「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第341話 儲かる外注と損する外注を判断しているか?
「先生、外注は減らさないとダメですよね。」
先日、個別相談をいただいた樹脂加工メーカー経営者の言葉です。
幸い、直近1年間の売上高は右肩上がりです。コロナで一旦、減収減益となりましたが、コロナ前の水準に戻ってきました。
嬉しいことに、今、それを超え、過去最高の売上水準に達しようとしています。経営者が外で新規顧客を開拓してきた成果です。
右肩上がりを実現している経営者は行動しています。外へ果敢に打って出るのです。お客様に選ばれない限り、売上や加価値額の積み上げはできません。
まずは我が社のことを知ってもらう必要があります。
外で自ら必死になって、汗をかく経営者には大きな力が働くようです。その経営者は良いご縁を引き寄せました。ここまでは良かったのですが・・・。
内の整備が追い付いていません。現場は積み上げ分の仕事をこなすのに四苦八苦です。外注を使いながらさばいています。
需要があるのに、その仕事を断ったら二度と仕事はこなくなると考えている経営者です。新たにご縁をいただいたお客様ならなおさらです。
せっかく引き寄せたご縁をモノにしようと工場長と知恵を絞っています。ただ、いまのやり方では儲からないのでは?との疑問が浮かんでいるようです。
外注費がかさみ、全社の付加価値額率(粗利率)が下がっています。冒頭の言葉です。
儲かる工場経営=持たない工場経営という考え方があります。ファブレスです。「設備を持たない製造業」と言えます。
技術の進化、イノベーションがドンドン起きている中、設備を持つことのリスクも無視できなくなってきました。
イノベーションと共にお客様の要望も変化します、変化に対応できず、付加価値額を積み上げるのに貢献できなくなった設備は資産上の負担にもなります。
そうであるならモノづくりは外部にお願いして、開発設計と試作に特化したいと考える経営者もいるはずです。
ただし、私たちは現物を手に取る道を選びました。そうであるならファブレスに負けないやり方を極めるだけです。圧倒的なQCDはお金になります。
中小製造企業は少数精鋭です。スケールメリットを生かすやり方では儲けられません。だからコア技術です。固有技術と管理技術で儲けます。
現物を扱うからこそのやり方です。そして、固有技術を複数持っていると競争に勝ちやすくなります。
・塑性加工なら自信はあるけど、切削加工はイマイチなので、これも極めたい。
・新たに塗装技術を我が社の固有技術にしたい。
・外注している金型を内製化したい。
などなど。
ただ、少数精鋭は手を広げられません。投入できる工数が限られます。失敗のリスクも大きいです。そこで、選択と集中。
お客様の要望に応えるために、外の力を借りるのも選択のひとつです。大手とは違います。
売上規模が大きくなると、扱く物量が増えるので、現場がその規模に効率よく対応できなければなりません。徐々に進めるのが無難です。外の力も借りながらやった方がリスクも抑制できます。
そもそも、我が社の固有技術で対応できない工程があれば、外にお願いするしかありません。将来的に新たな固有技術を加え、内製化を図るにしても、今は外にやってもらいます。
・自社でもできるけど、あえて外にお願いする。
・自社ではできないので、外にお願いする。
どちらの事情にせよ、外注戦略は事業を成長させる際に重要な役割を果たします。
外注費は変動費です。弊社では、変動費=材料費+外注費としています。製造量数量、販売数量に比例して、外へ出ていくお金のことです。
売上を手にしても、全てのお金は手元に残りません。
内製と違い、外注はお金がドンドン外へ出ます。外注が必要な製品の付加価値額率(粗利率)は内製品のそれと比べて、低くなる傾向にあるのです。
先の企業では、外注増とともに、全社の付加価値額率(粗利率)が低くなってきました。先の経営者はこの状況を気にしているのです。
事業成長過程では付加価値額率(粗利率)を気にすることはありません。なぜなら、製造業の収益構造は固定費vs付加価値額なので、この状況を維持できればOKです。
どんな手段でもいいので、付加価値額(粗利)を地道に積み上げて固定費分回収をします。固定費vs付加価値額、固定費の回収こそ、製造業儲けの本質です。
外注へ出すことで、やらない場合より、付加価値額を1円でも多く積み上げられるなら、その外注は我が社に貢献してくれています。
外注にドンドン出して、付加価値額を積み上げればいいのです。減らす必要はありません。誤った判断をすると機会損失となります。
外注戦略では下記の付加価値額をくらべることが大事です。
・外注したときに積み上がる付加価値額
・外注せず、全く製造できないときに積み上がる付加価値額
・外注せず、なんとか内製するときに積み上がる付加価値額
付加価値額を単価ベースで計算する場合、
@付加価値額=単価-@変動費(@は製品1個当たりと言う意味)
となります。
外注へ出すことで、積み上がる付加価値額が、外注しなかったときの付加価値額と比べて、1円でも多ければOKです。
@変動費が単価を上回ったら、その外注はお金が入ったのし袋を付けて、お客様へ出荷することになります。これは、比較以前の問題です。
単価を上回る外注費で儲かるはずもありませんが、そんな状況を放置している経営者はいないでしょう。儲かる外注と損する外注があります。
外注の是非は固定費vs付加価値額。規模の比較です。付加価値額率(粗利率)の多寡は原則、関係ありません。
付加価値額率(粗利率)は製品の素性を表しているだけです。お客様と取り交わした契約の内容を示しているのであって、数値が低いからダメ!高いからイイ!という類の数値ではありません。
その製品を提供するビジネスモデルを表しているだけです。このあたり、同じ「率」でも、営業利益率や経常利益率とは解釈のやり方が少々違います。
単純に率の多寡を比べられないのです。
したがって、異なるお客様、異なる製品で付加価値額率(粗利率)を比べるときは注意を要します。単に数値だけを見るのではなく、外注の有無や材料の扱いの把握も必要だということです。そうでないと誤った意思決定をします。
製造のたびにドンドン、お金が外へ出ていく様を目の当たりにすると、なんとなく儲からない感じになるものです。他と比べると付加価値額率(粗利率)が低くなっているかもしれません。ただ、それは気にしなくてもいいのです。
固定費を回収することに集中します。
率では食えません。規模です。
外注を活かすと、人時生産性向上も期待できます。分母の工数を増やすことなく、分子が積み上がるのです。外にやってもらうので、その分の直接工数を省けます。
ただし、外注管理で現場が混乱し余分な工数が加わる場合要注意です。人時生産性を劣化させます。外注で注意するならここです。
「なるほど、その数値を気にすればいいのですね。」腹落ちした経営者は人時生産性に焦点を当てたプロジェクトを進めようとしています。
出ていく費用だけでなく、積み上げられる付加価値額の規模と人時生産性に注目です。
正しい意思決定をしなければなりません。付加価値額率(粗利率)の多寡だけでは誤ります。指標が示す本質を理解することは大事です。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、付加価値額率の意味を知っているので効果的な外注をドンドンやっている
衰退する現場は、外にお金が出ていく外注は儲からないとの思い込みで儲け損ねている