。製造業は昔も今も技術の世界で戦っています。
総合力で仕事を進めた結果、幸いにして成果を得られました。お客様の困りごとに焦点を当てた技術開発、製品開発です。
リードタイム短縮は人時生産性向上のためにやります。空けて、詰めて、取り込むためです。コスト削減だけで生き残れない今、付加価値額を積極的に積み上げなければなりません。
お客様の納期に合わせて製造していているだけでは儲からないのです。我が社が儲かる納期で製造します。リードタイム短縮が手段となる所以です。
そして、圧倒的なリードタイム短縮はお金になる可能性があります。貴社で扱っている商品や製品の業界平均リードタイムはどれだけでしょうか?
仮に業界平均リードタイムが30日とします。それに対して貴社での平均リードタイムが15日だったらどうでしょうか?業界の半分です。
この水準ならお客様の困りごとを解決することに貢献できるかもしれません。
30日に対して、1割、2割の短縮では注目されなくても、5割なら圧倒的です。圧倒的なQCDはお客様の興味を引きます。
リードタイムが圧倒的に短いとお客様に2つの貢献が可能です。
・短納期で納められる。
・製造着手を遅らせてもお客様の納期に納められる。
業界平均では30日かかります。それが、貴社にお願いすれば、お客様は15日で依頼品を手にできるのです。
受注が決定してから、短納期で納められれば、お客様の仕事はドンドン進みます。お客様は喜びます。
また、業界平均リードタイム30日に対して貴社では15日です。
業界平均では、お客様へ届ける納期に対して、30日前に図面や受注条件などが決まっている必要があります。お客様は納期の30日前までに全ての仕様を明らかにしなければなりません。
また、リードタイムが30日では、受注決定後、貴社での製造中に、お客様から仕様変更のお願いが届くかもしれません。お客様にもお客様がいます。すると、貴社では段取り変更や作り直しが必要になるのです。
一方、貴社にお願いすれば、15日前までに決めればイイのです。お客様にとっては検討の余地が2週間増えます。
お客様での検討の余地が2週間長くなると、最終仕様決定後の変更が起きるリスクも減ります。これは貴社にとっても助かることです。
リードタイムが圧倒的に短ければお客様に2つの貢献ができます。
「早い」はお金になるのです。
先の企業では自社商品の性能のうち、処理速度、速さに注目しました。業界平均より一桁上です。業界平均が数百なら、我が社の商品は数千水準を提供できます。
この「桁違い」の強みはお客様のどんな困りごと解決に貢献できるのだろうか?
これが明らかにならないと、「ウチの商品は速いです。」と訴えたところで、お客様も「ふ~ん」で終わります。お客様の興味は自身の困りごと解決だけだからです。
したがって、お客様には、「ウチの商品は速いです。」ではなく、「○○の困りごとを解決できます。」「○○が新たにできます。」のように説明できないと刺さりません。
さらには、「刺さってもらう対象者」も明らかにする必要があります。「誰に」刺さるように伝えるか?です。受注案件の実質的な決定者を外したら、強みはお金になりません。
子供を塾に通わせようとして、塾を選択する際、決定権者は子供かもしれませんし、親かもしれません。塾の経営者はどちらかを選んで自分の塾の良さを伝えます。それと同じです。
受注の窓口はお客様の購買担当や資材担当であっても、貴社の商品や製品を手にして実際に使用するのは工場の製造担当者や設備担当者です。受注決定権者は意外な人かもしれません。
これは社内にいても分からないことです。経営者の仕事場は「外」にあります。
先の企業では、刺さる対象者は設備担当者であるかもしれないと考えました。そこから、新たな強みが導かれました。そのことを伝えている競合先はないようです。
競合先と同じことをやっていても儲からないのが商売ですから、その観点からも期待できそうな強みです。刺さってもらう対象者が的確なら、「速い」もお金になります。
先の企業では速いがお金になるよう現場の製造のやり方を見直します。こうしたお金になるビジネスモデルを考えるのが経営者の仕事です。
経営者が考えたお金になるビジネスモデルの実現できるように現場を作り変えます。現場の活動は全て、経営者が考えるビジネスモデルからスタートです。
お金になるビジネスモデルを構築するのには時間を要します。先述の自動車部品工場時代での取り組みは、開発着手から製造開始まで3年以上の時間がかかりました。
だからロードマップが必要です。
将来○○を目指したいから、我々は今、●●をしなければならない。この逆算の発想はロードマップでしかできません。
ご支援先の経営者の方々は、ご自身で書いては消し、消しては書いて、経営計画をご自身の血や肉にされています。
そもそも魂の込められていないロードマップは床の間に飾った掛け軸のようなものです。「ふ~ん」で終わります。
ロードマップは連合艦隊司令長官から発せられた作戦書です。実施してなんぼのもの。つくったロードマップを床の間の掛け軸にしてはなりません。
強みをお金にできないまま、時間が無為に経過します。手順を知ってロードマップを作るのです。お作法があります。それをさっさと知って実践に着手です。
時間はドンドン過ぎていきます。
先の企業は「速い」に加えて、これから「早い」にも挑戦します。2~3年後の我が社の売りが浮かびますねとは経営者の言です。
次は貴社の番です!
成長する現場は、決定権者に我が社の強みで解決できる困り事を伝え、強みをお金にする。
停滞する現場は、我が社の強みだけを伝えるのでお客様からの反応は「ふ~ん」に留まる。