「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第323話 変えることへの抵抗を上手に乗り越えるには?
「材料が届かないので難しいです。」
計測機器メーカー、経営幹部の言葉です。
リードタイムは、全体の流れを把握しないと短縮できません。リードタイム内訳を分析するとボトルネックが見えてきます。
ボトルネック解消は、リードタイムを短縮する具体策のひとつです。ボトルネックの原因を探ります。
ある工程に焦点が当たりました。そこでの作業時間が長いのです。お客様から材料の支給を受けて加工しています。お客様から材料が届いたら加工するのです。
したがって、材料が予定通り届かないと工程リードタイムが長くなります。そうしたことがしばしば発生しているようです。
お客様からの材料支給日はコントロールできないのでボトルネック解消は難しいと経営者は考えています。冒頭の言葉です。
幹部の言葉から、自分たちのせいではないのでしようがないとの雰囲気が伝わってきます。
多くの経営者は人時生産性を3,000円台、4,000円台から6,000円台、7,000円台へと成長させる具体策が現状の延長線上にないことを知っています。発展には、改革が伴うからです。
製造業の関係者なら産業革命を知っています。今は4次の段階です。こうした「技術革新」があったからこそ、製造業は人類の進歩に貢献できているのです。
もし、1次産業革命のとき、蒸気機関導入に反対する馬車業者の圧力に負けていたら(仮定としても、ほとんどあり得ませんが)どうなっていたか?
今も馬車が移動手段の主役だったかもしれません。そこまで極端でなくても、痛みを伴う改革を避けていたら、進歩の速度は遅くなったはずです。
痛みを嫌って、今の延長線でしか対応策を考えられない経営者に導かれたチームがどうなるかは言うまでもありません。
変わる前にタイムアップになります。そうしたチームは永遠に変われません。
2割、3割の成果で満足するなら「改善」で十分です。ただし、経営者の願いはそんな水準に留まりません。2倍、3倍です。
そうであるなら「改革」です。現場改革、意識改革、構造改革。今、変えるしかありません。ご支援先での仕事の大部分はこの「変える」後押しです。
経営者は我が社を成長発展させ、利益アップと給料アップ(ご自身の報酬も含め)を図りたいと考えています。そのために変えるのです。変わらなければ、豊かになれないことを経営者は知っています。
一方で従業員は、変える必要はないと考えています。今のままがイイのです。困ってないのにどうして新しいやり方に変えるのだ?との思いが頭に浮かびます。
変えるときに留意することは、この考え方の差異です。思考回路の違いかもしれません。ご支援先の多くの現場もそうです。なぜか?
経営者と従業員では、
・目線の高さ
・時間軸の長さ
この2つが圧倒的に違うからです。経営者と従業員、立場が異なります。差がなければ逆に変です。差があってあたり前なのでそれを踏まえます。
したがって、現場に「変える」必然性を理解させるには、経営者の目線の高さと時間軸の長さを共有した情報を普段から伝えておかなければならないのです。
現場は日々の仕事に追われています。そうした合間にでも、経営者の想いを日頃から伝えておくのです。それをしておかないと、変えようとしたときに反発が生じます。
耳慣れない情報だからです。「変える」ことには地ならしが必要です。
したがって、社長業に専念したい経営者にとって、ロードマップは手放せないツールとなります。多忙な経営者に代わって、ロードマップは、幹部や現場キーパーソンに経営者の高い目線と長い時間軸を語ってくれるからです。
そして、改革に着手した際、現場で出くわす反応があります。
「お客様が悪いから、外注先が悪いから、取引先が悪いから」・・・「悪いのは自分たちではない」。できないことへの言い訳です。
・お客様から材料が届かないから・・・。
・外注先から部品が届かないから・・・。
・お客様は急に変更をするから・・・。
・営業が急に仕事を入れるから・・・。
・新人が仕事を憶えないから・・・。
等々、この手のコメントには枚挙に暇がありません。
「自分たちが原因ではない」と考えるからです。
ただ、これも当然の反応と言えます。よほど「器の大きい人」でない限り、できない原因をつくっているのは自分であると考えることはありません。
誰でも自分が一番かわいいものです。自分を正当化したく気持ちは理解できるでしょう。しかし、改革は「自分たちが原因である」と認めることからです。
例えば、お客様から材料が届かないために我が社の日程計画で製造できないというなら、お客様とそれに関する取り交わしを新たにするだけです。
長年の商慣習を見直します。“なあなあ”のグレー部分をお客様と議論するのです。
お客様との力関係云々を語る経営者がいらっしゃいますが、それはビジネスにもとる話です。曖昧部分を残した契約に原因があります。
お客様から材料が届かない問題がボトルネックになっているのなら、そこに焦点を当てなければなりません。その制約を放置している限り、お客様に価値を届けられないのです。
それを放置している我々が悪いとなります。自分を正当化したく気持ちを抑えることです。
社外の例を通じて、我が社の状況を理解させるのは具体策のひとつとなります。他の企業では何をどう変えて豊かに成長しているのか?事例を現場へ伝えるのです。
プログラムを通じて言動を変えてもらいます。
自分たちの何が至らないためにこれがボトルネックになってしまうのか?と全員で考えます。「自分たちにも原因があるのだ」に気付いたら、解決策はドンドン出てくるものです。
当事者意識がそうさせます。経営者の意志や意図を理解した成長志向をもっている現場には当事者意識を持つだけの「チームの器」が備わっているものです。
先の企業でもお客様へ相談することにしました。当然、我が社でできることは我が社でやります。こうしたことをきちんとやろうとする取引先は信頼されるはずです。
お客様も複数の取引先を抱えており、先の企業はその中のひとつにしかすぎません。その中できちんとした対応をしていれば、何かの折、選ばれるかもしれません。
曖昧さはお客様にとっても気持ちの悪いものです。
人は誰でも安定を望みます。したがって改革には抵抗がつきものです。一方で豊かな成長も望んでいます。経営者は抵抗を上手に乗り超えることです。手順を踏みます。
抵抗はあるものだと考えれば気は楽です。一人で悩んではいけません。
1.変えるための地ならしをしておくこと。(目線の高さと時間軸の長さ)
2.「自分たちにも原因があるのだ」と思わせること。(当事者意識)
改革を進める手順です。さじ加減が要点となります。要点を押さえた手順を踏めばさっさとやれます。ここは経営者が時間を無駄にするところではありません。
経営者が時間を割きたいのは社長業です。
次は貴社の番です!
成長する現場は、「自分たちに原因があるのだ」との当事者意識を持ち変革の課題を果たす
衰退する現場は、「悪いのは自分たちではない」と考えるので他責意識ばかりで解決しない