「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第383話 双方向のコミュニケーションがあるか?
「作業者から相談を受けたにも関わらず、自分には関係ないと言う現場管理者がいます。」
人時生産性向上活動2か月目、中堅メーカー経営者の言葉です。
PJを継続させる体制を検討しています。組織図を見ながら指示導線を確認していたときのことです。最近、こんなことがありましたと、現場従業員同士の意思疎通に関するある出来事を説明してくれました。
ある作業者がその現場の担当課長に仕事上の困りごとを相談したそうです。その課長は直属の上司ではないのですが、職制上、現場管理者ですから、作業者の相談先として不自然さはありません。
しかし、作業者から相談をもちかけられた、その課長は、作業者が失望するような対応をしてしまいました。冒頭の言葉です。
指示導線はトップダウンです。
トップダウンでチームを製販一体に導きます。「営業が・・」「現場が・・」「プレス工程が・・」「塗装工程が・・」を主張してもお客様には無関係です。
「我が社が・・」という視点で全社が一致していなければお客様からの要望には応えられません。競合と同じことをやっていても儲からない以上、できないことをできるようにして、競合より一歩先んじることが、お客様に選ばれる要点です。
できないことをできるようにするために、経営者は無理を承知で現場へ指示を出すのです。
「無理なのは分かっているが、これをやらなければ、我が社は生き残れない。全従業員には協力をお願いしたい。」
市場と向き合っている経営者です。経営者には、将来に向けてできるようにしておかないと市場から置いてきぼりを食う事項がいくつか見えています。
経営者は、無理を承知でも製販一体でやれるようになって欲しいと考えるのです。
現場工程間の連携を密にする重要度が高まっています。もはや従来の職人仕事だけをやっていればいいという時代では無いのです。自分の工程だけを、自分の仕事だけを、という視点では儲けられません。
昨今の製造現場では、作業者視点ではなく、お客様視点がもとめられています。職人だけでは多品種少量はこなせないのです。経営者はそうした外部環境の変化と変化への具体対応策を現場に伝え理解させます。
全社のベクトルを揃えるトップダウンの指示導線です。そして、トップダウンの指示導線で重要なことがあります。
階層の厳密性です。
経営する人から管理する人へ、管理する人から指示する人へ、指示する人から作業する人へ。4階層間での指示の流れは厳密でなければなりません。
つまり、経営者が管理する人を飛ばして指示する人へ働きかけてはダメです。管理する人が指示する人を飛ばして作業する人に働きかけてもダメです。
全社一丸、製販一体では、「私は聞いていません。」があったらいけません。トップダウンでは4階層の厳密性を遵守します。
指示導線の主たる機能はトップダウンですが、モノづくりが複雑化・高度化している昨今、指示導線が果たすもう一つ大切な役割があります。
ボトムアップです。
経営者は無理を承知で指示を出します。現場ではすべった、ころんだ、すったもんだが必ず起きるのです。できないことをできようにしようと奮闘します。
当然、どこかにひずみが発生するものです。ひずみは現場の声となります。経営者は現場の声を一つも漏らすことなく把握しなければなりません。
現場の声の多くは困り事、SOSだからです。
ボトムアップがしっかりできている現場は「風通しがイイ職場」と表現されます。現場の困り事、SOSが経営者に全て届く職場です。
そして、ボトムアップを機能させる要点はトップダウンと違います。ボトムアップは階層の厳密性を問いません。
作業する人ひとは困り事やSOSを誰に言ってもイイのです。上司に当たる指示する人に相談するのが望ましいですが、頭を越して、管理する人や経営者に言っても構いません。
現場の困りごとやSOSは迅速に経営者に届かなければならないからです。現場の困り事やSOSは放置されたら、重大な問題を引き起こす懸念があります。
現場の声は、トップダウンとは違って、誰に伝えるかはあまり重要ではありません。それよりも重要なのは、すぐに伝えてくれたか?です。
4階層に関係なく、作業者にとって、伝えやすい人、耳を傾けてくれる人に情報を伝えてもらいます。そうして経営者に短時間で情報を届けて欲しいのです。
悪い情報では時間勝負の場合もあるからです。悪い情報ほど迅速にボトムアップが機能するようにします。
・トップダウンは4階層の厳密性が大切
・ボトムアップは4階層の頭を越しても構わない、迅速性が大切
トップダウンに対する現場の声をボトムアップで拾い上げるのです。指示導線は一方向ではなく、双方方向になります。トップダウンとボトムアップです。
経営者は指示導線の2階層目、3階層目を担う右腕役や現場キーパーソンへボトムアップの要諦を伝えます。
階層に関係なく、現場から困り事、SOS、提案事項があったら、どんなに忙しくとも、膝を詰めてじっくり耳を傾け、相談に乗ること。そうして、経営者にまで伝えること。
下記の対応は絶対にダメです。
・それは自分に関係ないから、工場長へ直接に相談せよ。
・自分に言ってもらっても困る、他の人に相談せよ。
・なんで自分に言ってくるのか、それは課長に相談せよ。
これらは、実際にあった言い回しです。
貴社の現場ではこうした対応をする管理者いませんか?
