「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第371話 決定、決断するのが経営者の仕事

 

「考えがブレると従業員へ曖昧なことを伝えてします。」

30人規模メーカー経営者の言葉です。

 

販売不振を受けて、受注獲得強化体制を敷こうとしています。これまでやったことがない体制です。

経営者の仕事は内ではなく外にあると気付いた経営者です。

同族企業であり幹部は親族です。長年、一緒に仕事をしてきましたが、経営者、幹部の仕事場は外にあるという考え方に幹部全員が納得した状況に至っていません。

新たなに構築しようとしている受注獲得強化体制に反対の意思表示をしている親族もいます。そうした意見に触れると先の経営者の心は揺らぐようです。

 

新体制に移行することは従業員に伝えているのですが、それが上手くいくかどうかわからない不安な気持ちにも引っ張られて、つい曖昧(余計)なことを従業員へ語ってします。考え方が固まっていないのが原因で曖昧(余計)なことを伝えている自身に気付くようです。

聞く耳を持った謙虚で真摯な経営者です。

自身の言動を変えなければと振り返りができる経営者でもあります。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

中小製造企業経営者の仕事は儲かる事業モデルをつくることにあります。

目線は外に向いていないといけません。付加価値額の源泉は内にはないからです。さらに経営者の時間軸は将来におきます。進化している技術を使いこなして、お客様に選ばれる商品を開発するには少なくとも3年や5年はかかるからです。

経営者の仕事場は外であり将来にあります。

こうした目線と時間軸で仕事をやって出来上がるのが儲かる事業モデルです。

お客様のこと一番知っている経営者がお客様の要望に応えられるよう、時間を掛けて技術開発や商品開発を先導します。さらにはお客様の要望に応えられるよう現場を作り替えるのです。こうやって将来収益を確保します。

その一方で従業員には今の仕事や内での仕事に頑張ってもらいます。作業標準の業務をチームでこなして効率の高い製造を実現するのです。決められたことは守ってもらいます。足元収益も確保しなければなりません。

 

・将来収益のために変わることをお願いする。

・足元収益のために決められたことを守るようお願いをする。

 

工場経営の本質は経営者の想いを“他人の力”を借りて実現させることにあります。経営者は従業員にお願いをするしかないのです。

自身の事業を成長させるために、わざわざ”他人“を採用します。他人の力を借りるとはそういうことです。

そして、事業を成長路線にのせた経営者が地元の雇用に貢献できます。これは多くの経営者が願っていることのひとつです。

 

 

 

 

 

・従業員にお願いする

・自身の想いを伝えて動いてもらう

・”他人の力“を借りる

お願いするとはトップダウンに他なりません。トップダウンで伝えるからベクトルが揃います。経営者はそのために、考え、決定し決断するのです。

経営者は我が社を儲かる方向へ導きます。ただし正しい答えは誰にも分かりません。先が見通せない状況であっても、決めなければならないことがしばしばです。

・無理を承知でこの案件を受注すべきかリスクを避けて断るべきか。

・新たなコア技術とする設備投資をやるべきか外注対応をするべきか。

・若手を抜擢して工場長業務に挑戦させるか無難なベテランを当てるか。

真っ暗闇でモノを探すように見通しが立たない中、決断を迫られることがあります。考えがブレると余計な事ことを口にしてしまいそうです。

従業員の協力を仰ぐ前に考え抜くしかありません。考え抜きます。考え抜いてブレない軸を手にできれば曖昧なこと、余計なことを語ることはありません。

ブレるということは、まだまだ考える余地があるということです。考え抜いていない証左です。従業員へ協力をお願いする以上、トップダウンで伝えることは考え抜いて、決めたことでなければなりません。

ブレたトップダウンは現場を混乱させます。従業員に不安を感じさせることになるのです。「ウチの会社は大丈夫なのか?」従業員はそう考えます。

先の経営者はそのことを反省したのです。

 

経営陣のベクトルはバシッと揃っていなければなりません。そして、バシッと揃わない限り、経営陣はその事項を絶対に従業員へ漏らさないことです。

経営者の意志や意図と異なる情報であっても、一旦、現場へ漏れ出てしまったら、経営陣からのメッセージとなれば、それを耳にした現場は、それが我が社の決定事項と考えます。

誤解の起点です。

工場経営の本質は経営者の想いを“他人の力”を借りて実現させることにあります。経営者は従業員にお願いをするしかないのです。そのために、経営者は考え抜いて決断し、経営陣のベクトルをバシッと揃えて、ブレない意志や意図をトップダウンで伝えなければなりません。

 

 

 

 

 

石川島播磨重工業(現IHI)社長、東京芝浦電気(現東芝)社長、経団連会長を歴任した土光敏夫氏は立て直しで社長に就任した東芝の従業員に向かってこう語ったそうです。

「社員は3倍働け、重役は10倍働く。」

今から50年以上前の話です。ただ、今の従業員へ向けたメッセージがこうした表現では、かどが立ちそうです。

 

ここでは、これは「重役」に向けたメッセージと解釈したいです。

「重役は社員よりも3倍働け。」です。

 

従業員は8時間勤務、幹部は3倍の24時間勤務だ。考えるのに場所は関係ないだろう。

 

経営者の仕事は考えること、決定すること、決断すること。経営者が扱う事項は全て経済的リスク伴います。先が見通せなくても決断をしなければならないときもあるのです。

内の仕事をやっている時間が惜しくなります。答えは全て外にあるからです。

 

決断する経営者は外に出かけて耳を傾け、判断材料や情報を集めます。それをもとに考え抜いてブレない軸を手にしたらトップダウンです。経営陣のベクトルを揃えます。

 

経営者が考え抜いて、決定し、決断したことを実施するのは現場です。

現場に任せるのはあくまで”実施“です。”実施“の仕方については詳細を知っている現場の知恵を借ります。協力をお願いするのはここの部分です。

決めることまで現場にやらせているのは、任せるとは言いません。丸投げです。

次は貴社が挑戦する番です。

 

成長する現場は、考え抜いて決断するブレない経営者に導かれ人時をドンドン高めていく

衰退する現場は、ブレる経営陣に導かれ、全社一体になれず人時が低いまま