「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第352話 経営者の姿勢が問われるとは?

「直接に出向いたからだと思います。」

人時生産性向上PJに取り組んでいる40人規模企業経営者の言葉です。

 

これまで継続的な現場活動をやってきませんでした。現場に地道な人時生産性向上活動をやらせたいと考えています。そこで、今、現場キーパーソンへLT短縮の実務を学ばせています。

 

ただし、生産管理の守備範囲は広いです。QCD3本柱分だけあります。闇雲にやっても、我流に陥るだけです。勝手な思い込みでやっても、結局、続けられなくなって、元の木阿弥。

そこで、昨年から、現場キーパーソンに手順を学ばせています。

詰めて、空けて、取り込むための考え方と具体手順です。工程管理、品質管理、原価管理のお作法は教えてもらわなければどうしようもありません。

 

一方で経営者にも課題があります。新規受注の開拓です。

 

大手の下請け型モデルで部品を供給する事業を展開してきましたが、今の事業モデルの限界を感じています。売上高が右肩下がり傾向です。

既存の主要なお客様からの受注量は増えそうにありません。今の主要なお客様から電話が掛かってくるのを待つだけでは早晩、行き詰まります。新規受注の獲得が不可欠です。

 

先の企業は先代の時から下請け型モデルでやっていました。親企業が右肩上がりなら安定した成長路線を歩めます。届いた受注をこなせば、結果として我が社も成長できます。

親企業が成長しているなら、「一蓮托生戦略」は中小製造企業にとって最もコスパが良い戦略です。営業コストをミニマム化できます。

しかし、親企業が伸び悩んだら、死なば諸共です。我が社の生殺与奪権を他人に握られたままであることを望む経営者はいません。

 

 

 

新規受注の獲得先は2つあります。

既存のお客様と新規のお客様です。

先の経営者は既存のお客様を深掘りしても新規受注は獲得できないと感じています。そうであるなら、新たなお客様と出会うしかありません。

 

中小製造企業はその規模と商圏の狭さから、経営者自身が思うほどに我が社の良さは市場に伝わっていません。つまり、我が社のことを知らないお客様が圧倒的に多いのです。

まずは見つけてもらうことです。必死になって市場で手をあげます。そのための実務を先の経営者と検討し、計画を立てて実践へ移しました。

 

丸腰でお客様に会うことはしません。そのための準備が必要です。昨今、チャネルもいろいろあります。従来のやり方やSNSを活用するやり方まで多様です。

新規受注開拓に必死な先の経営者は、全てを並行させる計画を実践しています。

 

 

 

 

 

市場で手をあげるやり方はいろいろあります。コストと効果の水準を踏まえて選択すればいいわけです。

先の経営者が選択したやり方のひとつに「直接、お客様先へ出向く」がありました。事前にアポをとってお邪魔することに加えて、アポなしで出向くこともやっている経営者です。

 

先代も創業時代に、同じようなことをやって主要なお客様と出会いました。そうした事実も先の経営者の行動を後押してくれています。

飛込営業なぞ前近代的なやり方だ・・・という意見があるかもしれません。しかし、その経営者はそうしたやり方にも挑戦したのです。

 

その結果、ある企業と出会いました。伺ったときに、たまたま社内に居た役員と話をすることもできたとのこと。すると数日して、その役員から直接電話が掛かってきました。

「もう少し詳しい話をお願いしたい」となったのです。先の経営者は、訪問先企業の役員から電話が掛かってきたことに手ごたえを感じました。

 

普通なら、メール一本でその旨を伝えれもらえばいいところです。それを、「わざわざ」電話でその旨を伝えてくれたのです。その企業は我が社のことを憶えてくれました。

「どうして、その企業の役員はわざわざ電話をしてくれたと思いますか?」

先の経営者へ尋ねました。

ちょっと考えてからその経営者の口から出てきたのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営のお作法はあります。人時生産性向上に着目し、詰めて空けて取り込むLT短縮活動とお客様に選ばれる市場での活動を製販一体でやれる仕組みを造るのがその具体策です。いわゆるノウハウであり手順となります。

 

その意味でお作法は大事です。ただ、それだけでうまくいかないのが中小の工場経営と言えます。経営者の姿勢も問われるのです。

 

