「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第322話 動機付けは自然発生的に生まれない、どうする?

「繰り返し言うことが必要ですね。」

個別相談をいただいた板金加工企業、経営者の言葉です。

 

現場を束ねていた工場長が最近、定年で退職しました。その業務を引き継ぐ人材がいません。事務所スタッフが分担で全体をまとめていますが、上手くいかず衝突が起きています。

次世代の工場長役を育成していなかったことが問題となりますが、いまさらどうしようもありません。これから工場長役を育てるだけです。

 

そするに当たり大切なことがあります。「工場長が不在だが、当面はチームで乗り切るので協力をお願いしたい。」という経営者の意志や意図を現場に理解させることです。

簡単ことではありませんが、やるしかありません。

冒頭のことばです。

 

工場長が不在なので、従業員1人ひとりの自発的な行動が期待されます。

従業員の動機づけも課題です。

 

 

 

 

 

・現場の意識を変えたい。

・作業者の自発的な行動を促したい。

・言われたことしかやらない現場を変えたい。

こうした課題を抱えている中小製造経営者は少なくありません。

モチベーション、動機付けに関わる課題です。経営者はモチベーションを理解して従業員に働きかけなければなりません。

 

モチベーションを神経科学的に捉えると次のように整理されるそうです。

1.モチベーター

   行動を誘引する視点となる間接的な原因

2.モチベーション・メディエータ

   行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態

3.モチベーション

  行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態を認識した状態

(出典:青砥瑞人「BRAIN DRAIVEN」)

 

きっかけを作る側(経営者)ときっかけを受ける側(従業員)を切り分けて考えます。

さらに、きっかけを受ける側(従業員)にしても、受けたきっかけで脳内に変化が起きるしくみと変化が起きたことを認識するしくみは異なるようです。

モチベーター → モチベーション・メディエータ → モチベーション

 

 

 

 

 

ある経営者が「全社一丸で生産性向上に取り組ませたい」と考えたとします。

まずやらなければならないのは、生産性向上の行動を誘引することです。

従業員へ働きかけをしなければなりません。そこで、経営者は従業員へ生産性向上の必要性を説き、全社一丸となって取り組むよう訴えます。(モチベーター)

 

経営者の訴えを耳にしたとき、従業員は経営者の本気や覚悟を感じとり、生産性向上の行動に対して、体内(脳内)で「ぐっ」とくる無意識的な内側の反応が起きます。(モチベーション・メディエータ)

 

そして、従業員は「今、自分は社長の話を聞いて“ぐっ”ときている。」と認識した状態に至ります。(モチベーション)

 

 

 

 

 

動機づけではモチベーターが欠かせません。

従業員の脳内に変化を起こすきっかけが必要です。黙っていても現場の脳内に変化は起きません。動機付けは自然発生的ではないということです。

現場が持つ思考回路に新たな刺激を注入して、脳内の変化を起こします。動機付けは経営者の訴えから始まるのです。

 

そして、次は従業員の脳内での変化となります。

・自分を「ぐっ」とさせる(モチベーション・メディエータ)脳の仕組み

・「ぐっ」ときていることを認識する(モチベーション)脳の仕組み

これらは異なるそうです。そして、先の著書によると、モチベーション・メディエータが発露していない人はほとんどいないとのこと。

モチベーションがない人、低い人は、それに目を向けていない、認知していないだけです。経営者の訴えを通じて、脳内に変化を起こし、「ぐっ」とくる自分に目を向けさせます。

「“グっ”とくる自分に気がつけよ!」という、経営者から従業員への働きかけです。

 

 

 

 

 

ただし、ここで留意点があります。

「他人と自分のモチベーションのあり方は、DNAレベルで異なり、体験による記憶が異なり、脳の配線が異なる限り、大きく異なる可能性が高い。

(出典:青砥瑞人「BRAIN DRAIVEN」)」

 

その人の生き様に影響を受けるということです。経営者が考えたモチベーション高揚の要因が従業員に当てはまるとは限りません。

そもそも経営者と従業員は目線の高さが異なっています。それに加えて、人の生き様に影響を受けるわけです。経営者が考えているようには、従業員は考えていないかもしれません。

ここは注意を要します。

 

