「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第360話 従業員に協力をお願いしているか?

「行動を促したいのですが、不安にはさせたくありません。」

新年度を迎え、今期の黒字必達、不退転の意志を従業員に伝えたいと考えている年商4億円規模、経営者の言葉です。

 

来月、新年度経営方針計画の説明会があります。従業員の自主的な行動を促す機会にしたいところです。

前期と前々期の2期連続で赤字となりました。数千万円規模です。3年連続は避けなければなりません。銀行との良好な関係を維持する上でも大事です。黒字必達を今期目標としました。

経営者は、従業員に一踏ん張りを期待したいのです。

そこで、2年連続数千万円の赤字になっている我が社の状況を従業員に伝えようか・・・と考えましたが気になることがあります。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

従業員に危機感を持たせることは難しいです。経営者と従業員では視線の高さが異なります。従業員に経営者の視線を持てと言うのは無理です。

役割が違います。従業員の役割はトップダウンの指示導線を機能させることです。経営者や管理者をサポートします。

 

危機感とは経営者が抱くものです。右腕役がいるなら、その右腕役は「社長、それはまずいですね。」と経営者と同じ水準の危機感を抱いてくれます。

そもそも、我が社のことを自分事のこととして考えてくれる人材だから右腕役に選んだはずです。そして、それに見合ったポジション(幹部や工場長)と報酬を与えています。

 

危機感と使命感は表裏一体。

使命感のある人は「なんで自分がやらなければならないのか?」という思考回路を持ちません。全て自分事です。生き様がそうした志をその人材に持たせませした。

右腕役とはそういう人です。

 

従業員に右腕役並の使命感や危機感を期待すること自体、間違っています。役割が違います。従業員に抱いてもらいたいことは、置かれた環境で常に最善を尽くすことです。

つまり「考える」ことです。

 

言われたことしかやらない従業員の集まりはチームと言えません。単なる集団にすぎません。だから、従業員には、置かれた環境で常に最善を尽くすために「考える」ことを求め、促します。従業員に求めるのは「考える」ことです。

そして、「考える」は「比べる」です。

経営者は従業員に比べる対象をどんどん与えます。

 

市場で起きていること、お客様から我が社について言われたこと、業界で進んでいる技術革新のこと、競合先で行われている現場活動のこと、地元の同業者がはじめた勉強会のこと。外のことに触れる機会が少ない現場へ外を知らせるのです。

 

自社製品がお客様の現場でどのように使われているかを若手に見せて考えさせている経営者もいます。比べる対象を与えれば、人は考えたくなるのです。

 

 

 

 

 

経営者は従業員に「考える」ことを求め、行動を促します。いわゆる動機付けです。人生を20年、30年、40年過ごした人に「やりなさい」と言ったところで、行動を変えられません。

言ってきかせる →行動を促す

これはできません。

 

外のことを知らせる →考えさせる →行動を促す。

これで動機付けるしかないのです。

 

志がある人材は勝手に自ら育ちますが、この場合にしても、経営者が繰り返し語る言葉や必死な行動に触れて育つわけで、言われているから育っているわけではありません。

つまり志ある人材が現れるか否かは全て経営者次第です。

経営者の必死な言動 →行動を促す

 

先の経営者の仕事ぶりを拝見して、PJリーダーに指名した右腕役従業員がしっかり役割を果たしている姿、指示導線が機能している現場状況に納得できます。

全て経営者の言動で決まるからです。

 

 

 

 

 

従業員の行動を促すには時間がかかります。

しかし、我が社が緊急事態で厳しい状況に直面した場合、こんな悠長なことをやっていられません。そんなとき、今すぐに、さらなる製販一体、全社一丸の行動を促したいのです。

 

先の経営者は自社の悪化した収益状況を伝えようと考えました。

会社の置かれた厳しい状況を理解してもらうためです。状況を数値で伝えて、正しく理解してもらうことの重要性は論を俟ちません。正しい判断は、正しい現状理解からです。

 

「売上が計画350百万円に対して250百万円にとどまった。」

「昨年赤字10百万円に対して、今年も20百万円の赤字だった。」

 

ただし、この話を聞かされた従業員はどう感じるか?

