「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第389話 現場の構造を理解して仕組みを造っているか?
「先生、日程計画がなかなか定着しません。」
先日、個別相談をいただい製造装置メーカー経営者の言葉です。
工場長はいつも忙しく現場を飛び回っています。問題が発生している工程へ指示を出しています。忙しく現場を飛び回っているにもかかわらず、納期が遅れ気味です。
そこで先の経営者は、日程計画を立てて、計画的な生産をするように工場長へ指示しました。しかし、なかなか成果が出ません。冒頭の言葉です。
工場長は忙しく現場を飛び回っています。それにも関わらず成果が出ないということは、何かやり方に問題があるのではないか?何か要点が抜け落ちているのでは無いか?
そんな疑問を抱いて相談にこられた経営者です。
製造現場は2重構造をしています。これは念頭に置いておきたいことです。経営者の意志や意図を現場に浸透させるのに欠かせない論点です。スムーズなモノの流れをつくるときにも考慮すべきことになります。
この構造を踏まえて、指示導線を機能させるように仕組みをつくるのが効果的です。
下記の工程フローを仮定します。製品Aです。
切断工程→プレス工程→曲げ工程→組立工程→塗装工程
製品Aをつくるためのモノと情報がこの順に流れます。ここでの判断基準は「お客様に製品Aを届ける」です。製造着手から、製造完了までを見通します。
切断工程から始まって、塗装工程まで一気通貫でモノが流れないと、判断基準は満たされません。これはお客様視点の構造です。
そして、それと交錯するように、別の構造があります。工程別の構造です。
製造業は技術で戦っています。したがって各工程では要素技術の専門性が求められるのです。各工程は切断技術、塑性加工技術、組立技術、塗装技術のプロ集団を目指します。
全ては最良の製品Aを造るためです。必然的に工程別の職場になります。切断課、プレス課、曲げ課、組立課、塗装課。各課長が各工程を仕切ります。
課長は各課パフォーマンスを最大化することに頑張るはずです。ここではそれが判断基準になります。職場の最適化です。各課長が自工程の仕事をきっちりこなそうとするのは自然なことです。作業者視点の構造です。
製造現場はお客様視点と作業者視点という2つの構造が交錯しています。どちらの構造も大事です。生産形態で言うならば、前者は製品別レイアウト、後者は機能別レイアウトです。それぞれに重要な役割があります。
ただし、「儲かる工場」という観点では、お客様視点が優先されます。儲けるにはお客様の要望に応えるしかないからです。
儲かる工場の要諦は「お客様に選ばれる商品、製品、サービスを効率よく造る」にある以上、お客様視点の優先度を高くしないと選ばれません。
お客様は我が社の工程に興味はないのです。
先日もあるご支援先で、新たなお客様の要望に対して、現場ができないとかできるとか言っているうちに失注した案件がありました。我が社の事情を優先する現場だったからです。
今のやり方でできなければやり方を変えてやってみようというメンバーがいる一方で、やったことがないのでできないというメンバーもいます。
議論がかみ合いません。時間だけが空しく過ぎていきました。
2重構造を使い分ける姿勢が足りていません。
受注可否判断時は、これはもうお客様視点の構造を優先させます。詰めて空けても、取り込まない限り、人時生産性は高まらないからです。
ただし、作業者視点、我が社の事情で話をしている限りどうしようもありません。無理をしてでも獲りに行って、取り込む姿勢がなければ付加価値額の積み上げはないのです。
お客様視点と作業者視点の2重構造を使い分けるのに必要なのが指示導線です。
お客様視点の全体最適化を現場主導でやることは無理です。現場は日々、すったもんだしています。そこで、トップダウンによって命を受けた右腕役が作業者視点の現場を全体最適化へ導くのです。
コックス不在のボートでオールさばきを整えることはできません。全体を揃えるのに旗振り役は絶対に必要です。意志と意図を持った右腕役がそれを担います。
トップダウンで全体最適化、お客様視点を現場に浸透させるのです。ただし、作業者視点は決して排除されるものではありません。2つの構造を使い分けるのです。
場面によっては、部分最適家を重視した作業者視点の構造で仕事をしなければなりません。要素技術、コア技術、各種技能のスキルアップ、技能伝承。
デジタル化できないモノづくりの勘所があります。そうしたノウハウを現場に残すには密度の濃い人的交流が不可欠です。
技術は高度化、複雑化しています。昨今の技術はです。集団の凝集性を高めて相乗効果を発揮します。相乗効果を引き出すのは経営者の意志と意図を受け継いだ右腕役の役割です。
・お客様視点の構造による全体最適化
・作業者視点の構造による部分最適化
この2重構造を踏まえた製販一体体制が必要です。指示導線を機能させます。役割を意識させるためです。
トップダウンで全体最適化を指導します。上工程から下工程、前工程から後工程。一気通貫でなければお客様に選ばれるモノは造れません。
製販一体、全社一体は指示導線によるトップダウンでなければできません。現場主導の全体最適化はあり得ないのです。全体最適化は、あくまでトップダウンです。
