「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第317話 経営改革の土台となる2つの要点とは?

「事業を大きく伸ばしたいのです。」

30人規模自動車部品メーカー経営者の言葉です。

年商5億円まで事業を成長させました。しかし、今、壁に直面しています。これ以上、年商を伸ばせないと感じている経営者です。社長業に専念できていますか?と尋ねると、こんな言葉が返ってきました。

「やりたいことが頭にいろいろ浮かぶのですが、全く進まず悶々としています。」

製造業で成長発展するには事前準備が必要です。山登りと同じです。裏山、富士山、エベレスト。登頂を目指す山によって装備が違います。

裏山を登る格好で富士山を目指したら失敗するのは明らかです。先の経営者はエベレストを目指して全力を尽くしたいとのこと。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

GDPが右肩上がりの90年代までなら、主要なお客様や親企業の指示に従ってさえいれば間違いはありませんでした。しかし、00年以降、外部環境は変わったのです。

従来のやり方を続けていても儲からなくなりました。国内平均賃金が20年以上も横ばいという事実が証左のひとつです。経営者の力技であろうが結果が出ました。

これまでは「たまたま」よかったのです。

しかし、今後はそうはいきません。経営者の力技で工場を回すやり方を変えたかったら、会社の構造を作り替えます。

 

力尽くでは経営者は社長業に専念できないので忙しいままです。成長発展どころではなくなります。生き残りで精一杯です。

下請け型モデルでも儲かるように変えなければなりません。コア技術の高度化が成長発展の要点です。コア技術=固有技術+管理技術。今の延長線上に答えはありません。改革です。

 

 

 

 

 

コア技術の高度化に特効薬はありません。試行錯誤しながらやるので時間が掛かります。成果物は新たな固有技術や管理技術の定着です。新たな「思考回路」を手にすることです。

裏山にしか登ったことのない人が富士山やエベレストに登るには、それなりの準備が欠かせません。指南役も大事です。新たな技術を手にする際、挑戦的な経営者は時間を買います。

また、新たな思考回路を手にするからこそ、それにふさわしい高度化した固有技術や管理技術が現場に定着するのです。年商規模に応じた品位や品格とも言えます。

 

コア技術の高度化は「すぐできる」「簡単にできる」ことではなく、「時間がかかる」ことです。時間を味方に付けて商売を充実させます。

製造経営者には投資の考え方が求められるのです。

製造業の収益構造は固定費vs付加価値額。固定費は先行投資です。固定費でコア技術を高度化します。その固定費を付加価値額で回収しなければなりません。

人時生産性が儲ける力を示す所以です。

 

コア技術の高度化で製造業界を勝ち抜きます。QCD決定権を持たなければ富士山級、エベレスト級の成果を手にできないのです。投資の考え方を実践します。

そのために仕事のやり方、思考回路を変えるのです。しくみづくりの土台を準備します。

 

 

●納期ではなく、目標人時生産性に合せた仕事のやり方に変える

●4階層を機能させる仕事のやり方に変える

 

 

●納期ではなく、目標人時生産性に合せた仕事のやり方に変える

コア技術高度化の本質は「できない」を「できる」に変えることにあります。技術開発や商品開発です。競合に先駆けて「できない」を「できる」に変えた企業がお客様に選ばれます。

下請け型の事業モデルの現場の多くは「納期」に合せて仕事をこなしてきました。納期遵守は商売の基本ですからそれ自体に間違いはありません。

しかし、モノづくりが高度化、複雑化した昨今、それだけでは儲からないのです。納期に合せた仕事をやっているうちは2倍、3倍の成果は出ません。

 

納期に合せるのではなく、目標の人時生産性に合せて仕事をするのです。4,000円、5,000円水準と7,000円、8,000円水準では世界が違います。

納期が8月30日でも8月20日には仕事を完了させます。完成品は出荷場へドンドン送り込めばイイのです。完成品在庫が増えますが、出荷が約束されている在庫なら問題ありません。デッドストックが問題となるのです。

ドンドン仕事をこなして新しい仕事を現場へ入れます。空けて、詰めて、取り込むのです。そうして人時生産性を高めます。

 

24時間連続操業で盆暮れ正月以外は生産を止めない工場の経営を任されたと考えて下さい。どうやって人時生産性を高めるか?少しでも手離れ良く仕事をこなそうとするはずです。

リードタイム短縮で2倍、3倍の成果を手にしようとするなら自働化、無人化、機械化、設備化、新たな設備が欲しくなります。設備投資です。

老朽化更新ではなく、人時生産性向上を目的とした設備投資を考えるようになります。

 

