「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第325話 「なぜ」を問う前にやるべきこととは?

「はっきりしていませんでした。」

プロジェクトを始めて半年経過した経営者の言葉です。

 

その現場では、プロジェクト着手時点で、指示導線が構築されていました。右腕役もしっかり経営者をサポートしています。経営者は社長業に専念できるということです。

今の事業規模を維持するなら問題はありません。ただ、その経営者は何かもやもやを感じていました。一層の成長発展を果たそうとするときの論点がはっきりしないのです。

 

経営者と議論をしながら論点を明らかにしました。お客様に選ばれる商品・製品を効率よくつくる観点と環境整備の観点です。考えなければならない論点が見えてきました。

 

そして、人時生産性アップの実務スタートです。既に指示導線が構築されている現場ですから、リズムよく「納期遵守以外の仕事」をこなしていました。

 

この調子なら直ぐに人時に成果が反映されそうですねと話をしていた矢先のことです。重大クレームが起きてしまいました。好事魔多しです。

プロジェクトは中断です。クレーム対応を優先させなければなりません。

 

ひと段落して、クレームを振り返ったとき、先の経営者は重大なことに気付きました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

人為的なミスが起きると、ミスをした当事者に焦点が当たります。その人が「やらかして」初めてミスが認識されるのでしょうがないです。

しかし、ミスをした当事者は、失敗する気で失敗したわけではありません。それにもかかわらず、やらかした人のせいであるとして個人を責めたらどうなるか?

悪い情報が経営者に上がってこなくなります。

 

ミスが発生したとき、「誰がやらかしたのか?」ではなく「手順のどこが間違っていたのだ?」という思考回路が機能する現場にしなければなりません。

人を責めるのではなく、仕組みを責める現場です。

 

 

 

 

 

作業者の仕事は上司からの指示をきっかけで始まります。作業者は勝手に仕事をしているわけではありません。

人為的なミスは情報伝達とその処理の過程で起きます。情報伝達は、「発信側」と「受け側」でなされるものです。受け側だけでは成立しません。

 

まず、情報を発信する人がいます。そして、情報が発信側から受信側へ伝達され、受信側が情報を受け取るのです。その後、受信側は受け取った情報を解釈して対応します。

発信→受信→解釈→対応

 

各段階の振り返りが原因究明の初手です。

原因究明にも手順があります。

現場はこの知識を持っていますか?

 

こうしたお作法が生産管理の体系です。経営者は現場に生産管理の体系を教えなければなりません。知らなければ、やれないからです。

 

・発信のミス

そもそも、現場へ届けた情報に不備があったかもしれません。「きちんとやるように」という曖昧な表現もダメです。解釈が様々になります。文書ではなく、口頭のみによる指示もミスの誘因です。指示を伝えるときは「伝え方」も気を付ける必要があります。

 

・受信のミス

現場では、読み間違えや思い込みが起きます。数字の「2」を「3」と読み間違えた、「左」を「右」と思い込んだなどです。情報を受信するときの環境もミスに影響します。実務で忙しいとき、新たな情報の優先順位は後ろになりがちです。

 

・解釈のミス

情報を正しく受け取っても、解釈でミスが起きることもあります。定義が不明確な時です。

段取り時間を報告せよ指示があったとします。この場合、段取り作業の開始と完了の定義がなければ解釈は様々です。開始とは、加工プログラムを考え始めたときから?電源を入れた時から?定義がなければ判断は変わります。

 

・対応のミス

その後の行動を間違えることです。熟練度に影響受ける作業であった、手順が決まっていない作業であった、たまたまその時、順を間違えたなどなどがあります。ミスとして認識されるのはこの段階です。

 

ミスが起きると、どうしても「対応のミス」がクローズアップされます。そこで失敗が認識されるからです。やらかした人の責任を問い勝ちになる所以です。

人為的ミスは情報伝達とその処理の過程で起きるのだ!と考えれば、やらかした人だけを責めるのは正しいことではないと分かります。

 

 

 

 

 

人為的ミスが起きた時、経営者はなぜ発生したのか?と現場へ原因を究明するよう働きかけます。これ自体は間違っていません。

現場になぜ?を問いかけると、現場はなぜ?を考え始めます。ただ、これでは、現場での議論が発散して、収束しません。作業者によって論点が違うからです。

 

