「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第319話 新たな注文を獲得する方針書をつくっているか?

「先生、なかなか受注につながりません。」

20人規模装置メーカー経営者の言葉です。

長年お付き合いをしているお客様からの受注が、ここ数年で減っています。一昨年、固定費削減も決断した経営者です。

コロナ前までは堅実に利益を出し続けていました。損益分岐点比率も80%前後と優秀でした。しかしコロナ感染拡大と時を同じくして売上が減っています。ピーク時の30%減です。

 

売上高がここまで下がると損益分岐点云々ではありません。喫緊の課題は新規注文の獲得です。営業担当が一人いますが、これまで窓口役しかやっていませんでした。

 

顧客を開拓し、新たな受注を自ら獲得するのが営業活動ですが、それをやっていなかったのです。「営業」を再定義して、まずはトップ自ら実践することにしました。

売上計画を立てます。初めてのことなので試行錯誤です。経営者は出来上がった計画に基づいて動き始めました。しかし計画通りに進みません。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

売上の大部分を主要なお客様や親企業に依存している企業があります。特定企業への依存は良くないと言われますが、少数精鋭の中小製造企業にはありがたいビジネスモデルです。

 

営業コストをかけなくても注文を獲得できます。親企業から電話で注文が届くのです。窓口役さえ置いておけば問題は生じません。造れば売れる時代では、ある意味で合理的な方法でした。最小コストで付加価値額を積み上げられます。

 

黙っていてもドンドン注文が届くなら、経営者はコスト削減だけを気にしていれば利益が出ました。しかし、時代は変わったのです。

積極的に市場と向き合わなければ、売上高を伸ばすどころか維持さえもできなくなりました。削減の時代から積み上げの時代へ。先の企業では新規注文を獲得するしくみが必要です。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営の活動フィールドは外と内です。付加価値額の源泉は全て外にあるので、外に合わせて内を変えます。したがって、経営者の仕事場は主に外です。

 

私達は製造業ですから、常に技術革新と競合の追い上げに晒されています。立ち止まることは相対的な後退です。お客様と競合が存在する市場に向き合わなければなりません。

取り残されないためです。

 

親企業も生き残りに必死です。長年、協力関係にあるパートナーへ配慮をする余裕もなくなってきました。突然の取引打ち切りもあります。

さらには、競合先との戦いにも勝ち抜き、お客様に選ばれないと受注に至りません。

 

そこで、我が社が生き残るのに必要な「受注量」を売上目標で明らかにします。黙っていてもその売上目標を達成できません。積極的に積み上げなければならないのです。

外で仕事をしながら、それに合わせて内を変えます。売上計画はそのための方針書です。売上の内訳と時間軸が示されています。

 

 

 

 

 

注文獲得の思考回路が「待ち」になっていたら、「取りに行く」思考回路へ変えなければなりません。

儲かる工場経営は固定費から始まります。製造業は投資で成長発展する業種だからです。固定費に経営者の意志や意図が込められます。

 

固定費を健全に成長させ、毎年、その固定費を回収する分の付加価値額を積み上げるのです。人時生産性を大手以上に高め、利益アップと給料アップの成果を全員で享受すれば、全社一丸、製販一体の雰囲気が醸成されます。

「取りに行く」思考回路があってこそできることです。

 

固定費→回収するための付加価値額→付加価値額を積み上げるための売上高→年間売上高の内訳→月間売上高の内訳

売上計画は固定費回収計画に他なりません。

 

先の企業では「自ら注文を獲得する営業」を実践しようとしています。初手は売上計画の立案です。そして、それに基づいて経営者が自ら行動します。

主要なお客様からの受注が減少している以上、新たな主要なお客様を開拓しなければ、ジリ貧です。固定費を回収する付加価値額を積み上げられません。

 

