「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第351話 現場に危機感を持たせようとしていないか?

「現場に期待をしてもダメということですね。」

40人規模、板金加工メーカー経営者の言葉です。

 

PJを成功させるためにベクトルを揃えます。全社一体、製販一体です。

どうやってベクトルを揃えるか?ここで経営者は苦労します。先の経営者は危機感を共有しようとしました。

今の収益はまずまずです。しかし、今のやり方のままでは遠くない将来、右肩下がりになる恐れがあると感じているからです。

 

経営者の頭に浮かんだのが、現場と危機感を共有すること・・・・・。我が社の危機を知れば動いてくれるはずだと考えたのです。

そこで現場キーパーソンを通じて現場へ伝えようとしました。しかし、うまくいきません。なぜ上手くいかないのか?

先の経営者はその理由を理解できました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

経営者は改革に取り組みます。生き残りをかけた戦に勝つためです。ただし、現場も意識も構造も簡単に変わりません。時間が掛かります。だから経営者は時間を味方に付けるのです。

時間軸に沿った作戦がロードマップに書かれています。

とは言っても、時間を味方につけた取り組みは少数精鋭の現場では定着し難いです。なぜなら、経営者と現場の持っている時間軸は異なるからです。

 

我が社が生き残るためには、足元の仕事に加えて、開発や改革のような将来の仕事もこなさなければなりません。時間に追われる日々であっても、時間軸の長い仕事もこなせるようにするのは経営者の仕事です。

そうしないと、緊急度の高い仕事だけがやられて、開発や改革は後回しになります。

そして、もっと大切なことがあります。そもそも、なぜ時間軸の長い、仕事が存在するのか?ということです。現場がそのことを理解しているか?していないか?によって、開発や改革の成否が決まります。

 

では、「なぜ時間軸の長い、仕事が存在するのか?」

事業で成果を出すためには、市場に向き合わなければならないからです。収益獲得組織であるならそうなります。

市場にお客様と競合がいます。競合を出し抜いて、お客様に選ばれなければ生き残れないのです。お客様の要望に応えられるように我が社を変えます。

変えることは簡単ではないので、時間を味方にするのです。簡単にできるなら、競合先もとっくの前にやっています。

市場と向き合うからこそ、時間軸が長い仕事もこなさなければならないのです。そのことを現場へおしえなければなりません。

人時生産性向上PJは市場に向き合うからこそ必要なのです。

 

市場に向き合うため。

経営者の視点、観点、論点、判断基準は全てこれです。

付加価値額の源泉は市場にしかありません。工場にあるのはコストだけです。したがって、社長業とは市場と向き合うこととも言えます。

経営者は市場に向き合っているので、外部の変化を感じやすいです。

ただし、現場は日々、内で目の前の仕事をこなすことに全精力を費やしています。市場、そのものを感じることはありません。あっても稀です。

 

 

 

 

 

先の経営者は現場が危機感を持たないことに焦りを感じていました。しかし、現場が危機感を持てないのは当然です。他人事として無責任ではなく、そういう役割ということです。

従業員は目の前にある仕事をこなします。原則、それが役割です。そうやって日々の仕事に励んでいれば、月末には我が家の銀行口座に給料が振り込まれます。

ありがたいことだと考え、着実に仕事をこなせばそうなると信じているのが従業員です。

 

2年後、3年後、5年後を見通しながら将来を考えている経営者が危機感を感じていても、従業員はそう感じられません。目の前にある仕事をこなすのが仕事だから当然です。

従来の環境の下で、危機感を感じてもらおうという経営者の願いの方に無理があります。

 

海岸の高台から双眼鏡で遠方まで見通せるのが経営者です。経営者には迫りくる津波が見えます。そうして経営者は危機感をいだくのです。

しかし、従業員は海岸の砂浜で立って、水平線を見つめる程度です。迫りくる津波は見えません。従業員は危機感を抱きようがありません。視点の高さはそもそも経営者と違います。

 

 

 

 

 