先の経営者は手間暇をかけて、多くのまだ見ぬ新規のお客様のところへ足を運びました。アポなしで訪問することもあります。いわゆる飛込です。

訪問しても、誰も会ってくれないこともあります。「心が折れることがあります。」とは先の経営者の言葉です。自らを励ましながら、直接の訪問による開拓に挑戦をしています。

 

当然、先の経営者は、展示会やDMなど、その他のチャネルによる活動も計画しています。社内からは、それだけで十分ではないかとの声も出ました。

つまり「我が社の社長が直接に足を運んで時間をかけても、商談へ繋がらないことが多いので、そんな効率が悪いことをやっていては、無駄である。」という意見です。

それでも、先の経営者は「心が折れることがある。」と言いながら、まだ見ぬお客様への直接の訪問を実践しています。

 

社運を賭けた新規受注開拓をやったことのない従業員が、先の社内意見を他人事のように言っているのは仕方がないことです。従業員は経営者の視点を理解できないからです。

必死の経営者には、効率なぞ念頭にありません。当然、経営者の持ち時間も一定です。したがって、手間暇とも相談しなければなりません。

ただ、一つ言えることは、経営者が工場にいる限り、新規顧客と直接出会う機会はゼロだということです。

 

営業部門の従業員が新規のお客様を自ら開拓したという話はあまり聞きません。これは大手もそうです。新規の主要お客様の開拓となれば、大手でも幹部クラスの話です。

よって中小の場合、経営者が直接にお客様と出会うことに時間を割くことになります。

 

そもそも、先の企業は売上高右肩下がり状況に置かれているのです。効率云々を語る以前であり、時間が許す限り、経営者はやれることをやります。こうなると全員営業体制です。

 

先の経営者が出会った企業の役員がわざわざ電話で返してくれたのは、こちらが手間暇かけて訪問したことによると推察されます。

手間暇掛けて訪問したことに対し礼を尽くしてくれたのかもしれません。そうした品格を持った企業なのかもしれません。こうした出会いは、SNSやDMではなかなかないでしょう。

 

そのことを理解している経営者なので、従業員の意見を無視して、自ら訪問活動を続けています。こうした必死な仕事ぶりに経営者の姿勢が示されるのです。

 

出会った企業と契約を交わすまでには至っていませんが、一連の結果は、先に経営者の自信につながっています。初めてで不安だらけでしたが、必死にやれば結果が出そうです。

そうした経営者の必死の姿勢は、志ある現場キーパーソンに伝わります。

 

 

 

 

 

我々は収益獲得組織です。効率は重要な論点となります。しかし、社運を賭ける、必死のときは、効率を問うている場合ではありません。是が非でも、きっかけを見つけたいのです。

経営者の言動は効率を飛び越えた必死な姿勢になります。

 

必死な姿勢には見えない大きな力が働くものです。

そうした事例をご支援先で拝見することがあります。こうした事例を通じて、弊社は経営者の方々の姿勢について、逆に学ばせていただいています。

 

・お作法

・姿勢

収益を確保するためのお作法がうまく機能するかどうかは、経営者の姿勢次第です。効率度外視の必死な姿勢があればお作法が効果的に機能します。お作法を実践するのは経営者の姿勢に感化された現場だからです。

 

・お作法が仏、姿勢が魂

弊社の仕事は人時生産性向上のお作法をお伝えすることですが、それを機能させるためには経営者の姿勢も重要であると感じる場面がしばしばです。

 

先の企業では、新規受注獲得の成果が出た暁に、人時生産性向上の仕組みが機能するはずです。今、経営者の右腕役を担う現場キーパーソンが学んでいるのに加えて、経営者の効率を度外視した必死の活動を目にしているからです。

経営者の姿勢も問われます。

 

現場は、外での活動が内での活動に比べてどんなに大変なのかを知ります。辛い仕事をやってくれるから社長は偉いのだということを自然に理解するのです。

現場の役割は経営者を支援することにあります。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、経営者が効率度外視の必死な姿勢を目にして自分の役割を思い出す

衰退する現場は、経営者の必死な姿勢を目にしても効率度外視の意味を理解できない