「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第326話 経営者が蓄積する「外」での経験が現場を変える

 

「足を運んで、初めてわかりました。」

30人規模、設備関係板金加工メーカー幹部の言葉です。

 

現社長は創業者です。ただ、今は第一線を退いていて、実質的な経営を幹部へ任せています。近々、新体制に移行する予定です。今は助走期間と言えます。

新体制のご相談をいただきプロジェクトに着手しました。

 

次期経営陣は創業者である現社長と同じやり方をする必要はありません。次は、“経営陣“でやります。次期経営者と右腕役が連携したチームです。トップダウンにもいろいろなやり方があります。

 

プロジェクトをスタートさせる前に、次期経営陣の拠り所を議論しました。人時生産性に焦点を当てます。今は4,000円台です。この人時生産性を高めることを目指します。

従業員へ説明をして、新しい仕事のやり方へ変えることへの協力を依頼しました。協力へのお願いは要点です。個別相談も丁寧にやりました。

 

「先生、現場の作業者からも頑張りたいとの声が上がってきました。こんなことは初めてです。」製造担当幹部からの報告です。

これは、現社長による”躾“のお陰です。指示導線が構築されている現場に熱いトップダウンがあれば、現場は鼓舞されます。ベクトルは揃いました。プロジェクトのスタートです。

 

 

 

指示はタテ、仕事はヨコに流れます。縦の導線を強化して、ヨコの流動を加速させるのです。LT内訳分析に基づくボトルネック解消でLT短縮短すれば人時が上がります。

製造業のお作法です。こうした方針が、幹部から現場へおろされました。

 

これまで、納期遵守だけでなんとなくやっていた仕事の意味付けが変わるのです。

「利益アップ、給料アップのためなのだ。」

特に、従業員に外国人の方々がいる現場で、意味付けすると、活動に勢いがつくことがあります。そうした様を何度か見てきました。このご支援先もそうです。

 

着手して数か月ですが、現場からプロジェクトのキーパーソンが出てきました。先の製造担当幹部の言葉は嘘ではなかったようです。

プロジェクトはやってみなければ分かりません。理屈よりも経験です。製造担当幹部が「内」を仕切る仕組みづくりの見通しが立ってきました。

 

製造担当幹部は次期経営者の右腕です。右腕役が工場を仕切れる体制ができつつあります。工場の体制をつくれば儲かる・・・・そうならないのが製造業です。これだけで儲からないのが製造業の難しいところです。

 

先の企業では、今、致命的な課題を抱えています。

受注減です。年商ベースで10~20%減に直面しています。損益分岐点すれすれ。詰めて、空けても取り込むものがなければ儲からないのです。

 

「内」をどんなに磨いても、取り込む付加価値額、スループットが横這い、あるいは下落している限り、人時生産性は上がりません。

従業員のベアを設定できず、経営者ご自身の報酬も現状維持が精一杯です。

 

これまで現社長が築いたご縁だけで商売をやってきました。しかし、それだけでは辛くなってきたのです。市場が変化しました。

従来の主要なお客様からの受注が、2年ほど前から、右肩下がりか、横ばいになっています。このままではじり貧です。

 

次期経営陣は「外」の活動に挑戦です。

次期経営者になる幹部は、新たなお客様を開拓しようと行動し始めました。初めてのことです。従業員では誰もやったことがありません。それでもやるのです。

飛び込み営業もあります。断られるとストレスが溜まります。気持ちも参ってきます。しかし、次期経営者になるその幹部は挫けません。

 

新たなお客様の開拓候補地域へ足を運んで、気付いたことがあったようです。

将来のお客様になりそうな候補企業が想像していた以上にありました。現場へ行かないと分からないことがあります。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の企業の指示導線には優れたものがあります。とにかく感度がいいのです。現場の思考回路は経営者次第であると改めて実感しました。

ボトルネックを製販一体で探し、それを解消しようとする姿勢は見事です。

 

20名程度の工場を仕切る右腕役幹部も今、プロジェクトの実践で経験を積んでいます。右腕役のこの経験の蓄積は模倣困難な差別化要因をドンドン創出するでしょう。

 

しかし、どれほどまでに「内」でのプロジェクトが進んでも、受注を確保できていなければ、儲からないのが製造業です。

詰めて、空けても、取り込むものがなければ、計画は全て絵にかいた餅です。

 

中小製造企業の場合、人時生産性を高めるために分子を積み上げます。大手のようなリストラ発想をしません。

付加価値額を積み上げる具体策は複数ありますが、会社の規模に関係なく、優先してやらなければならないのは販売活動です。売る行動抜きに付加価値額は積み上がりません。

 

売ることを前提で造るのが製造業です。造ってから売り方を考えるのでは売れません。経営者の仕事場は外にあります。お客様に出会い、声に耳を傾けるのが先です。

経営者の最大の仕事は受注を確保し続けるビジネスモデルをつくることです。外の変化に合わせて、内を作り変えます。答えは全て市場が知っています。市場に抵抗してはダメです。

