「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第320話 管理者は自分の仕事を理解しているか?

「先生、部長が期待通りに動いてくれません。」

 

先日、個別相談をいただいた経営者の言葉です。

自動車関連部品の事業を立ち上げた創業者社長です。これまでは勢いで事業規模を拡大させてきました。成果を出してきたのは素晴らしいことです。

ただ、工場経営にも段階があります。事業を健全に成長させたかったら「創業者の背中」で仕事をしている段階から「チームの連携」で仕事をする段階へ移行しなければなりません。

 

先の経営者もそのことを考えました。そこで、部課長と現場主任を任命し、組織を整備しましたのです。しかし、既に数年が経過していますが、上手く機能しません。冒頭の言葉です。

なぜ機能しないのか?

部長の仕事が明文化されていなかったからです。明文化されていないと、部長に指名された従業員も何をやったらいいのか分かりません。部長の仕事を決めるのは経営者です。

事業のステージを高めた結果、重層的な体制が必要になったのです。過去に実績はなく、これから作り上げます。初めてです。そうであるなら「部長の仕事」も決めないとなりません。

 

 

 

 

 

工場組織は経営する人、管理する人、指示する人、作業する人で構成されます。重層的です。トップダウンの指示導線がなければ、経営者の意志や意図は現場に浸透しません。

先の経営者が言及していた「部長」は「管理する」人です。指示導線の上から2番目に位置しています。部長の役割は指示導線の上から2番目に位置していることから決まるのです。

部長だから、部長の役割があるわけではありません。部長は「肩書き」に過ぎません。役割が先にあります。役割があっての肩書きです。

 

先の企業では「管理する人」の役割や分担が不明確でした。決まっていないのに、いきなり「部長」の肩書きを与えられても従業員は戸惑うだけです。

しょうがないので自分で考えつくやり方でやるか、あるいは分らないからやらないか、どちらかになります。社長の目論見とは違う方向へ行ってしまうのです。

 

 

 

 

 

組織を機能させるには、組織の存在目的を明らかにしなければなりません。存在目的を役割と分担で言語化します。管理する人の役割は次です。

・経営する人の考え方を理解して、経営する人を支援すること。

 

中小製造企業の場合、経営する人は社長となります。したがって、部長は社長の意思や意図を理解して、社長の願望を実現させるサポートをするのです。社長の願望を実現させるサポーター。これが役割です。

そして、役割を果たすために仕事遂行上のルールを決めます。これが分担です。部長が何からなにまで全てやるわけにはいきません。役割を果たす観点で分担が決まります。

指示導線の最上位と上から3番目とを繋ぐ具体業務です。ここで留意点があります。役割と分担をごちゃごちゃにしてはいけません。分担は役割を果たすためにあります。

社長を支援するためにやらることが部長の分担業務です。

 

 

 

 

 

日程計画を思い浮かべると「分担」が理解できます。日程計画は大中小3つの組み合わせです。日程計画は儲ける作戦書とも言えます。それぞれに役割があり分担があるのです。

 

大日程計画は経営者が考える年間利益計画です。ここから必要仕事量(負荷)が決まります。そして、必要な仕事量を確保できているかを月単位、日単位で確認するのが中日程計画です。必要な仕事量を確保できていなかったら手を打たなければなりません。

 

また、小日程計画は決定した仕事を確実にこなすために時間単位で指示する計画です。突発特急、変更など変化へ柔軟に対応することが求められます。

ここで大日程計画に対する中日程計画の関係を注目です。ちょうど経営者の対する部長との関係に類似しています。

「大日程計画に対する中日程計画の関係」

「経営する人に対する管理する人との関係」

 

 

 

 

 

社長は年間利益計画を立てます。そして、ある社長が考えた1年間の利益は12百万円とします。人時生産性を現在の4,000円台から5、000円台へ伸ばすためです。

逆算したら、それだけ必要でした。

 

そして、部長は社長が決めた利益計画を実現させるアクションプランを考えます。1か月あたり百万円の利益です。毎月、百万円の利益を出す仕事量を確保しなければなりません。

 

そこで、部長は今月、来月、再来月の向こう3か月間の仕事量を1日単位で管理しようと考えます。もし、今月分の注文が、利益80万円分の仕事量に留まっていたら、不足分を埋めるよう営業部門へ指示をするのです。

