「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第384話 新規を探りながら、既存を死守しているか?
「売上高見通しをなかなか立てられません。」
PJに着手して数ヶ月経過した部品メーカー経営者の言葉です。
人時生産性向上は製販一体のPJです。モノづくり現場の動機付けは外にあります。販売計画に沿って改革を進めるのです。製造計画の前に販売計画があります。
創業者である先代から事業を引き継いで数年経過した2代目経営者は、営業担当者にこの先1年間の売上高見通しを立てるように指示しました。
先代と一緒に仕事をしてきた営業担当者ですが、これまで販売計画を立てたことはありません。成り行き経営では、減少傾向の売上高を右肩上がりに返ることはできないと考えた経営者です。
そこで営業担当者へ売上高見通し検討を指示したのです。
その経営者は営業担当者と数ヶ月のやり取りをしていますが、なぜか売上高の見通しが出てきません。冒頭の言葉です。
これでは販売計画を立てられません。収益も成り行きになってしまいます。売る仕組みづくりも課題であると痛感している経営者です。
儲かる工場経営の要諦はお客様に選ばれる商品や効率よく造ることにあります。
効率よく造る目的は人時生産性向上です。固定費一定のもとで付加価値額をいままで以上に積み上げれば生産性は高まります。詰めて、空けて、取り込むのです。
ここでの要点は詰めて、空けるだけでは儲からないことにあります。
取り込まなければ生産性は高まりません。製販一体でなければならない所以です。儲けるために造る、売るために造るのであって、造ったから売るのではありません。
製造計画は販売計画に基づきます。
90年代、国内GDP成長率が5%前後で右肩上がりの時代なら、旺盛な需要のお陰で売ることに困らなかったかもしれません。場合によっては、受注を断ることもあったでしょう。
しかし、昨今、成長率は半分以下、場合によってはマイナス成長です。黙っていたら受注の電話はかかってきません。何も手を打たなければ競合に置いてけぼりを喰うのです。
「売るために造る」姿勢が求められます。製販一体。市場に向き合って受注を獲得し、獲得した受注を現場でドンドンこなすのです。
せっかく受けた仕事を現場の事情で断わっていたら2度とそのお客様は我が社に電話をしてきません。無理を承知してでもチーム力で受注をこなそうとする思考回路が現場で必要です。
その現場を動機付けるのが販売計画となります。
年間利益計画、年間付加価値額計画から年間必要受注量(年間必要仕事量)が明らかになます。その年間必要受注量の内訳を示したのが販売計画です。
成長させたい固定費を回収するための売上高内訳に他なりません。これだけなければ我が社は豊かに成長できないのだ~、生き残れないのだ~という経営者の意志や意図と言えます。
そして、計画があれば、未達に気付くのです。不足していることが分れば、売上を外に獲りに行かなければ、という気になります。販売計画は未達の時に力を発揮するものです。
したがって、売上高の見通しを立てるスキル、ノウハウは絶対に欲しいのです。成り行き売上高では枕を高くして寝られません。
「ウチは受注生産なので、いつお客様から要望が届くか分らない。だから販売計画を立てられない。」という経営者がいます。先の経営者もPJ着手時はそうでした。
計画の有無の有無にかかわらず、お客様からの受注が届くときは届くし、届かないときは届かないというのです。これはいわゆる、下請け型モデルで、かつ、QCDの決定権を持てていない経営者の思考回路に見られます。商売が受動的です。
販売計画がない成り行き経営でも、経営者一人の力づくで工場が回るかもしれません。しかし、少子化で国内市場が縮小している昨今、成り行き経営が長続きしないのは明らかです。
販売計画があれば、市場への向き合い方を能動的に変えられます。
販売計画VS販売実績で計画未達なら、営業活動に力を入れなければならず、工場での手余り対応も必要です。販売計画で動機付けができます。なければ、成り行きです。
将来の主要お客様を開拓するのは重要な仕事です。今の主要なお客様が将来もずっと我が社の主要お客様であり続けてくれる保証はどこにもありません。
時間がかかりますが、将来の主要お客様とのご縁を探る仕事は地道にやる必要があります。ただし、すぐに結果が出る仕事でもありません。
したがって、販売計画では、既存のお客様からの売上高見通しが大事になるのです。顔が見えるお客様の見通しです。増加傾向なのか?減少傾向なのか?まずは実績から見通せます。
ただ、過去情報だけで全ての判断はできません。将来情報も必要になります。お客様の販売計画や設備投資計画です。
お客様の将来情報をできるだけ入手して売上高の見通しを立てます。販売計画の大部分を占めるのは、既存お客様の売上高です。その見通しが大事なのです。
先の企業で、経営者が営業担当に既存お客様情報を尋ねると以下の反応がありました。
・お客様は売上高計画や設備投資計画を教えてくれない。
・お客様によっては、設備計画を立てずに設備導入を決めるので事前情報は入手できない。
・受注が決まり、予定しても、直前になってキャンセルされることがある。
等々。
こうした理由があって既存お客様の売上高見通しを立てられないという説明がありました。貴社ではどうですか?