まれに市場に逆らおうとする現場の言動に触れることがありますが、不思議だと感じます。おそらく経営者が教えていないのでしょう。

 

 

 

経営者から発せられた、「外(お客様)は○○○のように変化しているので、〇〇〇に対応できるよう内〈我が社〉を変える」宣言に従って、右腕役が工場を変えるのです。

 

現場活動のきっかけは全て外にあります。そして、その外の状況を知っているのは経営者だけです。だから、指示導線はトップダウンになります。

新たなお客様を開拓する手順を持たなければなりません。

 

既存のお客様に既存商品を売り込む、深掘り戦略

既存のお客様に新商品を売り込む、新商品戦略

新規のお客様に既存商品を売り込むお客様開拓戦略

 

まずは戦略を決めます。

 

先の企業で、次期経営者の幹部が挑戦し始めたぼは「お客様開拓戦略」です。これは経営者にしかできない仕事です。

経営者が新規のお客様を開拓するのは単なる営業活動ではありません。

苦しい時期ですから、スポットの小さな受注をいただければありがたいです。ただ、経営者が自ら市場と向き合っているのは、目先の受注を確保するためだけではありません。

 

まだぬ見ぬ、将来の主要なお客様とのご縁を見つけること

 

ここに主目的があります。単なる営業活動ではないとお伝えしている所以です。どこにご縁があるか分かりません。とにかく行動してくださいとご支援をしています。

 

ただ、闇雲はダメです。経営者の持ち時間は限られます。手順が必要です。1次情報で調査分析して新規お客様の方針を決めます。選択と集中です。

 

・地域

・顧客

・商品、製品、サービス

 

3つの観点で、中小ならではの弱者優先順位に従って、戦わずして勝てる要因を探ります。中小にとって市場で勝てるとは、どんな狭い定義でもいいので何かのNO1になることです。

 

中小の管理者時代、「お客様の特定部署でのあの担当者でNO1」を掲げたことがあります。大手自動車部品工場時代は、ティア1としてそのお客様での占有率NO1がトップダウンで示されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ見ぬお客様を対象にしているので、新規のお客様開拓はつかみどころがありません。それだけに、戦略は可能な限り具体的に考えます。

先の企業では地域を絞り、徹底的に攻めることにしました。新規パンフや新作PVを手にして精力的に活動しています。アポ取って伺うとこともあれば、飛び込みもありです。

 

現場へ足を運んでみると、事前調査では引っかかってこなかった訪問候補企業があることに気付くこともたびたびあります。

 

「足を運んでみて初めてわかりました。」

 

行動して、目にしたこと、耳にしたこと、感じたことの蓄積は次期経営者の財産になるはずです。行動しながら培われる蓄積の価値は高いものがあります。

それを「経験」と言います。知恵や知識も大事ですが、それを実践で生かす経験も同等か、それ以上に大事です。

 

不安や恐怖を確信や自信に変える唯一のものが経験です。「少しお腹に力が入ってきました」とはその次期経営者の言。不安一色だった表情に変化が見えてきました。

 

「あるOBが、今の社長が飛び込み営業をしながら売り上げを確保しようと汗をかいていた創業時のことを教えてくれました。」

 

その次期経営者となる幹部の仕事ぶりを見たあるOBが創業時の仕事ぶりを話してくれたようです。人は頑張る人を応援したくなるものです。こうした話も励みになります。

経営者は辛いから偉いのです。

 

こうした仕事ぶりを定例の朝礼で幹部自ら説明、報告しています。訪問先でお客様からいたいた言葉の紹介です。ただし、イイ話はほとんどありません。

話の大部分は「訪問しても、そっけなく断られて参ってしまうが、引き続き、挑戦するのでよろしく頼みます。」と言う話です。

こうした話を耳にした現場の作業者は何かを感じてくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工場経営の本質は「他人に動いてもらう」ことにあります。一人ではできないことを実現しようとするから、経営者は、わざわざ、他人」を採用するのです。

その他人を動かし、さらには連携を促さなければなりません。経営者が語る経験が他人を動かします。

 

経営者の「外」での経験こそが現場を変えて強くするのです。市場と向き合うときの経営者は必死だからです。経営者が「内」での経験だけを重ねているうちは変わりません。

 

経験は、経営者ご自身が持つ知識や知恵に力を注入してくれるとともに、他人を動かす役割も果たしてくれます。現場が変わり、プロジェクトが加速するのです。

社長業は知識と経験の融合です。社長業を芸術などに例える方もいらっしゃいますが、そういうものだと感じます。

 

具体的な経験は人を動かします。弊社がプロジェクトでご支援する所以です。

ただし、そうした経験は知識の体系に裏付けられている必要があります。我流で経験積んでも独善に陥るだけです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、経営者の外での経験に触発されてお客様を知り変化することに挑戦する

衰退する現場は、外での話に触れる機会がないのでお客様を知ることもなく変化もしない