「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第324話 熱量のトップダウンを支援してくれる人材はいるか?

「先生、右腕役が育たないです。」

先月、個別相談をいただいた産業機器メーカー経営者の言葉です。

 

コロナ禍の影響は幸いに軽微で事業は堅調です。事業の右肩上がりを持続しています。経営者は前年同月対比でわずかでも売上高を積み上げる意識をお持ちです。

お客様からの電話を待っているだけではなく、我が社を積極的に売り込んでいる結果であると分ります。素晴らしいことです。地道な社長業の成果が具体的な形で表れています。

 

お客様への持続的な働きかけが功を奏しているのです。お話を伺って分かります。結果を出している経営者は誠実でお陰様の心をお持ちです。その結果、お客様に選ばれます。

先の経営者もそうした方です。「外」での社長業を訥々と語って下さいました。一方、「内」は「外」とは事情が違っているようです。

我が社の内部には問題があると経営者は感じています。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

社長業の舞台は「外」です。「内」ではありません。お客様や競合先が存在しているのは「外」だからです。「外」の変化を把握して受注を確保します。

 

販売不振が中小企業倒産原因のトップです。詰めて、空けても取り込むものがなければ儲かりません。社長業の舞台は「外」にあるので、社長業に専念したかったら「内」を現場に任せる仕組みが必要です。

 

お客様に選ばれる商品や製品を効率よくつくることが儲かる工場経営の要諦ですが、経営者が「効率よくつくる」ことにかかりっ切りになっていたら、社長業専念できないのは明らかです。儲かる仕組みとは「内」を現場に任せる仕組みに他なりません。

 

その仕組みのお陰で社長業に専念できるのです。そして、この仕組みの主役が「経営者の右腕役」です。幹部や工場長、管理者がその役割を担います。

貴社の幹部や工場長、管理者は右腕役の役割を担っていますか?

「内」を現場に任せられますか?

成長発展には右腕役が必要です。そうでないと社長は社長業に専念できません。

 

管理者をはじめとした人材育成の重要性は論を俟ちません。経営者ならどなたも認識されています。その一方でなかなか手がつかないのも人材育成です。

重要度は高いですが、緊急度が低いから仕方がありません。目前のハエを追い払う仕事が優先される現場ではそうなってしまいます。

これでも事業を継続できますが、社長は回し車で同じところをぐるぐる回るハムスターよろしく忙しいままです。忙しいだけで事業の成長発展は望めません。

 

人材育成、特に右腕役の育成は貴社の命脈を保つために優先度を高めなければならない経営課題です。なぜ、右腕役が命脈を保つに欠かせない存在なのか?

社長に代わって現場を仕切る人材がいれば、社長は「外」に専念できます。

 

 

 

 

儲かる現場にはトップダウンの指示導線が欠かせません。

指示導線が我が社の判断基準を現場へ浸透させています。社長に代わって現場を仕切る人材がいれば、その指示導線を機能させられるのです。

●「実務」のトップダウン

・この案件を受けるべきか?

・人時生産性向上の観点からこの業務はどう改善すべきか?

 

受注活動や改善活動は判断の連続です。

右か?左か?上か?下か?

現場では、判断を迷うことがあります。このとき現場の勝手な判断基準でやらせてはダメです。「社長からいつも●●●で判断しろと言われている。」状況でなければなりません。

経営者の判断基準を社長に代わって現場に繰り返し、繰り返し、繰り返し語るのが右腕役です。右腕役は経営者の考え方を理解して、経営者を支援するのが役割です。

外に専念している経営者に代わって現場を導きます。

 

 

 

●「熱量」のトップダウン

実務のトップダウンに加えて、もう一つのトップダウンの支援も右腕役の大切な仕事です。経営者が抱いている「熱量」のトップダウンです。

工場経営の本質は「他人の力」を借りて経営者の想いを実現することにあります。従業員はそもそも他人です。その他人にその気になってもらわないとなりません。

頭だけではなく、心にも何かを届けないと人は動かないものです。情熱、パッション、経営者が抱いている圧倒的な「熱量」を届けます。

 

この「熱量」はトップダウンで上から下へ流れますが「逓減法則」に留意しなければなりません。経営者の「熱量」が10とすると、現場の作業者へ届くのは1です。10分の1になります。

したがって、現場の作業者へ「熱量」を10届けたかったら、経営者は自身の「熱量」を100にしなければなりません。100なら1000です。

経営者には桁違いの想いやパッションが求められます。だから、工場を導く経営者は大変なのです。他人をその気にさせるエネルギーがなければできません。

 