「利益20万分の仕事を獲得せよ。」

 

営業部門が動きます。当然、部長も日々、フォローし必要なら自らも出向くのです。そうして、なんとか利益20万円分の仕事を獲得できました。

 

営業関係者をねぎらった部長は早速、製造部門へ指示を出します。

「新たに仕事が決まったので、これも今月中に終わらせるように。」

 

製造担当者から反応がありました。

「今月はもう一杯一杯で仕事を入れられません。」

 

予想された反応です。そもそも社長の利益計画は少々ストレッチです。社長も無理を承知で年間利益計画を出しました。部長はそうした社長の意図を理解しています。現場が“できない、無理だ!”と言ってくるのを予想していました。

 

ただ、そもそも、できないことをできるようにするのが製造業です。部長は次のように説明をして、現場を導きます。

「なるほどむりかもしれない。しかし、社長はなんとしてでもやりたいと考えている。できるにはどうすればいいかを考えよう。」

 

現場主導の改善活動です。部長の後押しに応えた現場は追加分も見事にこなしました。こうして今月も百万円の利益を出せます。

部長の役割は社長の考え方を理解して社長を支援することです。指示導線が機能するので「指示する人」「作業する人」もその役割を果たすように分担業務を考えるようになります。

 

プロジェクトで訓練された工場の経営者はストレス感じることなく社長業に専念できるのです。訓練しなければそうなりません。今までのやり方を続けても同じことの繰り返しです。

時間だけが無為に過ぎます。

 

 

 

 

 

役割を果たすために分担実務をこなします。先の事例では、分担実務をこなすには、例えば、下記の仕組みが必要です。

・売上計画による注文内訳の見える化

・向こう3か月間の受注状況と能力/負荷の見える化

・利益百万円分注文の見通しを確認する月2回の定期ミーティング

・無理を承知でなんとか仕事をこなす改善をする月1回の定期ミーティング

 

分担をこなす仕組みです。2つあることがわかります。

・見える化

・定期ミーティング

 

判断するのに必要なのが見える化です。

人時生産性を高めるには納期以外の各種指標も気にしなければなりません。納期に合わせて仕事をしているうちは、それ以上の高みに至らないのは当然です。リードタイム、良品率、作業効率など、納期以外の各種指標を向上させる思考回路が求められます。

 

各種指標があれば、目標値が設定され、目標が明らかになれば実績と比べられるので、今のポジションが見えるのです。達成していなければ頑張りたくなります。数値で目標を示すと頑張りたくなるのが現場です。

そして、基準が見える化されていれば「管理する人」は判断ができます。判断できれば仕事がやれます。

 

そして、判断したことを伝える場が定期ミーティングです。

なぜ「定期」なのか?現場は年間12回の戦いをしています。その12回の戦いに備えた作戦会議は定期になるはずです。ミーティングを思い付きでやっているようでは負け越します。

 

 

 

 

 

「管理する人」の役割は経営する人の支援することです。経営者の考え方を伝えるには定期ミーティングは不可欠です。定期なので仕組みとなり、それが仕事となるのです。

・見える化

・定期ミーティング

 

部長に部長の仕事をしてもらいたかったら、見える化と定期ミーティングの仕組みを準備する必要があります。こうした準備抜きに、「肩書」を与えればやってもらえると考えていても無理です。それまで「部長」の役割を理解していた従業員はいなかったのですかから。

 

部長に部長の仕事をしてもらいたかったら、先の仕組みをつくった上で、部長は何をする人なのか、その役割と分担を明記した文書を手渡すことです。

 

そして、重層的な指示の導線は次のような構造になっていると気付かせます。

・経営者からのトップダウンであること

・各階層は全て上を向いていること

 

この構造を理解できれば自ずと役割と分担も分るのです。貴社には経営者の右腕役がいますか?訓練が必要です。先の経営者はそのことに気付きました。何もしないと時間ばかり過ぎていきます。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、管理する人の役割と分担が明文化されているので部課長が右腕役となる

衰退する現場は、部課長の肩書きがあるだけでやることが不明確なので右腕役が育たない