「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第382話 現場の頑張りを反映した指標になっているか?

「売上高生産性ではだめでしょうか?」

先月、人時生産性向上PJに着手した50人規模メーカー経営者の言葉です。

 

先の経営者がこれまで使ってきた経営指標のひとつに売上高生産性があります。売上高を工数で除した数値です。売上高は現場にも理解されます。その単位工数当たりの数値です。

PJで設定する経営指標を検討しているときのことです。

経営指標について議論しているうちに、先の経営者は、これまで使っていた売上高生産性がよかったのかどうか、ちょっと自信が持てなくなってきました。

売上高生産性は製造現場の頑張りを評価する指標として適切なのか?

経営者の頭に浮かんだ疑問です。

この指標は製造現場の頑張りを反映しているのか?

冒頭のことばです。

 

 

 

 

 

売上高は分かりやすい経営指標のひとつです。

・売上高3億円の天井を破る。

・年商7億円を目指す。

・5年で売上高を倍にして10億円規模にする。

製販一体で売上高を目標に掲げるとベクトルが揃います。

売上は付加価値額の源泉です。付加価値額を積み上げるには、まず売上を増やさないことには始まりません。売上が立たなければ、立派な工場を持っていても事業は回らないのです。

売上高の重要性は現場も理解しています。

 

お客様が我が社の商品や製品、サービスを購入するときに考えるのは次の2つです。手にできる利便性に満足できるかどうか?市場価格はどうか?この両者を天秤にかけるだけです。

 

市場価格より高いけれども、手にできる利便性に満足できるなら、お客様はお金を出してくれます。市場価格より安いけれども、手にできる利便性に満足できないなら、安価でもお金を出してくれないかもしれません。

 

お客様にとっての我が社の売上高とは、手にできる利便性への対価に他なりません。お客様にとって我が社のコストは無関係です。お客様の支払いが積み上がって売上高になります。

ただ、事業をやっている我が社は、満足度と市場相場のお客様観点とともに、コストの我が社観点も必要です。売上高を両面で考えます。儲けなければなりません。

 

 

 

 

 

売上高の構造は下記です。

売上高=Σ(製品単価×販売数量)i

見積もりで評価された@単価の構造がそのまま売上高の構造になります。見積もりに我が社観点が現れるのです。

ご支援先では見積もりをいろいろなやり方でやっています。業種業態で多様ですが、製造業である以上、本質は同じです。

製造業の収益構造は固定費vs付加価値額。付加価値額を積み上げて、利益と従業員の給料、ご自身の報酬部分を回収します。

したがって、単価の基本構造は@変動費+@付加価値額(粗利)であり、後者で固定費を回収します。

さらに@付加価値額は単位製品当たり工賃(レート×作業時間×作業者数)と経営者が目論む単位製品当たり利益です。値引き交渉の判断基準は@付加価値額があるから決められます。

@単価の構造が

・@変動費

・単位製品当たり工賃

・経営者が目論む単位製品当たり利益

であることが要点です。

我が社観点で売上高を見ると、@変動費と単位製品当たり工賃、経営者が目論む単位製品当たり利益の積み上げで構成されてます。

 

したがって、売上高は、製品毎の①数量②変動費原単位③レート④作業時間⑤作業者数⑥経営者が目論む単位製品当たり利益の積み上げであることがわかります。

我が社観点で売上高を見るとは、コスト構造を明らかにすることに他なりません。単位製品当たり手間暇かけた②~⑤のコストを投資した見返りが売上高のうちの付加価値額(粗利)と言えます。

単位製品当たり製造コストの変数は原単位と工数の2つです。

全社一丸で頑張った成果物が売上高です。ただし、こうした売上高の構造を踏まえると、売上高を製造現場の指標として使う際には、配慮が必要であることに気付きます。

 

 

 

 

 

先の経営者は製品別売上高生産性を指標にしていました。製品別売上高/工数です。売上高には、その多寡に影響を及ぼす複数要因が含まれます。

変動費原単位と作業工数および経営者の目論む利益。

 

したがって、変動費原単位や経営の目論む利益に大きな違いがある製品群同士で生産性を比べても、その指標では、製造現場の頑張りを反映していないかもしれません。

・変動費原単位が小さい

・経営の目論む利益がそもそもトントン水準である

 

この場合、生産性は小さく評価されます。が、これは現場責任ではありません。

分かりやすく表現すれば、金の達磨を製造する現場と銅の達磨を製造する現場の働きぶりを見るのに、売上高生産性で比べられても現場は困るということです。

 

金も銅も融点は1,000~1,100度です。そして、金の達磨も銅の達磨も工程フローは、溶解して鋳型に注湯し、固まった後に切削加工し仕上げて・・・とほぼ同じになります。

その結果、手間暇、工数は、金の達磨を製造する現場と銅の達磨を製造する現場で、それほど変わらないでしょう。造る手間暇の観点では現場の働きぶりに大きな差は出ないはずです。

しかし、原材料原単位が金と銅では違いすぎます。

 

 

 

 

 

「売上高生産性ではウチの現場の頑張りを正しく、評価できないようです。」とは先の経営者の言葉。

フォローと評価は、経営者にとって、数少ないけれども極めて大切な「内」での仕事のひとつです。製造現場の頑張りを評価する指標がなければ、フォローも評価もできません。

売上高それ自体は重要な経営指標ですが、現場の頑張りを評価するには、それにふさわしい構造の指標を考える必要があります。

多くの現場では変動費原単位と単位工数当たり付加価値額(粗利)です。

・変動費原単位

・単位工数当たり付加価値額(粗利)

これは、結局、見積もりで評価された@単価の構造から導かれるものです。弊社では後者を人時生産性として重視しています。

 

 

 

 

 

分母と分子で定義される経営指標を設定するとき、その数値から得られることや、そもそもその目的を確認してください。

売上高のように、複数要因で構成(決定)される数値を分子とする場合、分母で割ったら、何が明らかになるのか?何を比べるのか?

ミクロの視点で数値の意味を考える必要があります。なんとなく、工数や人員数で除して、得られた数値を眺めているだけでは正しい意志決定に使えません。

 

設定する経営指標には目的があります。それで何を評価したいのか?もし製造現場の頑張りを評価したいのなら、製造現場の頑張りが反映する指標でなければなりません。

 

売上高には製造現場の頑張り以外で数値を変化させる要因が含まれています。したがって、「製造現場」の指標としての売上高はイマイチかもしれませんが、「製販一体」の頑張りを評価する指標としての売上高ならどうでしょう?評価したい対象次第です。

その指標を設定しなければならない根拠が必要です。その指標は製造現場の頑張りを反映しているか?経営指標を設定する大切な論点です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、製造現場の頑張りを反映した指標をフォローと評価に使って動機付けする

衰退する現場は、なんとなく工数や人員数で割って出てきた数値を見るだけに留まっている