それまで自ら新規顧客を開拓した経験はありませんが、当たって砕けろ!です。経営者自ら身体を張ったことは従業員に教えられます。

こうして新たな思考回路が埋め込まれるのです。

新たな思考回路は実務を通じてしか埋め込められません。注文を自ら獲得するDNAがこうして形成されます。

売上計画が活動の方針書です。付加価値額を積み上げる内訳と時間軸が示されています。

 

 

 

 

 

売上計画では毎月の売上高内訳を明らかにします。

・規格品分の売上、特注品分の売上。

・既存のお客様の売上、新規のお客様の売上。

・商品群毎の売上

 

売上計画がないと計画未達時、具体的な挽回策を立てられません。固定費回収の見通しを立てられないのです。

計画があるから売上高内訳のビフォーとアフターを比べられます。比べた結果、差異が明らかになるのでアクションプランを立てられるのです。

売上計画はそれを達成するために使うというよりも、計画未達時の対応策を立てるために使うと言えます。

 

「待ち」の下請け型ビジネスモデルに慣れてしまうと、「計画未達時は対応策を講じてギャップを埋めなければならないぞ。」という思考回路が働きません。

「今月はいつもより売上高が少なかったなぁ」で終わります。売上高は蓋を開けないと分らないものだと思い込んでいるのです。

成り行きの工場経営になり、本気と覚悟に欠けます。いつまでもたっても仕事の質が高まらないのです。

 

 

 

 

 

計画がなければ「仮説と検証」ができません。

仮説を立てて、実績とのギャップを認識できるから検証が可能です。ギャップがあるので、ギャップを無くそうと頑張ります。その結果、仕事の精度が高まるのです。

計画を立てなければ、振り返りができず、いつまでたっても、仕事のやり方をブラシュアップできません。

同じ失敗を繰り返していませんか?

仮説と検証をやっていないからです。

 

・お客様の需要を見通せる。

・技術動向を把握できる。

・競合に先んじて手を打つ。

・最適な時期に設備投資をやれる。

 

仕事の精度が高いと、社長は的確に意思決定がやれるようになるのです。仮説と検証を繰り返し、失敗したら軌道修正するから仕事の質が高まります。

可能なら第三者に評価してもらい、精度を高める要点をアドバイスしてもらうのです。やりっぱなしでは、精度は高まりません。だまっていては同じことを繰り返すのが人間です。

 

経営者の第六感や勘は、時として正しい判断を教えてくれます。ただし、あくまで人事を尽くした後の話です。

手を尽くすし、もうこれ以上打つ手はない、という段階でなければ「大きな力」は作用しません。計画達成のためにあらゆることをやりつくした後に、「大きな力」が働きます。

ご支援先の経営者の方々から学ばせていただいていることです。

 

売上高は付加価値額積み上げの原動力です。計画は種々ありますが、経営者は売上計画を最優先で実践活用しなければなりません。

経営者は売上計画を使って、売上高を見通す力を磨くのです。

 

 

 

 

 

先の企業では売上計画を立てて、実務に着手しました。初めてなので試行錯誤です。ただし、毎年、繰り返せば分ってきます。

移動累計と合わせれば、徐々に精度の高い売上計画になるのです。大切なのはトレンドだからです。このあたり、手順があります。

 

勝手な自分のやり方ではダメですねとは先の経営者の言葉です。

ただし、今は1件でも多くの注文を獲得したいので、計画立案が勝手なやり方であっても、それに本気と覚悟が示されていればイイですよとお伝えしています。

立案のやり方が我流でも「計画」さえあれば、仮説と検証はできます。

 

「なかなか受注につながりません。」でもイイのです。普通は計画通りにいきません。だからこそ、売上計画を使うことに意義があるのです。

経営者の願望と現実のギャップを認識できます。それを埋めるのは経営者自身です。

売上計画は受注獲得の方針書です。

貴社は受注獲得の方針書をつくっていますか?

次は貴社が挑戦する番です。

 

成長する現場は、売上計画で仮説と検証を繰り返し、必達目標をクリアしながら生き残る

衰退する現場は、売上は蓋を開けないと分からないと思い込み成り行き経営で行き詰る