「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第398話 右腕役に議事録の指導をしているか?

 

「知りたいことを報告してくれるようになりました。」

板金加工メーカー経営者の言葉です。人時生産性向上PJに加えて、「実践会」で右腕役と現場キーパーソンを指導している支援先です。

 

経営者とは戦略を練ります。成果物は毎年のロードマップです。そこには、外への働きかけ方が書かれています。そして、それに合わせて内を変えるのです。

先の経営者は従来のベテランに依存したやり方から脱却したいと考えています。

「●●氏がいなくなると、××できなくなる」という制約を抱えた経営者の行動は遅くなるからです。そんな場面をいろいろみてきました。制約に足を引っ張られた状況です。

先の経営者は、若手のためにも、そうした状況から抜け出さなければならないと目論んでいます。そこで、右腕役と現場キーパーソンが内の改革を実践するのです。

右腕役と現場キーパーソンは、経営者の意図や意志を理解していなければなりません。知識も必要です。我流では行き詰ります。ロジックが必要です。具体、抽象、具体の思考にも知識が欠かせません。

 

経営者の考え方や知識を伝え、他社の事例を知ってもらいながら右腕役と現場キーパーソンに改革を実践してもらう場を「実践会」と称しています。

先の企業では、その実践会が2年目に入りました。

 

右腕役や現場キーパーソンには、実践と訓練を通じて、人時生産性向上に必要なスキルを一つひとつ獲得してもらっているところです。その中に「議事録」があります。

なぜ議事録が大事か?

的を射た議事録を手にした経営者は、内の改革を右腕役と現場キーパーソンに任せられるので、外での社長業に時間をたっぷり割けるのです。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

経営者の仕事場は外にあります。したがって、経営者が外の仕事に専念するには、内を任せられるチームが不可欠です。経営者はチームへのフォローと評価が必要になります。

繰り返しお伝えしていることですが、任せると丸投げは違います。チームの仕事ぶりを把握していなければ、フォローと評価はできません。

したがって、外で仕事をしている経営者に必要なのは、不在にしている工場が今、どんな状況になるのか知る術です。

経営者がいちいち現場へ足を運ばないと、状況を把握できないとどうでしょう。経営者は工場を不在にできません。社長業で外へ出ても、気になって専念できないのです。

そこで、大事になるのが基本中のキ、ホウレンソウとなります。右腕役と現場キーパーソンに言葉と数値で伝えてもらうしかないのです。

したがって、自分が不在でも場内の様子をしっかり把握したいと考える経営者なら、誰でも、自然に、右腕役と現場キーパーソンにはホウレンソウ能力を高めて欲しいと考えます。

 

 

 

 

 

右腕役や現場キーパーソンが、PJの初期段階で高めるべきホウレンソウ能力のひとつが「議事録」です。

儲かる工場経営の土台は製販一体体制、チーム力にあります。メンバー間コミュニケーションが要点です。成果が出る議論の重要度が高まります。成果が出る議論もスキルのひとつです。ご支援先の現場でそう感じます。

上手いところとそうでないところがあるのです。ただ、今、上手くなくても悲観する必要はありません。訓練で上手になるからです。そして、議論の結果を議事録にまとめます。

自分が不在でも場内の様子をしっかり把握したいと考える経営者にとって、この議事録は貴重な情報源です。

定例、非定例にかかわらず、右腕役と現場キーパーソンが、額を集めて議論をしたのです。議論の結果、何がどうなったのか?現場を知る手がかりなるのは明らかです。

議事録は場内を不在にしている経営者にフォローと評価の手掛かりを与えてくれます。

 

 

 

 

 

議事録というと、何か、びっしり言葉を埋めなければならないと誤解している右腕役や現場キーパーソンがいます。大事なのは仕事に役立てることです。

議論した事、出てきた意見、確認した結論などなど、記述事項はいろいろあります。

どこまで記述するか?

