「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第328話 右腕役に計画をたてさせているか?

「先生、計画表を書かせないとダメですね。」

80人規模、樹脂成形メーカー幹部の言葉です。

 

複数の工場を対象にしたプロジェクトに着手しています。現場のキーパーソン、10人程で構成されたプロジェクトです。幹部がプロジェクトリーダーを担っています。

幹部がプロジェクト全体計画を立てました。それをもとに活動を進めています。進めるにしたがって、各現場の計画表も必要だと感じてきました。

 

重要度は高くても緊急度が低い仕事は後回しになりがちです。計画表を書かせて、各自業務の納期管理を促し、工程間連携を強化したいと幹部は考えました。

 

ただし、これまで現場のキーパーソンに計画表を書かせたことがありません。書かせたことがないのなら、教えて書かせるだけです。何事も訓練で上達します。

 

計画表の重要性は論を俟ちません。しかし、計画表を使いこなしている中小現場は意外と少ないです。経営者は計画の重要性を管理者に教える必要があります。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

仕事は複数のタスクで構成されています。仕事には納期があるので、各タスクを期限までに終わらせなければなりません。

納期から逆算して、手順と所要時間を決めることが必要です。

手順と所要時間を決めないで仕事をやるとバタバタします。先を見通せていないからです。これを「成り行き」と言います。

 

儲かる仕事は複雑かつ高度です。タスク数が平均より増えます。儲かる仕事をやっても、「成り行き」では儲けも限定的です。バタバタしすぎると全く儲からないかもしれません。

そうならないよう納期から逆算して、手順と所要時間を決めます。それが計画です。

ゴールによって時間軸の長短は異なります。3日程度先を見通したのが日程計画、3年後、5年後を見通したのが経営計画です。

 

 

 

 

 

工場は全て計画で動いています。計画がなければ管理できません。計画表には「今やること」が書かれています。「今やること」が今、やれていなければ「異常」です。

 

緊急度が高い仕事は短時間で終えなければなりません。見据える時間軸は短いです。

切断→プレス→曲げ(3工程)の工場で製品Aを10個、3日後に完成させる場合、例えば「本日中に10個分の材料を切断しなければならない」と判断します。

「今やること」を教えてくれるのが日程計画です。「今やること」が今、やれていなければ遅れを挽回しなければなりません。

 

また、緊急度は低くても重要度が高い仕事は時間を味方につけます。時間軸が長いほど日常業務から離れてしまうものです。

時間軸が長くなればなるほど、「今やること」を設定する重要性は高まります。3年後、5年後を見通したのが経営計画です。

 

貴社は3年後、競合に先駆けて、圧倒的なQCDを示せる新製品をお客様に届けたいと決意しました。製品開発や技術開発は長期の時間軸で取り組む仕事です。

 

工学的な問題の解決は簡単ではありません。貴社では解決までの手順と所要時間を見通して3年間の経営計画(技術ロードマップ)を立てます。

 

新商品開発に必要な材料開発、金型開発、プレス機開発、切削技術開発、熱処理開発、仕上技術開発等。3年後のゴールから逆算し、各タスクの手順と所要時間を明らかにするのです。

 

長い時間軸で複数のタスクをこなすには「今やること」を関係者で共有しないとプロジェクトは迷走します。

「今やること」が分っていないチームは一体になりようがありません。時間軸が長ければなおさらです。

 

 

 

 

 

経営計画(ロードマップ)に書かれているのは次の2つです。

・将来のこと

・将来のことを達成するために「今やること」

前者だけでは絵に描いた餅です。貴社のロードマップには後者がありますか?

