「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第379話 計画表で計画VS実績を報告させているか?

「問題が出てきたら、その都度、その都度、解決しています。」

個別相談で工場訪問した事務装備品メーカー、工場長の言葉です。

 

ご相談をいただいた経営者は現状の設備と人員で月当たり生産能力を増やしたいと考えています。毎年、特定時期に受注のピークを迎えますが、さばききれないのです。

 

受注の機会をむざむざ失うことほど無念なことはありません。だからと言って、固定費投資による人員増や設備増を決断したくなるほどの受注見通しがあるわけでもないのです。まずは、今、持っている経営資源をしゃぶりつくして、受注機会を無駄にしないようにします。

 

受注がピークを迎えたときに、全てをさばききれないということは、生産能力に天井があるということです。そして、その天井はなぜ生じるのか?ボトルネック工程です。

先の工場長は、ボトルネック工程を特定していました。人時生産性向上の切り口はいつくかありますが、その一つはボトルネックへの対応です。適切な対応と言えます。

そこで、先の工場長に、「これまで、どのような対応をしてきましたか?」と尋ねたところ、冒頭の言葉が返ってきました。

 

先代の時代から勤務している仕事熱心な工場長です。さまざまな手を打ってきたであろうことは十分に推察されます。それでも、なお経営者が期待する水準に能力が高まっていません。

経営者は、工場長による単独の取り組みに限界があると感じています。外部の力を借りて行き詰まりを突破したいと考えてのご相談です。

 

 

 

 

 

ボトルネックへの対応は2つです。「ボトルネックに注目をした工程管理」と「ボトルネックの解消」。2本柱になります。

問題を課題化すれば、対応方針が整理されるのです。現場キーパーソンは、こうしたお作法を理解しておく必要があります。

現場キーパーソンは事例に最適な生産性向上策を思い浮かべられるようになりたいのです。ドラえもんがポケットから問題解決ツールを瞬時に巧みに取り出す、あの姿です。

 

例えば、LT短縮では段取り、正味作業、マテハンの3つに注目します。「ウチの現場では、まずマテハンからだ。」現場キーパーソンは対応方針を現場に示せるのです。

対応方針のお作法を習得しておけば、解決策の体系化ができます。体系化ができれば、論点を絞れます。現場に全体構造を示すことで、今、何やっているかを知らせるのも容易です。

納得感は自主性を生みます。

 

一方、先の工場長によるこれまでの対応は問題発生時の都度対応でした。工場長が個人的に持つノウハウに依存したやり方です。「モグラ叩き式」が避けられません。これを「ノウハウ蓄積式」に変えたいのです。

対応方針のお作法による体系化があれば変えられます。

まずは、直面している問題をQCDの観点で分析します。そして、どの知識体系を当てはめるか選択し、具体策を繰り出します。ドラえもんがポケットから問題解決ツールを瞬時に巧みに取り出す瞬間と同じです。

セミナーやご支援では、ここの具体的なやり方をお伝えしていますが、経営者は、現場キーパーソンが我流に陥らないよう、注意を促す必要があります。独自と我流は違うからです。使えるノウハウはさっさと習得して使えるようにすればいいのです。

先の工場長は、経験と知識で手を打ってきましたが、改めて、体系を当てはめ、問題点を整理すれば。強化するところ、抜けているところが見えてきます。

・問題は課題化して問題解決ツールの体系を当てはめる。

 

 

 

 

 

モグラ叩き式は概ね、口頭指示で進められます。その結果、記録が残りません。他の人へ顛末を伝えたくても、記録が残っていない仕事は伝えにくいです。

計画表が重要と言われる所以です。

計画表があれば、計画vs実績を残せます。思考回路をたどれるのです。そのとき、現場は何を考え、具体的にどうしたのか?が分かります。他の人へ状況を説明しやすくなり、チームにノウハウが蓄積されるのです。

 

先の工場長は、ボトルネック対応実務の経緯を経営者に報告することはほとんどなかったようです。経営者から現場のことを任されています。経営者から問われたら、それに都度答える程度でした。

口頭指示による都度対応でボトルネックに向き合ってきたこともあり、実績が計画表の形で残っていません。

 

「計画表のような形式で実績を報告するやり方が必要です。」

総括の場における経営者の言葉です。先代から事業を引き継いだ2代目現経営者と先代から我が社を支えてきてくれた工場長と関係は良好です。見ていてわかります。

工場長は現経営者の頼りになる右腕役です。現場の隅々にまで意識が行き届いています。経営者は安心して現場を任せられているのです。

ただし、任せていても、課題の報告はしてもらう必要があると経営者は感じたようです。さらには、工場長依存の現場になっても困ります。

 

連絡と報告はその目的が異なることにも注意です。

闊達なコミュニケーションは風通しのイイ現場に欠かせません。気軽な立ち話もイイです。情報交換は活発にやります。

ただ、情報で現場をコントロールする経営者は連絡と報告は使い分けたいのです。計画vs実績の形で記録し報告してもらいます。口頭のみの情報は記憶頼りですが、言語化、数値化された、文字で残る情報は蓄積され、比べられるのです。

これまでは、工場長の口頭による結果連絡だけでした。計画表による計画vs実績で報告してもらうことで、チームにノウハウが蓄積されます。記述された各項目を比べることで、新たな発想も生まれるのです。

・計画表=報告ツール、連絡と報告を使い分け、計画VS実績でノウハウを蓄積する。

 

 

 

 

 

製造業は技術の世界で戦っています。モノづくりが高度化、複雑化した昨今、チームへのノウハウ蓄積が事業の命脈を保つのに不可欠です。個力では生き残れません。製販一体、全社一丸、チームでノウハウを一緒に活かします。

ルールづくり、手順書づくり、標準書づくり。ノウハウを形で残す手間暇を避けていると、結局は個力次第の経営に留まります。

 

計画表=報告ツール、計画VS実績はノウハウ言語化、数値化の初手です。全てはここから始まります。取り組みの継続性を高められるのも計画表を使用するメリットです。計画表には時間軸が書かれています。

時間軸にも触れられている計画表を使いこなすにはスキルが必要です。そして、このスキルは訓練で上達します。熱意があれば、習得できるのです。若手には、早い段階で身につけさせたいスキルのひとつです。

計画表では、抽象化と具体化を行ったり来たりしながら、言語化、数値化する能力が求められます。製造現場キーパーソンが習得すべき読み書きそろばんです。PJを通じたトレーニングで能力を高めます。

 

 

 

先の工場長は計画表の様式を考え始めました。都度対応ではなく、経営者へは、計画VS実績で報告しようと考えています。

現場で汗をかいてきた工場長です。言語化、数値化のスキルに長けているわけではありません。ただ、そんなことは小さなことです。熱意を持って学べば習得できます。

それよりも、新たなやり方で2代目の期待に応えたい、そうしてピーク対応を実現させたい、この姿勢が素晴らしいのです。

工場長は体系の概要を理解できました。自身で考える初めての計画表の様式は、それに沿った形になるでしょう。

 

足りないものは外部の力を取り入れて、さっさと埋める。儲ける経営者はこう考えます。そうして、現場をドンドン高みへ引き上げ、その結果、経営者は社長業に専念できるのです。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、連絡と報告を使い分け、計画表の計画VS実績でノウハウを蓄積する。

衰退する現場は、口頭のみの情報交換に留まるのでノウハウの蓄積が進まない。