「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第332話 立って話す、座って話す、違いを教えているか?
「先生、経営陣でもっとじっくり話すようにします。」
現在、プロジェクトを進めている部品メーカー経営者の言葉です。
経営者の仕事は判断することにあります。「決定」が経営者の仕事です。ただ、その前にやらなければならないことがあります。
判断材料を集めることです。いろいろな意見に耳を傾けます。判断材料抜きの判断は独善です。右腕役となる幹部とのコミュニケーションがカギとなります。
先の経営者はあることに気付きました。右腕役の幹部と将来のことをじっくり話し合うことがあまりなかったのです。
目先の仕事について話し合うことはあります。立ち話はしているけど、膝を詰めて話し合うことはなかったわけです。冒頭の言葉です。
膝を詰めて話し合うこと・・・。
これは、経営陣だけではなく、現場でも必要なことです。
大手と中小の現場に身を置き、実務に携わったからこそ見えてくることがあります。弊社はそうした気付きをセミナーやご支援先でお伝えしています。
なぜ中小では経営陣同志、現場同志で話し合う場をもっと持たないのだろう?
これもそのひとつです。もっともっと、互いに話をした方がいいのにと感じます。座って、膝を詰めて、じっくり話し合う場が不足しているのです。
立ち話だけでは伝わらないことがあります。少数精鋭なので、その規模故、経営者は相互に分かり合っていると思い込んでいるのかもしれません。
以心伝心という言葉がありますが、仕事では無用な言葉です。言葉を尽くさないと大事なことは伝わりません。
現場でのコミュニケーションは自然発生的に生まれません。話し合う場が設定されない限り現場でのコミュニケーションは成立しないのです。
それも経営者の意志や意図に基づいていなければなりません。
現場にいる意欲的な若手や中堅が「このままでは、ウチの現場ダメだ。皆と話し合って現場活動をやろう。」と考えたとします。
(いろいろな現場へお伺いしますが、そうした意欲的な従業員はいるものです。いないと感じているなら、それは経営者が気付いていないだけです。)
その意欲的な従業員が、有志を集めて定期的な話し合いの場を設定することがあります。これは素晴らしいことです。その心意気やよし!です。
ただ、中小現場で、それを継続する難易度は高くなります。
なにせ少数精鋭の現場です。全員が今の仕事に追われています。将来の話は後回しになりがちです。そうこうするうちに雲散霧消となります。
一方、大手は事情が少々違います。日々の製造実務に直接かかわらないスタッフがいるので、そうしたメンバーが試行錯誤するのです。
自動車部品工場時代、新たな製造プロセスを開発しないと生き残れないとの危機感から、志あるスタッフ有志が土日に集まってワイガヤを始めたことがあります。数カ月続きました。
そこでのワイガヤで整理されたコンセプトが新規プラントレイアウトに反映されたのです。一定規模以上の企業にはこうした環境があります。
成長発展するには一定規模以上が必要であると考える所以です。
中小では、経営者が仕事としてのコミュニケーションの場を設定する必要があります。緊急度が低くても重要度が高いテーマは、目先の忙しさに囚われることなく、現場にワイガヤさせなければなりません。仕事としてワイガヤを継続させるためです。
どんな中小現場にも一定水準のコミュニケーションは存在します。そもそも、それがなければ日々の納期遵守はできません。日常的なQCDの問題をさばきながら、お客様に言われた納期を力業で守っています。
一人でできないことだらけです。そこで仲間と立ち話で、ああでもない、こうでもない、ああしよう、こうしよう、と議論しています。現場の馬鹿力はこうした立ち話から生まれるものです。チーム力の源とも言えます。
ただし、これだけでは達成できないことがあるのです。
現場は、納期遵守のような、緊急度が高く、四の五の言っている暇があったら、さっさとこなさなければならない仕事で大部分が占められています。これはやらなければなりません。
そうした仕事がある一方、成長発展のために、それとは視点が違う課題もあります。いわゆる緊急度は低いけれども重要度が高い課題です。
現場の将来を見据えます。競合との競争に勝って、お客様に選ばれるための改革です。ビフォーとアフターを設定し、仕事のやり方を変えます。
生き残るために、経営陣だけではなく、現場も、時間を味方につけた解決策を探るのです。トップダウンの指示に基づき、自らも考えます。
現場において、時間を味方につけなければならない課題は概ね2つです。
・今のやり方をどのように変えるか?
・仲間同士でスキルアップを果たすにはどうするか?
仕事手順のビフォーアフターを設定しやり方を変え、互いのノウハウを教え合ってスキルアップを果たします。立ち話だけではできない課題です。
椅子に座り、膝を詰めて、資料を手にしながら話し合います。そうしたコミュニケーションの場がなければ、解決の目処が立ちません。なぜか・・・。
PDCAを回さなければならないからです。
時間を味方につける課題は、立ち話でさばく納期遵守とは性質を異にします。
正解がないのです。正解のない答えを出さなければなりません。
納期遵守のコミュニケーションでは、お客様に決められた「納期」という絶対的答えが既にあります。いやでもそれに合わせた答えを出すのです。力業OK。
しかし、将来を見据えた先の課題には正解がありません。正解の候補はたくさんありますが、どれがいいのかは誰もわからないのです。
そうした正解の無い答えを探るコミュニケーションがこれから現場にも求められます。PDCAを回さなければなりません。膝を詰めないとできないことです。
立って話すこと
座って話すこと
経営者は現場にこれらの違いを教える必要があります。経営者が不在でも仕事を回せる工場に変わってもらわないと、経営者はいつまでたっても楽になりません。
先の経営者は経営陣で膝を詰めて話し合う機会をもっと増やそうと考えました。相互に分かりあっているようでも行き違いがあるものです。
「そもそも、将来を見据えた課題を話し合うことがなかったです。」とは先の経営者の言。経営陣で将来のことを話し合う必要性に気付いた経営者です。
こうした気付きに遅いも早いもありません。気付いたその日が吉日。早速、実践すれば、その時から、まだやっていない競合よりも一歩先に出ます。
コミュニケーションは自然発生的に生まれません。経営者の意志や意図に基づき、仕事として設定します。
成長する現場は、幹部も現場も座って膝を詰めた話し合いを重ねて将来へ向けた手を打つ
衰退する現場は、目先の問題を立ち話でさばくことだけに満足しているので生き残れない