現場を主導するのは、管理する人と指示する人、上から2階層目の人と3階層目の人、右腕役と現場キーパーソン、となります。職制による縦の厳密な指揮命令系統です。
縦の階層は多すぎても、少なすぎてもダメです。お客様の要望に応えるため、経営者が外での仕事に専念するために適した階層数を設定することになります。縦方向の指揮命令系統はその厳密性によって、お客様視点、全体最適化を実現させるのです。
そして、右腕役と現場キーパーソンが理解しておかなければならないことがもう一つあります。横方向の系統です。
製造現場は2重構造です。
・お客様視点の構造による全体最適化
・作業者視点の構造による部分最適化
お客様の要望に応えるとは、概ね、できないことをできるようにすることになります。トップダウンにより、無理を承知でお客様の要望に応えます。
ただ、これだけでは上手くいきません。全体最適化で歪みが生まれる工程もあるからです。
工程間連携で歪みを緩和します。
部分的な無理があると、全体最適化が機能しません。そこで工程間連携を促します。相互補完や相互扶助の姿勢で工程間を調整をして、滞りの無いモノの流れをつくるのです。
無理を承知してやっているので、この工程間連携がなければスムーズなモノの流れはできません。経営者がつくったルールも守られません。工程間連携が薄いとそうなります。
工程連携が弱い現場では、工程間連携を促す人が必要になってきます。こうやって全体最適化を踏まえた部分最適化が実現するのです。
右腕役と現場キーパーソンは、縦方向の指揮命令系統と横方向の工程間連携系統の両者を機能させなければなりません。
トップダウンの指示導線で縦方向の指揮命令系統を機能させたら、右腕役と現場キーパーソンは現場へ働きかけ、横方向の工程間連携系統も機能させます。縦と横の系統です。
右腕役と現場キーパーソンが横方向の工程間連携を促します。そのやり方はいろいろです。要点はノウハウを現場に蓄積することにあります。
直面する問題を都度、片づけるモグラ叩き式では現場は成長しません。担当する右腕役や現場キーパーソンの属人的な現場になります。それでは持続的な成長は実現できません。
必要なのは、経験と知識を言語化、数値化する蓄積式の仕事です。
つまり、右腕役や現場キーパーソンの仕事は「仕組みづくり」。仕組みがあれば、PDCAを回せます。仕組みがあれば、共通用語ができます。
仕事の手順がノウハウとして現場に定着するのです。
目前の問題を解決することにのみ、焦点を当てていると、仕組みができません。
問題を解決したいと願う姿勢は良いのですが、経営者の右腕役であるなら、横方向の工程間連携に関する問題を解決する「しくみ」に焦点を当てて欲しいのです。
・仕組みづくりに焦点を当てている右腕役
・仕組みづくりに焦点を当てられない右腕役
両者の違いは、業務の言語化、数値化にあります。
ご自身の右腕役に、これまでやってきた対応策を説明するよう尋ねてください。仕組みづくりに焦点を当てられない右腕役は、経営者の問いに答えられません。
過去実績が整理できていないからです。なぜできていないか?業務の共通用語や定量化の定義が決まっていないからです。全て、右腕役の感覚で仕事が進められます。
これでは、現場管理の面でも属人的になってしまいます。
そうした右腕役はいつも忙しく現場を飛び回っています。問題が発生している工程へ指示を出すのです。工場長は仕事をこなしている感覚になります。
しかし、こなしても、こなしても工場長の仕事は忙しいままです。仕組みづくりの観点が抜けています。
トップダウンの指示導線で縦方向の指揮命令系統を機能させたら、右腕役と現場キーパーソンは現場へ働きかけ、横方向の工程間連携系統も機能させます。縦と横の系統です。
右腕役と現場キーパーソンが、横方向の工程間連携を促します。直面する問題を都度、片づけるモグラ叩き式ではなく、ノウハウを現場に蓄積する仕事のやり方で促すのです。
「仕組み」に焦点を当てます。
工場長の仕事は問題解決策を考えることではなく、現場が自主的に問題解決策を考えるように仕向ける環境の整備です。
工場長自身が解決策を現場へ指示している限り、現場キーパーソンの自主性は引き出されません。
現場の二重構造をふまえて、トップダウンの指示導線で縦方向の指揮命令系統を機能させ、さらに、横方向の工程間連携系統を機能させて、我が社の全体最適化、お客様視点を実現させるのです。縦と横の系統。
右腕役には縦横無尽に動いてもらえるよう、経営者による指導が大切です。
日程計画を定着させる要点のひとつ「工程間」があります。工程フローで決められる事項です。ここは横方向の工程間連携系統そのものずばりです。
先の経営者は日程計画を定着させる要点に気付いたようです。早速、実践です。
経営者の仕事は外にあります。内を任せられる右腕役の指導は経営者にしかできません。その知識や考え方を伝えます。
内を任せられる右腕役がいれば、その分、経営者は楽になるのです。
次は貴社の番です!
成長する現場は、現場の二重構造をふまえて右腕役が縦横無尽に動きノウハウを蓄積する
衰退する現場は、現場の構造を気にせず、目前の問題をモグラ叩き式で対応するだけである