経営者の訴えを通じて、脳内に変化を起こし、「ぐっ」とくる自分に目を向けさせるために、場合によっては、従業員との深い議論も必要です。なにせDNA水準で脳内に変化を起こさせようとするのですから。

繰り返し、繰り返し、繰り返し語ることです。そうして、「ぐっ」とくる自分に目を向けさせます。

 

従業員を「今、自分は社長の話を聞いて“ぐっ”ときている」と認識させる状態に導くのは容易なことでありません。

しかし、我が社の成長と発展にはどうしても全社一丸の構造改革が必要だとなれば、経営者も必死になるはすです。

 

経営者の本気と覚悟は従業員の生き様をも乗り越えた訴えになります。「せっかくの人生、我が社の生き様に乗っかってみないか?」という誘いです。

経営者の本気と覚悟に触れ、多くの従業員は「ぐっ」とくる自分に気付きます。

 

 

 

 

 

工場経営はトップダウンの指示導線で機能します。ボトムアップの工場経営はありません。中小の工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあるからです。

経営者の想いが先にあります。まずはトップダウンの指示導線です。そして次が従業員のモチベーションです。

 

従業員のモチベーションは自然発生的に生まれません。従業員の脳内に変化を起こす経営者による働きかけが必要です。

脳内に変化を起こす働きかけでなければいけません。一度や二度伝えたから、そうなるほど気軽なことではないのです。そうであるなら、しつこく、繰り返し、繰り返し語るだけです。

 

ご自身の想い、意志や意図を上手に現場へ浸透させている経営者に共通していることがあります。「伝えること」に熱心だということです。言葉を大事にしていると言い換えられます。

「ウチでも毎週月曜日に朝礼をしています。」と説明する経営者もいらっしゃいますが、ここでの論点は「伝えること」。伝わっていなければ、毎週やっていても意味がありません。

 

「伝えること」に熱心な経営者は、いつも伝えるには?と考えています。とにかく、繰り返し、繰り返し、繰り返しです。1回よりは2回、2回よりは5回、5回よりは10回。

 

中途半端な繰り返しはスルーされますが、圧倒的な繰り返しなら本気が伝わるのです。さらに、口頭だけでなく、文書や電子ツールなどもあります。定期的に1500文字以上の「手紙」を従業員へ渡している方もいらっしゃいます。

 

成果を出している経営者は工夫しています。伝える言葉を選ぶのです。言葉を吟味します。

経営者の生き様が反映されたメッセージなので、経営者の本気と覚悟は従業員の生き様をも乗り越えた訴えになり得るのです。ご支援先でそうした言葉に触れ、そう感じます。

要は経営者の本気と覚悟です。そうでなければ、モチベーションへつながる脳内に変化を起こす働きかけにはなりません。

 

 

 

 

 

さらに、「せっかくの人生、我が社の生き様に乗っかってみないか?」という誘いです。多くの従業員に「ぐっ」とくる自分に気が付かせます。

ただし、これは従業員1人ひとりの生き様が影響します。見極めが必要です。「変えられること」と「変えられないこと」を見定めて経営者は従業員1人ひとりに語ります。

 

個別目標管理シートはその具体手段です。上手く活用している経営者がいらっしゃいます。その経営者が工夫しているのは、従業員毎に、「ぐっ」ときているなと認識させる論点を変えていることです。

 

従業員の思考回路はその従業員の生き様で決まります。したがって、その影響でどんなに言っても経営者の期待に応えられないことがあって当然です。DNA水準の話ですからしかたがありません。

ですから、従業員1人ひとりの「変えられること」に焦点を当てて、この問いかけをするのです。

「あなたは我が社の成長と発展でどんな貢献をしてくれますか?」

各従業員に「ぐっ」ときていることに気付かせます。

 

 

 

 

 

黙っていても注文の電話が鳴っていた90年代までなら、コスト削減と納期遵守の観点だけでも儲かりました。

しかし、時代はすでに変わっています。付加価値額を積み上げる仕事のやり方に変えなければ生き残れないのです。

 

変わることが求められています。トップダウンと共に従業員1人ひとりのモチベーションが大事です。その仕組みづくりを急いでください。タイム イズ マネーです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、経営者が想いを繰り返し語るので本気が現場に伝わり動機づけになる

衰退する現場は、経営者は繰り返し語っているつもりだが現場にスルーされ変化はおきない