「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第327話 一定水準以上の規模も必要な理由とは?

「先生、今の規模のままではダメですね。」

個別相談をいただいた20人規模、板金加工メーカー経営者の言葉です。

 

大手設備メーカーを主要なお客様として商売をしています。年商は2~3億前後。損益もまずます。大きな問題はなさそうです。しかし、経営者はそう考えていません。

冒頭の言葉です。

 

今の事業規模では仕事のやりにくさを感じています。規模自体をドンドン大きくさせるつもりはありません。しかし、一定水準の事業規模へ成長させる必要性を感じています。

「外」での商売のやり易さを高めたい。

「内」では生産性向上です。

 

事業規模を成長させて、人と人との関わり合いを持たせます。「忙しい」や「できない」という言葉をすぐに発する現場を変えたいと考えている経営者です。

工程管理の仕組みをつくりながらチーム力を発揮できる現場に変えます。給料アップも先の経営者の願いです。

 

 

 

 

 

ご支援先の多くの経営者は人時生産性を高めたいと考えています。利益アップと給料アップを両立させたかったらこれしかないからです。具体的にはどうするのか?

「お客様に選ばれる商品や製品を効率良く造る」です。

 

したがって、儲けたかったら、(ここが大事なことなのですが)価格以外で選んでもらえる商品や製品を扱わなければなりません。

経営者は「どう造るのか?」の前に、「何を造るのか?」を考えます。儲けるためのビジネスモデルが先です。

 

価格競争は大手の戦略です。中小製造企業の戦略ではありません。体力勝負は辛くなります。市場が右肩上がりの90年代なら、ある程度の価格競争もありでした。しかし、90年代後半以降、国内の付加価値額/年はヨコヨコです。

 

成長市場が生まれる一方、限られたパイの分捕り合戦になっている既存市場が少なくありません。そうした市場で、貴社が親企業から言われたものを言われたとおりに造っているだけでは行き着くところは明らかです。

儲かる商品や製品の開発、およびそのための技術開発が重要業務となります。

 

また下請け型のビジネスモデルであるなら、儲かる下請けにすればいいのです。競合に負けない圧倒的なQCDを目指します。

ただしCをお客様に言う必要はありません。例えば、我が社で自動化設備を導入したからとお客様に喜々と披露しているようでは儲からないということです。

圧倒的なQCDにおいて、リードタイムは儲けのキーワードになります。

 

自社商品で商売しようが、下請け型のモデルで商売しようが、どちらにしても、人時生産性を高くしたかったら、扱うワークは高度化、複雑化します。

単純工程の単品受注だけで儲からないのは明らかです。現場へ投入できる工数は限られます。だから投入工数に対して稼げる儲けが大きいワークを扱いたくなるのです。

 

当然、製造の難易度は上がります。製造の難易度=お客様に選ばれる価値。こうなること多い製造業です。そこで、「人工商売」のように時間分だけではなく、知恵分の付加価値額をいただくのです。

結局、チームでこなす仕事をやらない限り儲からないということです。一人でできる仕事なぞ、たかがしています。製品1個当たり人時生産性の水準を確認してください。

 

一人でできる仕事なぞ、たかがしています。チームでしかさばけない仕事をこなしてこそ、経営者は、2割、3割ではなく、2倍、3倍スケールの成果を手にできるのです。

だから現場改革、意識改革、構造改革です。経営者はチームで仕事をやる醍醐味を現場へ伝えなければなりません。そして、それにはお作法があることも。

 

 

 

 

 

先の企業のお客様は大手設備メーカーです。お客様には協力会社がたくさんあります。お客様にしてみれば、我が社はone of them でしかありません。

したがって、何かとお客様の協力会社と比べられるのです。先の経営者は仕事のやりにくさを感じています。

 

「この値段でできないのですか?○○はできると言っていましたが。」

「お宅の規模ではこの水準の部品は難しいかもしれませんね。」

 

担当者からこのような言葉を掛けられます。

一方、担当者は担当者で成果を出さなければなりません。協力会社から最大のパフォーマンスを引き出そうと躍起です。こうした言葉を投げかけられてもしかたがありません。

 

それでも、先の経営者は比べられることに違和感を抱くのです。

こうした気持ちになるのは、「我が社の規模感」も関係していると感じています。そう言われても、何もできない状況が悔しいのです。

 

商社へ原材料を依頼してもロットの小ささ故、納期は後回しにされる。

見積もり段階で規模の大きい競合先より効率が悪いと指摘される。

 

そうであるなら、我が社の事業規模を一定水準まで成長させれば、ビジネスパートナーとの付き合い方を変えられるのではないか?先の経営者はそう考えました。

 

 

 

 

 

20人規模、年商2億円の企業

30人規模、年商5億円の企業

50人以上規模、年商10億円以上の企業

 

一般論として、規模が一定水準以上のパートナーには安心・安定を、規模が小さなパートナーには小回り性・柔軟性を期待するものです。

 

したがって、規模が一定水準以下の企業には、無理難題とされる仕事が舞い込みます。小回り性・柔軟性が期待されているので、それらをさばくことは信頼関係を築くのに大事です。

しかし、そればかりでは疲れます。

 

