「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第370話 右腕役をトレーニングする機会があるか?
「右腕役へ指示をしても業務が定着しません。」
先日、個別相談いただいた50人規模素材メーカー経営者の言葉です。
各種指標で工場経営の見える化をしています。現状は把握できていると考えている経営者です。経営改革で事業のステージを高めたいと目論んでいます。
これまで、改革水準の取り組みを進めるよう、右腕役に指示は出してきました。しかし、今のところ、継続的な取り組みはできていません。
取り組みを定着させられない右腕役の仕事ぶりに物足りなさを感じています。
冒頭の言葉です。
改革業務はトップダウンがない限り定着しません。納期遵守の日常業務と全く異なります。
日常業務は横のつながりで処理されます。標準作業ベースの仕事です。
やることは分かっています。
しかし、人時生産性向上のような改革業務はそれとは異なります。
そもそも、改革に標準はありません。
トップダウンで経営者の意志や意図を浸透させないと、緊急度高い日常業務に埋もれます。そのうちうやむやになって雲散霧消です。
製造現場では、経営者からの指示を管理者と指示する人を通じて作業者へ浸透させます。管理者と指示する人との連携が重要です。
現場には多くの情報が飛び交っています。
作業者は原則、標準書にしたがって仕事を進めればいいわけですが、飛び交う多くの情報も正しく受け取り、それを作業へ反映させなければなりません。変更や突発もたびたびです。
製造現場はいわゆる「複雑系」です。
個力で処理できません。お客様から続々と届く情報を直接に作業者へ流していたら現場は破綻します。お客様から届く情報は、「我が社流」に翻訳してから現場へ伝える必要があるのです。お客様と製造現場を情報で橋渡しする役割を管理者と指示する人は担っています。
・管理者はお客様からの要望事項を指示する人へ伝える。
・指示する人は現場ができることとできないことを管理者へ伝える。
そうして、管理者と指示する人は経営者に代わって、現場ができないことをできるよう導きます。
経営者の意志や意図は「できないことをできるようにしてお客様の要望に応え、競合を出し抜く」です。競合とおなじ事をやっていても儲かりません。無理を承知でできないことに挑戦させます。
それが技術の世界で戦っている製造業経営者の姿勢です。
管理者や指示する人は、経営者の「無理を承知で」を理解した上で、経営者の意志や意図を実現させるためにできないことをできるよう現場を導きます。
指示導線を機能させるには管理する人や指示する人が経営者の意志や意図を理解していなければなりません。経営者の意志や意図を現場へ“導き入れる”のが導線です。
ただし、その導線が機能しない状況に直面している中小現場があります。管理者や指示する人が「経営者の意志や意図」を理解できていない弊害、問題です。
管理する人や指示する人が経営者の意志や意図を理解できていない現場は「できないこと」に直面したら、どうするか。
・できないことをできるようにする。
・できることをやる。
経営者は前者の言動を現場に期待します。しかし、後者の言動に留まる現場が少なくないのです。「これは難しいから、○○までしかできません。」との言動です。
判断基準は「今、できること」になっています。
今、できていなくても構わないのです。ここでは、将来に向けてできないことを克服しようとする姿勢の有無が問われます。できないことを認識した後の姿勢が大事なのです。
自分達で何とかしようとする使命感や当事者意識、責任感です。
「責任」は教えられますが、「責任感」は教えられません。使命感や当事者意識、責任感を持った現場キーパーソンが居る現場なら、経営者は工場を現場に任せられます。
使命感や当事者意識、責任感は教えられませんが、仕事の手順は指導できます。経営者は右腕役に自身の仕事ぶりを見せ、自身の哲学を伝え、仕事の手順を具体的に指導するのです。
哲学だけでは抽象的で現場感に欠けます。
一方で哲学の抜けた具体手順は形骸化する懸念があります。
これらは右腕役に仕事の手順を指導するときの留意点です。
指示導線を機能させるのに必要な仕事
・管理者はお客様からの要望事項を指示する人へ伝える。
・指示する人は現場ができることとできないことを管理者へ伝える。
・そうして、管理者と指示する人は現場ができないことをできるように導く。
指示導線を機能させるために、経営者は指導が必要です。
●経営者は管理者や指示する人へ「外」のことを伝える。
現場の判断基準は全てお客さまにあることを教えるためです。
お客さまに選ばれるには競合を出し抜かなければなりません。市場のこと、業界のこと、お客様のこと、競合のこと。スループットの源泉はお客さまにしかないことを教えます。
お客様の要望に応えることが生き残り条件であるなら、お客さまの要望を実現させられない現場は生き残れないのです。お客様の要望を実現できなければ、できるように自分達が変わるしかありません。
したがって指示導線での指示は、お客様の要望を実現させるためにやらなければならないことであり、できないことをできるようにすることです。自分たちができるとかできないとかは関係ありません。
管理者や指示する人の判断基準を「外」へ向かせます。
●数値化、継続、比べるスキルを伝える。
できないことをできるようにするには、ビフォーアフターの設定が必要です。数値化です。品質指標、コスト指標、生産指標。工場経営は全て数値で語られます。
そうであるなら、現場主導の活動も同様です。数値化で共通用語ができます。共通用語ができればベクトルが揃いやすくなります。数値は具体的だからです。
継続して指標とすれば、現場は納期以外で気にするべき数値があるのだと知ります。ビフォーアフターで比べれば差異が分かり、それを埋めることが課題です。
課題が明確な現場のベクトルは揃います。
●時間軸、見通し、納期設定のスキルを伝える。
納期のない仕事は仕事とは言えません。納期の重要性は論を俟たないですが、この納期設定がうまくいかない支援先現場がしばしばあります。
自ら納期を設定し、それを遵守しながら次へ進むことがなかなかできないのです。改革業務は日常業務と違って、自ら納期を設定し、自らPDCAを回します。
納期はお客様から与えられるものという環境に身を置いているとそれができないのです。
これは「計画を立てられない」に繋がってしまいます。現場の活動計画表がないと、経営者は工場の状況を把握できません。そうした経営者は社長業に専念できないままです。
経営者は下記を右腕役に指導しなければなりません。指示導線を機能させるためです。
●経営者は管理者や指示する人へ「外」のことを伝える。
●数値化、継続、比べるスキルを伝える。
●時間軸、見通し、納期設定のスキルを伝える。
こうしたことを右腕役が習得、会得、体得し、自らの血や肉として業務に活かすには訓練が必要です。実務を通じたトレーニングです。
現場のスキルアップは実務を通じてしか成し得ません。
必要な時に必要なものが必要なだけ出てくるようにするトレーニングをやるのです。頭に入れただけの知識は出てきません。座学だけでは頭に入っている知識を適切に引き出せません。
ドラえもんのポケットのように必要な時に必要なものが必要なだけ出せる訓練が必要です。生産管理3本柱のお作法とはそういう類の知識です。
弊社ではプロジェクトを通じて、経営者の右腕役候補をトレーニングしています。これは効果的な訓練方法です。
他では耳にできない他社事例に触れながら、実務の訓練をします。比べる対象があると仕事が進みやすいのです。貴社では右腕役をトレーニングしていますか?
先の経営者は指示導線を強化すること、日常業務とはことなる改革業務に必要なスキルを訓練すること、この2つが課題であることに気付いたようです。
次は貴社が挑戦する番です。
成長する現場は、必要なスキルを実務を通じた訓練で身につけるので実践で使えている
衰退する現場は、座学の知識に留まるのでスキルが必要なときに出てこない