「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第340話 目に見えない価値で儲けを積み上げるには?
「先生、我が社の商品単価は少々高めです。」
OEMと自社商品で事業を展開している自動車部品メーカー経営者の言葉です。
ここ半年、売上が横ばいです。1年前まで、移動累計は右肩上がりでした。しかし、ここ1年で状況が変わってきたようです。
数年前に先代から事業を引き継いだ2代目経営者です。OEMに加えて、自社ブランドでも事業展開しています。せっかく自社製品を持っているのに売上伸び悩みを放置してはもったいない・・・。
自社商品の事業では生殺与奪を自ら握ることができます。経営者の意志や意図を反映させられるのです。さらには市場で認められているブランドのお陰で価格は高いゾーンにあります。
冒頭の言葉です。
自社商品の開発や販売のやり方を変えて収益を改善します。高価格帯事業を可能するブランドがあるのです。これを活かさない手はありません。
モノづくり自体もさることながら、形のない価値をお客様に届けることも、儲ける力を高めるのに大切です。少数精鋭の中小製造であるなら、なおさらかもしれません。
売上高が低迷しているのはお客様に選ばれないからです。不況のせいではありません。なぜ選ばれないのか?を考える必要があります。
「不況」と言われる環境においても、結果を出している競合先があるからです。原因を外に求めているかぎり、経営者は改革を起こせません。
「お客様はどうして我が社を選んでくれるのだろうか?」
これは成長戦略に欠かせない論点です。
例えば、選ばれている理由が価格なら一考を要します。価格で選ばれる=安価です。安価な競合先が出てきたら、お客様は我が社ではなく、競合先を選ぶかもしれません。
圧倒的な安価戦略はお客様に選ばれます。が、そもそも価格競争戦略は中小の戦略ではありません。スケールメリットを生かすのは大手のやり方です。
中小製造企業は価格以外の論点で選ばれないと儲かりません。
お客様に届ける価値は2つあります。
・有形の価値
・無形の価値
私たちは製造業なので技術の世界で戦っています。技術革新と競合の追い上げに晒されているのです。コア技術を高度化しなければ人工(にんく)商売しかできなくなります。要素技術と管理技術。これらのイノベーションが必要です。
弊社のご支援の柱はここにあります。我が社の強みを生かすよう、お客様の要望に合わせて工場を変えるのです。成果は全て商品や製品、納期や品質に反映されます。
・これまで部品を単品で製造するだけだったが、他部品との組み合わせで組立品としてお客様へ届ける。
・切削加工しかしていなかったが、3Dプリンティングの新たな要素技術も組み合わせて、新たな部品をお客様へ届ける。
・これまで昼勤務体制で8:00~18:00の稼働だったが、2交代勤務体制を構築して8:00~23:00の稼働に変え短納期をお客様へ届ける。
こうしたことを競合に先駆けて実現させれば儲かります。有形の価値です。
一方で無形の価値があります。
先の企業には、先代が構築したブランドがあります。業界での知名度も小さくないブランドです。先代の地道な商品開発活動と販売活動の結果、今日の成果に至りました。
先の企業ではこれを強化するのです。
一定評価を獲得したブランドは我が社の事業をやり易くしてくれます。お客様は価値があると感じたので、そのブランドを選んでくれました。
お客様は、それを手にすることで、安心して仕事ができます。そして満足するのです。
有形な価値は機能的ですが、無形の価値は感情的、情緒的です。その意味で、お客様は我が社のファンになってくれたとも言えます。
機能的な価値は客観的です。一方、感情的、情緒的な価値は主観的です。我が社の無形の価値に「いいなぁ」と評価をして下さったお客様とは長いお付き合いができるかもしれません。
ご支援先に切削加工を事業の柱に据えている経営者がいらっしゃいます。コア技術の水準は競合先と同じです。
当然に、納期や品質は一定水準をクリアしています。が、競合先も納期を守っていますし、品質もしっかりしているので、それ自体が強みにはなりません。
そもそも、今どきの中小製造企業で納期遵守と品質安定だけが売りでは生き残れないでしょう。競合先と同じことをやっていても価格競争に陥るだけです。
しかし、この経営者には受注の電話が掛かってきます。経営者ご自身の仕事ぶりがその企業の価値を生み出しているのです。納期や品質へ丁寧に対応しています。クレームの一報があれば即、お客様のところへ駆けつけて対応するのです。
お客様は仕事の上での安心感や満足感を抱きます。経営者ご自身の仕事ぶりがブランドとして既存のお客様に浸透しているのです。
お客様にとって他の企業へ乗り換えるスイッチングコストは高くなります。蓄積してきた安心感と満足感を簡単に手放すことはありません。
無形の価値なので主観的です。大手のお客様なら「あれは、あの社長にお願いしておけば大丈夫だ。」との評価になっているかもしれません。そうなればしめたものです。
冒険をしたくない大手なら、取引を継続するでしょう。自動車部品工場時代、そうした協力会社があって、いろいろとお世話になったのを憶えています。頼りになる経営者がその協力会社にいたのです。
工場の仕事が従業員の属人的なやり方でやられているのは問題ですが、市場での仕事のやり方が経営者や幹部の属人的であっても全く問題はありません。
市場での仕事のやり方はそうあって欲しいのです。
経営者や幹部は我が社の「顔」です。お客様が安心感や満足感を得るために「顔」目当てで我が社のことを思い出してもらえるようにします。
中小製造の経営者や幹部が既存のお客様へ定期的に訪問する意義もココにあるのです。信頼関係を構築します。受注獲得はその結果です。
しばしばお伝えしている、スマイルカーブも無形の価値を提供する論点を与えてくれます。デザインインやメンテナンスです。お客様に提供する価値はモノではありません。結局、安心感や満足感です。無形の価値で付加価値額を積み上げます。
有形の価値は客観的に判断されます。機能的な勝負です。競合が攻めてくるリスクが常にあります。競争の論点が明らかだからです。
一方、ブランドや経営者のご自身の仕事ぶり、デザインインやメンテナンスなどを通じて提供する無形の価値は主観的に判断されます。
外部からはブラックボックスです。競合は簡単に攻められません。
主観的なだけに、お客様のスイッチングコストも高まるのです。満足しているのにわざわざ変えません。
したがって、無形の価値をお客様へ効果的にお届けできたら競争がなくなるのです。
中小現場管理者時代に展開したメンテナンスビジネスがそうでした。お客様にその旨、直接に言われたことがあります。小回りが利く中小製造ならではのサービスでした。
外の変化に合わせるために、内を変えます。変える基準は、できる?できない?ではありません。お客様の要望に応えることです。有形、無形の価値を届けるため変えます。
お客様の要望に焦点を当てると、リードタイム短縮が多くの中小製造現場で課題となります。ボトルネックの解消です。先の企業は、これから取り掛かります。
無形の価値をお客様へお届けしながら、競争のないビジネスを構築しませんか?製販一体の取り組みです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、無形の価値をお届けして競争することなく持続的優位性を維持している
衰退する現場は、有形の価値で納期遵守や品質安定をやっても競合と同じなので儲からない