そうした経営者の想いを現場へ浸透させるのも右腕役の重要な仕事となります。経営者の想いを理解した右腕役なら、「熱量」を10分の1まで劣化させないように現場へ届けてくれるかもしれません。

 

実務のトップダウン

熱量のトップダウン

この2つのトップダウンの要が管理者、特に「右腕役」です。右腕役が育成できたら社長業に専念できます。右腕役の育成が貴社の命脈を左右するとお伝えしている所以です。

特に、経営者の「熱量」を現場へ届けてくれる人材は貴重です。

 

 

 

 

 

右腕役の育成で重要なのは人材の見極めです。

育っていく人は勝手に育ちます。人材を見極めることです。人を育てること自体、簡単なことではなく、そもそも人を育てることはできないと考えてもいいかもしれません。

これは長年現場に身を置いて右腕役を人選した経験から言えることです。やる気のない人にやる気を出させることはできません。ですから右腕役の育成で必要なのは見極めです。

まずは右腕役の候補者を選びます。その後、右腕役として活躍できる環境を整備するのです。仕事を通じて教えます。

・人材の見極め

・環境の整備

 

 

 

人材の見極めで大切なことがあります。経営者は見極めた人材へ向かって「あなたにはこれから右腕役の役割を期待する」と、圧倒的な熱量で自身の想いを伝える必要があるのです。

 

右腕役の人材の候補がいないと嘆く経営者がいらっしゃいます。

そこで、

どれだけの言葉をその人に投げ掛けましたか?

どれだけ膝を詰めてその人と話し込みましたか?

と尋ねると「う~ん」と言葉が止まります。先の経営者も同じでした。社長がこの人こそ!と期待した人材へ具体的に話をしない限り、右腕役が育つわけがないのは当然です。

 

経営者の考えは言葉にしなければ伝わりません。雰囲気でなんとなく分ってくれるというののでは、残念ながらムシが良すぎます。言われなければ分りません。

 

具体的に伝えるのです。そして、その気になってもらいます。経営に関わってもらうのです。心に訴える言葉を伝えます。「その気」になってもらわないとなりません。

 

「社長からここまで期待されているなら頑張ってみよう」との内部から湧き出る力を感じてもらわなければならないのです。

「社長のために頑張ってみよう」との気持ちは理屈ではありません。

衝動です。人は人生にかかわるような重要なことでは、頭よりも心で動きます。

 

衝動は精神分析での言葉です。外からの強い力や刺激を受けて動かすことであり、反省やためらい意図などが介入する余地がないとされています。

見極めでは経営者の言葉による「衝動」が要点です。経営者はご自身の言葉で熱量を届けます。言葉の力です。外からの力や刺激で従業員をその気にさせるのです。

 

誠実でお陰様の心を持っている経営者は右腕役候補者となる現場のキーパーソンに「衝動」を起こす言葉を知っています。

経営者の右腕役を引き受けてもらうには頭ではなく心に訴えなければ「衝動」は起きません。言葉には力があります。

経営者は「衝動」を起こす良い言葉を知らなければならないのです。

 

そして環境を整備し、右腕役としての仕事ぶりを磨いてもらいます。

これがプロジェクトです。弊社はプジェクトを管理者育成の手段としています。滑った、転んだ、すったもんだの実務をこなすうちに、周囲がその仕事ぶりを認めるようになるのです。

フォローと評価の重要性も実務を通じて理解させます。右腕役の仕事を訓練する環境整備のひとつがプロジェクトです。

 

 

 

 

 

人時生産性を6,000円、7,000円へ高めるのは簡単なことではありません。経営者の想いとチーム力次第です。経営者の熱量をどうしても現場へ届けたいのです。

右腕役の存在は心強いことに間違いありません。

「熱量」が10分の1まで劣化せず現場へ届くようになれば、経営者はかなり楽です。想いが伝わらないイライラから解放されます。

 

「なるほど、実務を通じて育てればいいのですね。」先の経営者は何かに気付いたようです。右腕役の人選からやってみます。外部の力を借りたプロジェクトのメリットを理解した経営者はもう次のことを考えていました。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、経営者からの熱量を劣化させずに受け取れるので社長業の後押しができる

衰退する現場は、経営者からの熱量を劣化させて受け取るので社長業の足を引っ張っている