現場には、記述するスキルがあるなら、ドンドン記述すればいいと伝えています。記述が多ければ多いほど、現場を不在にしている経営者は多くの手掛かりを手にできるからです。

ただ、要点があります。

・事実だけを書くようにする。

意見や感想は省きます。事実と意見を交え、長文で仕上げてくる右腕役がいます。記述力があるのは喜ばしいのですが、意見は不要です。

・記述では、必ず、「主語」と「述語」を明記する。

このように指導すれば、事実中心の文章に変わっていくようです。経営者が知りたいことは事実である。右腕役には、ことに気付いてもらいます。

 

 

 

 

 

記述することに慣れていない右腕役や現場キーパーソンもいます。それまでやっていなければ当然です。そのこと自体を嘆くことはありません。

思い立ったが吉日、指導を受けて訓練すればいいだけです。ただ、慣れていないので、記述自体が負荷になります。そこで、慣れるまで、絞った記述をしてもらうのです。

・宿題事項

次回の打ち合わせまでの課題に絞って記述します。少数精鋭中小現場における議事録の役割はこれです。次回までの宿題を明記します。

・誰が、何を、いつまで(次回まで)

 

現場改革ではPDCAを回します。持続的、継続的、恒久的な取り組みです。P、Dの後にCとAをやります。このAが次回までの宿題事項です。

認識した事実に基づいた確認をした後に、挽回策や次の一手を打ちます。

 

P、D、Cの記述もあれば、認識を一致させやすいのは当然のことですが、少数精鋭の現場です、わざわざ記述しなくても、分かっていることでしょう。

それよりも大事なのは、次回までに何をしなければならないのか?ここに、我が社の現場の課題が示されます。Aだけでも十分に議事録の役割を果たすのです。

そもそも、Aに相当する次回へ向けての課題がない打ち合わせ、会議では、レート×人数分×時間のコストをかける意義がありません。事実確認だけならツールでの伝達で済みます。知恵を絞ってAを考えるからこそ、少数精鋭の中小でわざわざコストをかけて額を集めるのです。

 

と言うものの、経営者は、当然にPとDとCの記述も欲しいはずです。当然、PDCA全体の記述を指導します。ただ、議事録作成の敷居が高い現場へは、無理せずAに絞って指導するのです。Aさえ知ればなんとかなります。

経営者は、右腕役と現場キーパーソンへ、こう問いかけるのです。

あの宿題はどうなった?

今、現場で課題となっていることですから、不在にしていても、的を射たフォローと評価ができます。繰り返し申し上げますが、フォローと評価を抜きにして、経営者は工場を不在にできません。

それは丸投げです。

 

 

 

 

 

先の右腕役と現場キーパーソンも、次回までの宿題事項を記述することからやりました。

誰が、何を、いつまで(次回まで)。1項目を1行として、毎回、3行や5行です。

議論したら、必ず、次回までの宿題を設定するという思考回路が植え付けられていきます。人時生産性向上PJで欠かせない思考回路です。課題設定能力がトレーニングされます。

また、先の現場では、口頭伝達ではなく、書いたもので確実に伝達することも大事でした。しばしば痛感しています。

その後、先の現場の右腕役は、PとDとCの記述スキルを高めました。

熱心なその右腕役は、議事録の添削を希望したのです。議事録が出来上がる毎に、経営者経由で、議事録が届きます。添削して、戻し、次回訪問時に総括です。

そんな繰り返しを半年した結果、十分な水準に至りました。経営者は工場を不在にしても、議事録を見れば、何を課題としているのかが分かるようになったのです。

内の改革を右腕役と現場キーパーソンに任せられる状況に至りました。その結果、経営者は外での社長業に打ち込めるようになりつつあります。

 

 

 

 

 

志を持っている右腕役の熱意が自身のスキルを短時間で高めたようです。

こうした実績を踏まえると、経営者による、右腕役と現場キーパーソンへの指導がチームのスキルアップに欠かせないと確信しています。

「先生に添削をやってもらったので続いたと思います。」とは先の経営者の言葉。

外に出るのが忙しくてできなければ、外の力でもなんでも使って指導を進めるだけです。ただ、望むべくんば、経営者自身が添削をやります。経営者が知りたいことを書いてもらうためには、これが最速です。

言葉の指導はいろいろな意味で大切であると考えています。

従業員の協力を得るためには、共感を引き出す必要があり、そのためには現場との言葉のキャッチボールが欠かせないからです。

次は貴社の番です。

 

成長する現場は、誰が、何を、いつまでを明記した議事録で現場改革を確実に進める。

衰退する現場は、議論をしても言いたいことを言うだけの場になって次へ繋がらない。