製販一体体制における営業部門の重要業務に「売上高見通しを立てる」があります。売上高は我が社の将来投資である固定費を回収する付加価値額の源泉です。
利益アップ、給料アップを目論んでいる経営者にとって、将来の売上高がどうなるかは最大の関心事となります。そして、その将来の売上高はお客様が決めることです。
我が社の最大の関心事でありながら、お客様が全てを決めます。そうであるなら、我が社でやれることはただひとつです。
お客様に教えてもらう。
これしかありません。
ただ、お客様に、そのお客様の将来情報を尋ねたからと言って、すぐに教えてもらえるものではないでしょう。お客様との間に何かが必要です。
信頼関係、win-win関係、持ちつ持たれつの関係、貸し借り関係・・・。
ビジネス上の人間関係です。お客様とのそんな人間関係があってはじめて教えてくれるものです。淡々と業務をこなし合うだけの関係では、プラスアルファの情報を入手することはできないと考えるのです。
ここに営業活動の本質があります。
これは弊社の経験に基づいた考えです。
創業者である先代の顧客開拓は必死だったはずです。ゼロイチです。その創業者である先代の仕事をサポートしていた営業担当も先代が開拓した後のお客様とのやり取りに一生懸命だったと推測されます。
ただし、そうした経験から、先の企業の営業担当は「問い合わせがあった案件を上手くさばくことが営業の仕事」と考えているようです。視点が目前の業務処理に留まっています。将来の受注拡大に向けられていません。
二代目経営者のもとで求められる営業業務とはズレがあります。
営業部門がお客様のところへ足を運ぶのは、受注を獲得するためではなく、ビジネス上の人間関係を構築するためです。お客様の情報を入手するとは情報を獲りにいくことに他ならないのです。それはお客様の懐に入り込むことと同義です。
自動車部品工場時代、各営業担当者からお客様の新車開発情報をしばしば耳にしていました。それは各営業担当者がお客様の懐に入って情報収集した成果だったのです。
製造計画は販売計画に基づきます。販売計画VS販売実績で計画未達なら、そこで製販一体の動機付けがされるのです。販売計画があるから製販一体になれます。
販売計画なくして製販一体のベクトル揃えはあり得ないのです。
販売計画は売上高の見通しから設定されます。利益アップ、給料アップを目論んでいる経営者にとって、将来の売上高がどうなるかは最大の関心事となります。
したがって、お客様売上高の見通しを立てるスキル、ノウハウは絶対に欲しいのです。
ただ、新規お客様の売上高見通しは立てようがありません。そこで、既存お客様の売上高見通しを立てるスキルを鍛えるのです。
新規お客様とのご縁を結ぶ仕事は大事ですが、足元収益ではあてにできません。その分、既存お客様の売上高見通しの確度を高めた販売計画を立てるのです。
新規お客様とのご縁を探る活動をしながら、既存お客様の売上高見通しを死守するという姿勢が生まれます。
・新規を探る一方、既存を死守する。
「これから自分で新たに取り組まなければなりません。」とは先の経営者の言葉です。今の営業担当者に新たな仕事のやり方をやらせようとしても、長年やってきた行動を変えることは難しいと判断した経営者です。
売る仕組みづくりをこれから作り始めます。
気付いたその時がスタートです。
次は貴社の番です!
成長する現場は、お客様売上高を見通すスキルを磨いて販売計画を立て製販一体で頑張る
衰退する現場は、お客様との関係性構築をせず、成り行き売上高で見通せない状況が続く