納期に合せた仕事からは生まれない思考です。そもそも納期に合せた仕事のやり方をしているから納期遅れが起きます。

リードタイム短縮モードの現場は納期に合せた仕事のやり方は卒業済です。そうした現場は、裏山ではなく、富士山級、エベレスト級の成果を目指しています。

 

「できない」を「できる」に変えることにコア技術高度化の本質があります。

競合に先駆けた「できない」を「できる」に変える技術開発や商品開発がキモであると考える思考回路が欲しいのです。

納期に間に合えばいいだろうとだけ考える現場は取り残されます。

納期ではなく、目標人時生産性に合せた仕事のやり方に変えれば、時間を味方に付けた設備投資の発想が現場に根付くのです。

 

 

 

 

 

4階層を機能させる仕事のやり方に変える

納期が8月30日の仕事を8月20日までに完成させよと現場へ指示を出すと「なんで10日も早く終えなければならないのだ。」との声が返ってくる現場があります。

リードタイム短縮を実践し始めた現場でしばしば起きることです。工程管理担当者はそうした反応に晒されます。こうした事態は解消しなければなりません。

指示の導線がない現場ではこの事態が放置され工程管理担当者はイヤになり、人時生産性向上活動は雲散霧消します。

 

30日ではなく、20日までに仕事を終えるのには目的があるのです。利益アップ、給料アップのためです。他でもない社長がそうしようと目論みました。

それにもかかわらず現場から「なんでそんなことをやるのだ?」との声が出てくる原因はただひとつ、社長の指示が現場末端にまで届いていないからです。

 

経営する人、管理する人、指示する人、作業する人の4階層を機能させます。管理する人は経営者を支援し、指示する人は管理者を支援し、作業する人は指示する人を支援する体制です。これが指示の導線です。

 

指示導線が機能している現場は富士山級、エベレスト級の成果を目指します。2倍、3倍の成長発展を手にしたいからです。

製品の1つひとつに利益がぶら下がっているわけではないこと、給料を増やす要点は製造業の収益構造(固定費vs付加価値額)にあること。これらを理解した現場は裏山級の成果に満足できなくなります。

売上高が増えたかからといって給料が増えるわけではないからです。富士山級、エベレスト級の成果を目指します。

 

ただし、2倍、3倍の成果は簡単に達成できないものです。経営者も無理を承知で目標を設定します。簡単にできないので、全社一体、製販一体です。

管理する人は経営者を支援し、指示する人は管理者を支援し、作業する人は指示する人を支援する体制があってプロジェクトはダイナミックに動きます。

指示導線があれば、あらゆる業務が「社長の指示なのだ。」と現場は理解するのです。

 

支援先のある企業でのことです。プロジェクトリーダーが社長指示をあるベテランへ伝えたところ、次のような言葉が返ってきました。

「社長でもないのに、なんでそんな指示をするのだ。」

指示導線がないと不思議な言葉が返ってきます。

 

管理する人は経営者を支援し、指示する人は管理者を支援し、作業する人は指示する人を支援する体制で「納期遵守以外の仕事」を果たします。

人時生産性向上の重要度はむちゃくちゃ高いですが、緊急度が低いです。したがって、現場にその意義を理解させない限り、プロジェクトは継続しません。

 

現場はイイ意味でも、悪い意味でも「納期遵守脳」になっています。

ただそれでは富士山やエベレストの山頂には辿り着かないのです。思考回路を変えなければなりません。時間を味方につけた思考回路のヴァージョンアップです。

経営者は4階層を機能させる仕事のやり方に変えるために、プロジェクトを使って人材へ投資します。お金と時間を投じて、経営者の思考回路を従業員へコピーするのです。

 

 

 

設備と人への投資が製造業で生き残り、勝ち続ける要点です。時間を味方に付けてしくみづくりの土台を準備をするのです。経営者には投資の考え方が求められます。

 

納期ではなく、目標人時生産性に合せた仕事のやり方に変える

4階層を機能させる仕事のやり方に変える

 

 

 

 

 

「大きく事業を伸ばしたいのです。」と語った経営者がまずやることはやりたい事を言語化、数値化することです。頭の中が見えないと従業員も何をどう変えていいのか分りません。手順があるのでそれからです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、4階層を機能させて、目標人時生産性に合せた仕事のやり方で成長する

衰退する現場は、属人的なやり方で納期だけに合わせた仕事のままなので成長できない