「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第343話 手間暇がかかるは儲からないか?

「小ロットで手間がかかる仕事がウチにくるのです。」

先月からプロジェクトを開始した板金加工業経営者の言葉です。

 

大手メーカーへ部品を供給しています。規格品受注生産です。お客様からは、毎月、3先の生産数量が提示されます。3ヶ月見通しを踏まえて、製造準備をしている現場です。

お客様が取引している協力会社の規模は様々です。先の企業のように50人以下の規模もあれば、100人規模、200人規模・・・いろいろあります。

ロットの大きな部品は規模の大きな協力会社に発注されています。一方で手間暇がかかる小ロットの部品もあるのです。お客様はそれらを先の企業に発注しています。

この企業は小ロット品で貢献しているのです。

ひとつの部品1ヶ月当たり受注数が数千個程度もあります。が、数百個、数十個、場合によっては数個です。

冒頭の言葉です。

小ロットを丁寧にこなしてくれるので、お客様はその企業を選んでくれています。

 

 

 

 

 

生産形態には受注生産や見込生産、規格品生産や特注品生産などの分類があります。モノづくりの形態は複雑です。一通りで定義はできません。しかし、傾向は整理できます。

受注生産の傾向が強い、見込生産の傾向が強い、規格品生産の傾向が強い、特注品生産の傾向が強い。事業の体質です。

我が社の体質は整理しておく必要があります。「儲かりやすい事業形態」はあるので、それとの差異を把握できれば、我が社を儲かる体質に変える具体策が見えてくるからです。

 

小ロット生産と大ロット生産もそれぞれ特徴的な生産形態となります。

小ロット生産は手間暇がかかって儲からなそうです。しかし、お客様は小ロット生産の対応に魅力を感じているなら、小ロット生産でも儲かるやり方を考えるまでです。

 

お客様が我が社を選んでくれているのは、小ロット生産に対応してくれているということなら、小ロット生産で儲けるやり方を全員で考えます。

 

 

 

 

 

製造業は製販一体です。営業と工場が連携していないと儲かりません。連携とは二つです。

・モノの流れでの連携

・情報の流れでの連携

この2つの流れコントロールが要点です。流れを高速にします。競合に勝つには、モノも情報もスピードがカギです。

スピードの出る乗り物は便利です。自動車よりも新幹線、新幹線よりも飛行機が速くて便利です。しかし、トラブれば大事故を引き起こします。スピードが出るほどに、乗り物コントロールの難易度は高くなるものです。

小ロット生産で儲ける論点のひとつにスピードがあります。小ロット生産であっても、モノの流れと情報の流れのスピードを上げるのです。ただし、速くすればコントロールの難易度は上がります。やり方に工夫が必要です。

 

 

 

 

 

少ロット品は手間暇がかかります。それはお客様も理解してくれることです。モノを造れば売れる時代ならお客様も寛容なので「小ロット品だから従来からの高めの価格でやってください。」とお願いされるかもしれません。

しかし、生産性がグローバルで劣化し続けている昨今、もはやそんな悠長なことは言っていられません。大ロット品は当然のこと、小ロット品でも厳しい値引き要求が届きます。例えば、原材料仕様の決め方も厳しくなります。

鋳造加工なら原材料となる合金設定、板金加工なら製品歩留り設定など。コスト削減方向でお客様は要望してくるはずです。

先の板金加工企業でもそうです。小ロット品であっても製品歩留りを高く設定されます。

 

 

 

 

 

鉄でも非鉄でも原材料となる板材やコイルには供給するのに適したサイズがあります。板材なら3×6,4×8など。そのサイズで原材料を購入すれば購入の手間暇は省けます。

ただ、それで製品歩留りを高くできるかどうかは不明です。所定の原材料サイズから何個の製品を抜けるか?これが製品歩留りの定義です。

 

・所定の原材料寸法から、どれだけ製品を抜けるか?

規格化されたサイズの原材料を購入すれば、購入の手間暇はかかりません。しかし、端材が多く出る懸念があります。

歩留り最適化に限界があります。その分、材料コストは上がるのです。したがって、さらには次のように考えます。

・多くの製品数を抜くのに、必要最小寸法は?

端材を最小化するように材料寸法を決めるのです。これを実現できればお客様は喜びます。ただ、原材料購入と原材料管理の手間暇が増えるのです。

したがって、これらをスマートにこなせれば、小ロット生産でも飛行機水準のスピードを維持できまる可能性が高まります。

 

 

 

 

 

在庫管理の道具に棚札があります。

現品の在庫数をつねに明らかにするために用いる在庫帳です。一品一葉式のカード式で入出庫の都度、入庫数、出庫数、残高を担当者が記入します。棚札は現品保管棚に吊り下げたり、現品につけたりして使用するものです。

 

通常、原材料管理の棚札は購入した原材料の仕様毎に管理されます。受注が決まった製品を製造するのに適した原材料を棚札から選択するのです。在庫がなければ、そこで発注します。

大ロット生産を始め、多くの場合、棚札は原材料に紐づきます。原材料は規格品で購入されるからです。所定の原材料寸法から、どれだけ製品を抜けるか?となります。

 

しかし、小ロット生産であっても材料歩留まりを高め、コスト削減に貢献するなら、多くの製品数を抜くのに、必要最小寸法は?です。原材料購入は必要最小寸法を都度、準備することになります。

そこでは、棚札は製品(あるいは製品群)に紐づくのです。

手間暇がかかりますが、高製品歩留りを実現できます。先の企業は見積もりで設定された寸法の原材料を発注していました。先の企業がお客様に選ばれる理由がここにあります。

 

原材料が製品に紐づくやり方は手間暇がかかります。我が社の事情で考えればやりたくない方法です。材料発注や在庫管理が都度となり、煩雑になります。普通ならやりたくないです。

そこをあえてやっています。お客様の要望に合わせているのです。小回りが利く中小ならではとも言えます。

 

手間暇をかけた原材料の在庫管理。

柔軟性がある現場独自の棚札活用で小ロット生産でも飛行機水準のスピードを維持します。高速でモノと情報を流し、現場の強みを磨くのです。

 

仕事の手間暇がかかっても儲かることがあります。お客様に選ばれているならそうです。我が社の都合は関係ありません。

そして、手間暇がかかる仕事をスマートにやれるようになればもっと儲かります。

 

 

 

 

 

「ただし、お客様の要望にだけ応えていても儲けは限定的です。」とは先の経営者の言葉。

小ロット品とは言え、今や高価格品とは言い難い状況です。「単品では儲からない」を実感しています。そもそもの儲かるビジネスモデルから考えないと儲かりません。

単品供給だけでなく、新たなビジメスモデルにも挑戦しようとしている経営者です。そのためにも、先代から引き継いだ今のビジネスで足元の収益は確保しなければなりません。

今と将来に向けた取り組みを平行させるのです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、小ロット生産で手間暇をかける意義を知っているからやり方を工夫する。

衰退する現場は、小ロット生産で手間暇がかかる仕事をそのままやるので混乱する。