この値下げをお願いしたい、この小ロットに対応してもらいたい、この突発特急対応をお願いしたい。我が社の規模が一定水準以下以下であるなら、お客様からこうした要望が頻繁に投げかけられるかもしれません。しかし、経営者は無下に断れません。

 

会社の規模に関係なく、ルールに従って、”対等“にビジネスはやるものという原則はありますが・・・。しかし、そうは問屋が卸してくれません。規模を背景にした力関係があります。

 

相手あってのビジネスです。一定水準以上の規模感が商売のやり易さにつながるなら、それも我が社成長発展の動機付けになります。仕事をやり易くするために、我が社が、想いを抱きながら、変わればイイのです。

 

先の経営者はそれを一言「意地」と表現しました。オーナー社長の意地です。

 

 

 

 

 

肥大はダメです。

あくまで成長発展です。

「外」でのやり易さにつなげ、「内」を磨きます。人時生産性の分母を大きくする以上に、分子を積み上げるのです。一人でやれる仕事はたかが知れています。チーム力が必要です。

 

10人ではできなくても20人ならできること

20人ではできなくても30人ならできること

30人ではできなくても50人ならできること

 

現場へ投入できる工数は限られます。そうであるなら、儲けにつながる難易度の高いワークに挑戦です。

結果として、経営者は、高度で複雑な規格品商売を目指したくなります。製品1個当たり人時生産性が数千円規模では満足できません。属人的な仕事では限界です。

 

人時生産性中小3,600円、大手5,400円には規模による差異が表れています。規模が一定水準以上になると経営者の仕事は楽になります。チーム力が機能するからです。

工場のことを現場に任せられるようになります。

 

チーム力を機能させることによる効果

 

〇相乗効果

チームとは他人との関わりです。相互関係で成り立っています。人と人との関わり合いが化学変化を起こし、できないことができるようになるのです。

儲けるための難易度の高いワークもさばけます。同質ではない人と人が関わるから、気付きがあり、見えないモノがみえてくるのです。そこにチームの知恵が生まれます。

 

無人島に流れ着いた人が一人で仕事をしてもやれることは限られます。もし、十人の人が流れ着いたら(人同士の争いが起きることを除けば)、知恵を出し合って仕事ができるので、生き延びる可能性は高まりそうです。

 

・5人の集団における、人と人との接触組み合わせは10通り

・10人の集団における、人と人との接触組み合わせは45通り

規模を成長させると増分人員数以上の人と人の関わり合いが生まれるのです。化学反応も数を打てば当たるでしょう。大手にはこうした環境があるのです。相乗効果が大きくなります。

 

5人の集団よりも10人の集団の方が生産性を高めやすいです。規模の経済により固定費の効率が高まります。

さらには従業員同士の相乗効果でその効率はますます上がるのです。

 

闇雲に事業規模を大きくする必要はありません。しかし、豊かな利益アップ、給料アップには一定水準以上の規模も必要であるとお伝えしています。

 

 

 

〇学ぶ場

何かを習得したかったら「人に教えればいい」とはしばしば言われることです。とするならば、自分のやり方が一番いいと思い込み一人で仕事をこなしている従業員は気の毒です。

人に教えた経験がないので、自分のやり方をフィードバックしたこともありません。もしかしたら、改善の余地があるのかもしれませんが、なにせ一人です。良し悪しを知ることなく時間が過ぎます。

また人に教えたことがないので、ベテランでありながら技能や技術伝承の重要業務を担えません。もったいないですが、やったことがなければできないので、しかたがありません。

チームが機能していれば、相互学習が進み、チームが底上げされます。

 

 

 

〇熱いチーム

製造業はできないことをできるようにする商売です。付加価値額の源泉はそこにあります。

製販一体、現場一丸で困難に対峙し、それを乗り越え、できないことをできようにした時の感動は筆舌に尽くしがたいものです。

貴社の現場でそうした経験をさせていますか?熱いチームです。全員が一緒に燃えるような経験を一度でもすれば、チームで仕事をする良さを肌感覚で理解できます。経験は雄弁です。

 

 

 

 

 

先の企業では必要以上に事業規模を大きくするつもりはありません。ただ、経営者は今の規模のままでは辛い状況を抜けられないと感じていました。

「チームで仕事をする良さを伝える必要はありそうです。」とは経営者の言。

そして、それよりも、伝えた方がいいことがありますよとお伝えしたところです。先述したオーナー企業の「意地」。

我が社のトップはそれにこだわっているのです。「我が社の品格を高める」と言い換えられるかもしれません。

 

 

人時生産性を高めるのに、原則、規模は無関係です。どんな規模でも高められます。ただし、規模が一定水準以上の方がやり易くなるのです。

今の規模のままでも、全く構いません。無理な改革は不要です。ただ、経営者ご自身に想いがあるなら、それは一考に値する課題と言えます。貴社にとっての規模の一定水準とは?

 

お客様とは言え、言われっぱなしは面白くありません。プロジェクトに着手する動機付けとしても十分です。志や心意気ある若手の登場に期待しています。来月からスタートです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、相乗効果、学ぶ場を活かし燃える経験を重ねてチーム力で人時を高める

衰退する現場は、チームの効果を知らないので仲間と関わる仕事ができず人時はヨコヨコ