「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第339話 現場のことを数値で語らせているか?
「現場が指示通りに動いてくれません。」
先日、ご相談をいただいた30人規模板金加工メーカー経営者の言葉です。
経営者が指示すれば、現場は動きます。トップからの指示ですから当然です。しかし指示を出してもそれが長続きしません。
作業者は経営者の指示事項をやろうとします。ただ、納期に追われる仕事が日々あるので、経営者の指示事項はそのうちにやられなくなってうやむやに・・・・・。
冒頭の言葉です。指示通りに動いてくれないのではなく、継続できていないのです。論点が違います。
当コラムで何度かお伝えしていることですが、これは最も避けなければならない事態です。「うやむやを放置=社長からの指示は最終的にうやむやになってもかわない」ということを経営者自身が現場へ伝えていることになるからです。
やめるならやめると宣言しないとケジメが付きません。
現場が指示した通りに動いてくれないのではなく、継続的に動ける環境が整備できていないのです。数字に状況を語らせます。しくみづくりは環境整備からです。
目隠しのマラソンが辛いのは今、自分はどこにいるかがわからないからです。どこまで走ったのか分からなければ、残りどれだけあるのかも分かりません。人が辛さを感じるのは見通しが立たないときです。
現場にとっての見通しとは納期です。お客様に指定された納期から逆算して今日はどこまで、明日はどこまで、と作業手順を決めていきます。納期遵守は緊急度の高い仕事です。現場はそれに力を傾けざるを得ません。
しかし、納期遵守だけでは儲からなくなりました。競合も納期は守っています。競合と同じことをやってもお客様に選ばれません。
リードタイムを短くして、競合よりも一足先にお客様へお届けできれば、注目され、頼られ、選ばれるようになります。そうやってドンドン仕事を取り込めば人時生産性も高まるのです。つまり現場は納期遵守以外の仕事にも取り組まなければならないのです。
納期遵守以外の見通しも必要になってきました。リードタイム短縮や生産性向上です。社運をかけて、製販一体でそのための仕組みづくりを進めます。
現場は納期遵守だけでなく、納期遵守以外の業務にも時間を割かなければならないのです。先の経営者はここで行き詰りました。
仕組みとは手順の体系です。
A→B→C→Dとやれば成果を出せる。
このことが明文化されていれば、製販一体で手順の体系を共有できます。新しく入ってきた人にも確実に伝えられるのです。
新しく入ってきた人が「我が社の仕事のやり方はこうなのだ。」と理解できるようにします。経営改革の土台となる現場改革はこれの積み重ねです。
気が付けば、現場の全員がそう考えるようになっています。こうなれば経営者は完全に現場のことを現場に任せ、社長業に専念できるのです。
そうすれば会社は儲かります。それだけ仕組みづくりは大切だということです。大手の仕事振りでまねたいのはココです。そして、仕組みづくりと共に大切なのが、仕組みづくりの環境整備です。これも欠かせません
手順の体系A→B→C→Dの目的は現状の仕事のやり方を変えることにあります。
・今は1日6個しか作れないが、新たなやり方を考えて1日10個つくれるようする。
今までは1日6個つくっていたがそれを10個に増やしたいのです。これが課題。課題で埋めたいギャップは4個。4個上乗せするにはどうすればいいか?そのプロセスを示したのが手順の体系、仕組みと言うことです。
したがって、効果的で機能するしくみをつくるには、状況を数字で語れるようになることが必要になります。仕組みづくりの環境整備とは現場を数字で語れるようになることです。
先の経営者の現場には「納期」以外に、製販一体で共有する数値がありません。しくみがないのでプロセスも定められていません。属人的にならざるを得ないのです。
リードタイム、不良率、完成品在庫量等々、現場を数値で語る環境整備が仕組みづくりの初手です。目標値を設定するのは経営者です。数値は下記を教えてくれます。
・目標に達している
・目標に達していない
数値で示されれば、頑張るのが現場です。未達成ならば、達成する工夫が求められます。その工夫は、一人でできません。チームで話し合ってやろうとなるのです。
そして、数値で語らせるのに大事になるのは「定義」です。
例えば段度時間を作業日報に記入させている現場は多いです。貴社では段取り時間の定義が明確ですか?時間には始めと終わりがあります。段取り着手時刻と段取り終了時刻が分からないと段度時間は出ません。
段取り着手とはどの時点のこと?
段取り完了とはどの時点のこと?
これが現場で一緒の考えにならなければいけません。個人が勝手に「定義」を決めてはダメです。精度が劣化します。
チームでワイガヤやって決めるのです。チームで話し合う機会が増えます。結果として属人的な雰囲気が解消されることにもなるのです。
ある設備メーカーの現場では、段取り時間の定義を現場へ定着させるまでに半年要しました。しかし有益な半年でもあったのです。
考え方を統一することの大変さとともに、ベクトル揃えて数値の定義が決まったあとのスマートさを現場は実感できたのです。現場を数字で語れるようにするプロセスでも大いにチーム力を高められます。
納期遵守以外の仕組みづくりも貴社の命脈を保つのに不可欠です。お客様の納期に合わせて仕事をこなすだけでは儲からなくなりました。
納期遵守以外でも、現場のことを数字で語らせらせます。そうすれば現場は、経営者が示してくれた見通しに対する自分たちの立ち位置を知ることができます。
ビフォーアフターのギャップを認識できれば、現場は自ら動くものです。多くの現場でその変化を見てきました。
まずは、しくみづくりの環境整備を進めます。数値で語るためです。いわゆるKPIによる工場経営です。貴社はどこまでしくみづくりの環境整備ができていますか?
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、しくみづくりの環境整備で現場のことを数字で語らせらせ生産性を高める
衰退する現場は、納期遵守以外の数字がなく属人的な仕事のやり方なので生産性は変らない