ただ、従業員に危機感を持ってもらおうと考えること自体は悪いことではありません。従業員には、今のやり方を変えて、将来へ向けて新たなことに挑戦して欲しいのです。

多くの経営者は、「我が社は危機だ」との思いがそのきっかけになることを期待しています。だから危機感を持ってもらいたいと考えるのです。

 

目的が将来へ向けて新たなことに挑戦して欲しいことにあるなら、危機感ではなく、別のことを知らせます。そのやり方は、「市場に向き合うために」と考えれば明らかです。

市場のことを現場へ教えます。外を知らなければ、現場は自分の立ち位置を理解できません。比べるものがなければ、自分が所属している現場の思考回路が正しいと思い込みます。外を知る機会があれば、そうした問題は解消できます。

「お客様のこと」

「競合先のこと」

 

・お客様はもっと短納期を願っている。

・お客様はもっと使いやすい装置を望んでいる。

・お客様はもっとたくさんの数量を納入して欲しいと願っている。

・競合先は新たな技術の開発に力を入れているようだ。

・競合先はお客様との交流をしばしばやっているようだ。

・競合先では現場キーパーソンが現場を仕切れるだけのスキルを持っているようだ。

・・・・・外で得られた市場の情報を現場へ伝えます。

 

「先生、他の会社ではどんな風にやっているのですか?」

意欲的な現場のキーパーソンからこうした質問を投げかけられます。弊社はご支援先での事例を説明することがしばしばです。

企業を特定されないようにアレンジするするのは当然として、本質的な部分を身近な比較事例として現場のキーパーソン達に説明しています。

 

中小製造現場で頑張っている現場キーパーソン達が全国にあちらこちらにいて、皆、それぞれの現場で頑張っているのです。意欲ある人材なら知りたくなります。

危機感でなくても、外の情報に触れることで、志ある人材は今のやり方を変えて、将来へ向けて新たなことに挑戦したくなるものです。比較による動機づけです。

 

 

 

 

 

ただし、やみくもに市場の話をしても効果はありません。比較対象が明らかになっていることが前提です。

比べるものがあれば外のやり方が気になります。だからPJの中で市場の話をすると志ある人材はそうした話に食いついてきてくれます。

 

例えばLT短縮の実績を蓄積するのに、あの企業では作業日報からデータを読み取り、データベースへ入力し、その後データ処理して知りたいことを見える化し・・・・、他社でやっている現場での具体手順に興味を示すことが多いようです。

 

「ウチでもやってみようとおもうけど、こうやればイイのだろうか。」と考えている現場キーパーソンにとっては絶好の比較対象となります。

将来へ向けて新たなことに挑戦して欲しいならば、PJを通じて市場に向き合うことを現場に経験させればイイのです。

 

現場が危機感を経営者と一緒に持って、考え、困難を乗り切ろうとするのが最良のやり方であるのは明らかですが、それは全て、コミュニケーション次第です。

戦略的コミュニケーションが土台にあるのなら、経営者は現場へ直接に危機を語り、そして、乗り切るための協力をお願いできます。トップダウンがあるからです。

しかし、土台がなければ、やり方を変えて、現場に火を付けます。

それが比較による動機付けです。

土台が無いのに、危機を語ると、「危機感を煽られている」と感じて、身を引き、会社を去る従業員が出ないとも限りません。ここは要注意です。

 

 

 

 

 

時間軸にしても、目線の高さにしても、経営者と現場の観点や判断基準は原則、同じではありません。役割が違うので当然です。

しかし、全社一体、製販一体のために経営者から作業者までベクトルを揃える必要があります。そこで「市場に向き合うために」へ焦点を当てるのです。

事業のスタートは市場と向き合うことからです。ここに焦点を当てれば、時間軸の長さや視点の高さが違っても共通の思考回路を持つきっかけを手にできます。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、市場に向き合うためにと考えるので製販一体のベクトルが揃いやすい

衰退する現場は、危機感を煽ってベクトルを揃えようとしてかえってばらばらになる