原因究明でもベクトル揃えは欠かせません。

それが時間軸と動作です。人為的ミスの原因を探る要点があります。情報伝達とその処理の過程を明らかにすることです。

 

人為的ミスは情報伝達とその処理の過程でのミスなので、原因究明ではその状況を整理することからやります。いきなり「なぜ」を考えません。

時系列でやったことを整理します。時間軸と動作です。細かければ細かいほど原因究明の精度が上がります。

 

「釘を指でつまんでハンマーで打ち込む」ではなく、

「左手の親指と人差し指を10ミリほど開き、釘の半分の高さの部位を親指と人差し指の腹で挟む。その後、右手でハンマーの端部から30mmのところ握り、釘の頭部へ軽く試し打ちを3回ほどやってから・・・・」と整理するのです。

 

現場の分析力、表現力、語彙力、書く力が問われます。日頃の訓練次第です。書く力は訓練しない限り磨かれません。原因究明では書く力がカギです。

そして、それは現場の思考回路形成につながります。「共有する言い回しや言葉」は日頃の書く、話すから生まれるからです。

人為的ミスの原因究明はいきなり「なぜ」ではなく、時間軸と動作を書くことからやります。だからプロジェクトで訓練するのです。教えない限りできません。

 

 

 

 

 

現場でトラブルが発生したとき、経営者が頭に浮かべなければならないことは下記です。

・「やるべきこと」をやらなかったのか?

・「やるべきこと」のやり方を間違えたのか?

 

どちらだろうか?考えます。それを明らかにするために、ミスが認識された時点までの時系列と動作を整理するのです。

「やるべきこと」をこなせなかった現場のやり方を振り返えらせ、今のままではまずいと思わせます。そうして現場の足腰を鍛えるのです。

足腰の強化の中には、書く力のようなコミュニケーション能力の鍛錬も含みます。製販一体、チーム力で欠かせない能力です。

 

ただし、場合によっては、経営者が頭に浮かべなければならないもうひとつがあります。

・そもそもやるべきことが決まっていなかった。

 

これは経営者の責任です。現場に責任はありません。やるべきことが明らかになっていなかったのです。これを属人的と言います。現場への丸投げです。

この場合は、経営者が先頭に立って「やるべきこと」を決めなければなりません。標準作業に経営者の意志や意図が込められるからです。

先の経営者はこれでした。

 

 

 

 

 

クレームの原因は複数あります。問題は複数の要因が絡み合って発生するものです。当然ですが、影響度が高い要因から攻めなければなりません。

先の企業では、影響度が高い要因に関して、その作業手順がはっきりしていませんでした。

 

経営者もその重要性は理解していましたが、現場への丸投げでもなんとかこなしてくれていたのでそのままでやってきたのです。

「弱い点がでてきました。」とは経営者の言です。

 

クレームは生産量が増えた時に起きました。成長発展に挑戦しようと、無理を承知で生産量を増やしたので見えてきた問題です。

経営者はプロジェクトを加速させる機会にしたいと考えています。挑戦する経営者は雨降っても、地を固めるものです。ただでは起きません。

そうした姿を拝見して、弊社も学ばせていただいています。

 

 

 

収益力も利益も給料も今のままでイイなら、無理にプロジェクトをやる必要はありません。今のままでもイイのです。

そもそも、事業もこれまで継続させられたこと自体が素晴らしいと言えます。

 

ただ、意欲的な経営者はそこでは止まりません。従業員にはもっともっと豊かな人生を送って欲しいと考えています。

だから、ロードマップに基づいたプロジェクトなのです。思い付きで、行き当たりばったりの、その場しのぎな行動では、2倍、3倍の成果は手にできません。作戦書に基づいた行動が必要です。

 

技術の世界はドンドン前へ進んでいます。豊かになるためには前進あるのみです。タイム イズ マネー。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、人為的ミスを時間軸と動作で細かく分析して仕組みを洗練させていく

衰退する現場は、やらかした人を責めるのでますます悪い情報が上がってこなくなる