現場部門の従業員にしても、営業部門の従業員にしても、売上が減少しているのは知っています。

主要なお客様からの受注が減ってきるのは営業の窓口に立っていれば嫌でもわかります。製造現場の現場キーパーソンにしても、主要なお客様からの仕事が減っているなぁというのは作業量の変化から肌感覚でしっています。

 

それを改めて言われたところで不安が募るだけです。

「3年連続赤字になったらどうなるのだろう・・・・。」こんな心配に従業員は閉塞感を感じています。売上高が減っているので赤字です。

 

「減った売上高をどうやってふやすのか?」

従業員はこれが気になっています。経営者が、従業員に、最も気にしていることを教えなければ、状況を数値で伝えて、正しく理解させても、従業員の不安を大きくするだけです。

「行動を促したいのですが、不安にはさせたくありません。」

2年連続赤字はしょうがないので、従業員には将来のことを伝える。

先の経営者はこの考え方に従って従業員へ説明することを考えました。

 

 

 

 

 

●経営課題である受注増はトップ自らが獲りに行くことを宣言する

赤字原因のほとんどは販売不振です。固定費を回収する分の付加価値額を生み出せていません。そうであるならやることは2つです。

・既存のお客様を深掘りして一層の受注を獲得する

・新規のお客様と新たなご縁を結ぶ

営業部門には見通しある受注を取りこぼさないようにお客様をフォローしてもらい、経営者は上記2つで売上高を積み上げます。市場と向き合う仕事に専念です。

来年の〇〇月までに新たな受注〇〇百万円分積み上げることを宣言します。納期のない取り組みは仕事ではありません。先の経営者は、来月から毎月、自身の取り組み状況を全従業員へ説明するつもりです。

 

我が社はどんな事態に陥っても打つ手があると従業員へ伝えます。足元のことだけでなく、1年先、3年先、5年先、将来構想を示すのです。経営者が先頭に立ってそれをやると知らせます。だからロードマップです。

 

足元が悪くても、将来の具体策を示されれば従業員は不安を払拭して仕事に専念できます。経営者が従業員と一緒になって、足元の悪いことで右往左往していたら、従業員は地に足をつけて業務に打ち込めません。

 

●全従業員に厳しい局面を乗り越えるための協力をお願いする

厳しい局面を乗り越えるために「協力をお願いしたい」と一人ひとりへ明確に伝えます。経営者が営業部門、製造部門、全従業員に協力を依頼するのです。

「力を貸して欲しい。」

そのかわり、経営者自身が先頭に立って受注を獲得しにいく決意を伝えます。ついては支援をお願いしたいお願いをするのです。

従業員はそれぞれの役割を果たして欲しい、工場長、職長の指示にしたがって、知恵を絞って欲しいと働きかけます。

 

厳しい局面は経営者一人で乗り越えられるものではありません。

「他人の力」を借りるのです。

そもそも、商売における全ての決定権はお客様、市場が持っています。自分たちはどうしようもありません。その市場の要望に応えることが私たちの仕事です。

お客様の要望に応えられなければ生き残れません。内部事情とは別です。できないことでもできるようにします。無理を承知で従業員に頑張ってもらうのです。

お願いするしかありません。

 

 

 

 

 

経営者が全従業員へお願いする以上、自身の行動を説明するのは当然のことだとその経営者は考えています。

経営者自らの必死の行動を従業員へ伝え、その上で協力をお願いする。これが従業員の行動を促すもうひとつのやり方です。

来月の新年度経営方針計画の説明会では、赤字脱却PJを上記のように説明する予定です。

経営者の言葉を受け止め、行動を変えられる現場に変わりつつあります。40代右腕役工場長が数名の職長と連携して現場を導くはずです。お作法は学び終えました。

 

「自らの必死の行動を伝え、その上で協力をお願いする」

書けば一行ですが、簡単にできることではありません。準備に1年を要しましたが、それでもこうした場面を見据えてPJに着手した先の経営者には見通す力がありました。経営者の目線は常に将来です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、経営者の言動に触れた右腕役が現場の行動を促して経営者を支援する

衰退する現場は、経営者が行動せよとの直接指示しか届かないので指示がスルーされる