 

 

 

 

 

各タスクの手順と所要時間を設定しているから管理ができます。管理ができるから成果を出せるのです。成り行きは怖すぎます。

 

人時生産性向上プロジェクトも同じです。手順と所要時間を設定すれば「今やることが」はっきりします。もし、「今やることが」、今できていなければ、プロジェクトのどこかで問題起きているのです。

 

現状と比べる計画(基準)があるから管理ができて、計画の軌道修正や追い込みができます。計画(基準)がなければ製販一体、全社一丸にはなれません。

計画を立てる重要性がここにあります。羅針盤がない船は難破するのがおちです。

 

 

 

 

 

管理者の役割は経営者を支援することです。経営者の意志や意図を理解して、経営者の構想を現場のキーパーソンへ伝えます。

 

そして、日程計画や経営計画(ロードマップ)は経営者の意志や意図を明文化、数値化したものです。管理者は計画表を使って、経営者の意志や意図を現場のキーパーソンへ伝えます。計画表があれば伝えやすいのです。

 

「指示は文書でやる」は仕事の基本です。社会人になって早々に、先輩から教えられたことです。現場へ指示を出す際の「マナー」として教えられました。

 

人間の情報収集の多くは視覚でやられます。情報の8割以上は視覚からであり、一方、聴覚からは1割、2割程度と言われています。口頭のみの指示は情報が正確に伝わりにくいのです。

加えて、口頭のみでは「言った、言わない」の水掛論になります。人の記憶は曖昧です。1日後には半分も憶えていないかも知れません。

 

それに、そもそも、指示した側が、指示したこと自体を忘れる恐れもあります。指示された現場は言われたとおりにやったのに、その後になんのフォローもなければ、現場はどう思うか?文書にすれば、こうした懸念も無くなります。

 

 

 

 

 

少数精鋭現場への指示は文書でやるのがマナーです。管理者は、計画表を使って、経営者の構想を現場のキーパーソンへ伝えます。

文書は形があって、目で見えるので、忘れません。掲げた仕事は必ずやり切るという経営者の意思表示でもあるのです。

 

「経営者や幹部からの指示が口頭に留まり、言いっぱなしで、現場がそれをやらなくても、そのままで放置されている」現場では恐ろしいことが起きます。

現場が「経営者や幹部の言うことは別にむりしてやらなくてもいい」と考えることを認めているのです。

 

できないことをできるようにすることが王道の製造企業において、こうした現場では自主性を期待できません。今のままでイイと考えます。

経営者や幹部から、間接的に「できないことはやらなくてもいい」と教えられているわけです。現場も無理はしません。現場は経営者や幹部の思考回路に従います。

 

だから、計画表を通じて経営者の本気と覚悟を示すのです。

 

 

 

 

 

現場は目前の仕事に追われます。しかし、現場にそれだけをやらせていれば生き残れる時代ではなくなりました。削減の時代から積み上げの時代へとお伝えしています。

 

国内で生み出される付加価値が20年以上もほぼ横ばいです。競合に先駆けて変革できれば生き残れます。従来の「言われた通りに造る」から、積極的に能動的に市場へ働きかけて付加価値額を獲得する仕事のやり方へ移行できるかどうかが貴社の命運を左右するのです。

 

目前の仕事をこなすのに加えて、緊急度は低いけれども重要度が高い仕事も平行してこなせなければ、経営者は徐々に辛くなります。

そこで、豊かな将来へ向けて「今やること」を計画表で現場へ示すのです。

 

 

 

 

 

計画とは期限から逆算して、手順と所要時間を決めることです。抽象的な思考も求められます。具体→抽象→具体の思考です。見えないものを見えるようにする力。

想像力とも言い換えられます。

 

経営者なら持っている「具体→抽象→具体の思考」のスキルを幹部にも習得させるのです。スキルですから、きちんとした訓練すればできるようになります。

逆に言うと、訓練しなければいつまでたってもできません。逆上がりと同じです。上手くやるコツもあります。

 

先の幹部の言うとおり、計画表を書かせないとダメです。右腕役が習得すべきお作法です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、5年後の目標達成のために今やらなければならないことを知っている

衰退する現場は、5年後の目標より目前の仕事を優先するのでいつまでたっても変わらない