現場の作業者が困り事やSOS、提案事項を何とかしたいと考え、勇気を奮って言葉を発したのに、頼りにしていた人からこんな反応が返ってきたらどう感じるでしょう?
もう2度と相談しないでしょう。こうした反応をする2階層目、3階層目の人が居たら、その人には想像力が無さすぎです。提案事項だけでなく、悪い情報も上がってこなくなります。
作業者には決定権がありません。決定権が無いから、2階層目、3階層目の人に相談に行ったのです。経営者はボトムアップの要諦を2階層目、3階層目の人に指導しなければなりません。
ボトムアップの要諦が機能しないと悪い情報が現場から上がってこなくなります。
こうなると、悪い情報を上げない現場が悪いのではなく、作業者の言葉に耳を傾けない管理者が悪いのです。その管理者は悪い情報が届かなくなる責めを負います。管理する人や指示する人がボトムアップの要を担っているのです。
・トップダウンは4階層の厳密性が大切
・ボトムアップは4階層の頭を越しても構わない、迅速性が大切
作業者から相談を持ち掛けられた担当課長は、なぜ「自分には関係ない」との言葉を作業者に返したのか?その原因を踏まえて、先の現場では、経営者が右腕役や現場キーパーソンへボトムアップの要諦を指導しました。
そうして、現場で困り事やSOS、提案事項あれば、誰でもイイので、2階層目以上の人へ、気軽に相談して欲しいと、全従業員へ向けて、改めて今後の協力をお願いしたのです。
経営者に直接に言ってもらっても構わないとの説明も加えました。
ボトムアップは4階層の頭を越しても構いません。迅速性が大切です。悪い話ならなおさらです。悪い話が上がってこなくなくなったらどうなるか?
大手で頻発している品質不正、昨今では、H自動車、M電機での出来事が記憶に新しいです。調査報告で語られる原因のひとつに職場の風通しの悪さがあります。
現場から上がってきた困り事やSOSに誠実さを持って、真摯に耳を傾けてくれる上司や管理者がいなかったということです。ボトムアップが機能していませんでした。大手のイイところは大いにまねたいですが、悪いところをまねる必要はありません。
少数精鋭による小回り性や機動性、柔軟性に強みを持つ中小製造現場です。ボトムアップを機能させる風通しのよさは経営者と右腕役、現場キーパーソンがその気になれば一発で実現できます。
先の経営者もすぐに気付き、指導しました。悪い情報が漏れなく届かないと、経営者は枕を高くして寝られません。
トップダウンとボトムアップ。トップダウンをしっかりやっていれば、ボトムアップも機能します。双方向のコミュニケーションということです。
そもそも、一方向ではコミュニケーションと言いません。
ただし、指導の仕方には要点があるので留意してください。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、階層の頭越しで構わない迅速性を大事にするボトムアップで悪い話も届く
衰退する現場は、風通しの良さが無いためボトムアップが機能せず悪い話が届かない