「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第399話 向き合っている市場の将来について考えているか?

「こんな感じで推移していたのですね。」

20人規模部品製造企業経営者の言葉です。

 

先代から事業を引き継いで1年が経過しました。引き継いだ事業をどうやって豊かに成長させようか?2代目として、仕事のやり方を模索しています。

先代と一緒にお客様のところへ足を運んでいた経営者です。製造活動の具体オペレーションにはそれほど明るくありません。先の経営者はそこに少々不安を感じていました。

ただ、儲かる工場経営の「外」と「内」と「製販一体」構造を知って、社長業の本質に腹落ちしたところです。

しばしば、お伝えしていることですが、先代が創業者である場合、2代目は先代の仕事のやり方を真似ようとしても概ねできません。創業者は、ゼロイチという、それをやった人でなければ分らない厳しい困難を超えるパワーを持っている方です。

外も内も全て自身で手探りしながら、お客様を開拓し、機会を捉えてご縁を結び、事業の収益化を実現させました。創業者はその存在自体で全社のベクトルを揃えています。

それだけの存在であると感じる所以です。そして、その仕事ぶりの真似は、なかなかできる事ではありません。

したがって、2代目は2代目の新たな仕事のやり方を見つければいいのです。

先代が背中で従業員を引っ張っていたのなら、2代目は新たやり方で会社を導きます。「言葉」と「数字」です。ロードマップに語らせます。

 

ロードマップに語らせるのは将来の数字です。経営者の仕事は「将来数字」を創ることにあります。売上高が一定水準であっても、その売上高構成を変えて、人時生産性高めるのが将来数字です。将来数字は我が社が生き残るための成長条件でなければなりません。

「将来数字」を実現させる作戦書がロードマップ、経営計画書です。これに語ってもらい、先代とは違うやり方で指示導線を機能させます。ロードマップの対象は将来です。

ただ、将来を語るには、現在の立ち位置、現在の傾向を踏まえる必要があります。「将来数値」を創るために、まずは、現在の立ち位置と傾向を定量的に見えるようにしました。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

将来数字を創るのに必要なのは「情報」「傾向」です。

我が社が属している業界の市場動向、競合動向、技術動向等、業界を取り巻く外部環境が将来どう変わるか?この情報がなければ将来数字は創れません。

したがって、経営者は外に情報を獲りに行くのです。アンテナを高く、感度も高くすれば、情報の方から飛び込んできます。内にいる時間が長い経営者は情報を見過ごすのです。幸運の女神には前髪しかないと言われます。

足を運び、手を尽くし、耳を傾け、外の力を借りて、情報を集め尽くした経営者は精度の高い見通しを立てられるのです。

ただ、もう一つ、欠かせないのがあります。傾向、トレンドです。トレンドとは変化と言い換えられます。変化ですから、具体的には3つです。

増加、横ばい、減少

 

将来は現在の延長線上に存在するものです。将来数値を創るとき、現在の立ち位置と傾向を踏まえる必要があります。

V字変化はそうあるものではありません。自然な勾配変化を維持するのが自然界のみならず経済界での普通です。

手にした判断材料では、今後、かなり明るい見通しが立てられそうでも、足元の市場規模や売上高のトレンドが「減少」なら、当面、そうなると予測するのが自然です。

いつの日か変曲点を通過してトレンドを変えます。嗅覚の鋭い経営者は、我が社の「変曲点」を当てるわけです。見事な見通しにしばしば唸らされます。

将来数字を創るのに必要なのは「情報」と「傾向」です。

 

 

 

 

 

現在の立ち位置と傾向を見るようにしたものが移動累計です。先の経営者はロードマップに将来数値を語らせようとしています。まずは現在の立ち位置と傾向の把握です。

売上高からやります。売上高全体と主要お客様別売上高です。主要なお客様としてトップ5を選びました。過去3年分のグラフです。先の企業のそれは、全て、右肩上がりでした。

 

目を凝らしてみれば、特定企業の特定期間で数カ所、横ばいや右肩下がりがあります。ただ、それらはほとんど無視をしていいほどです。全体もトップ5も見事な右肩上がりになっています。いわゆる四死球も出さない「完全試合」です。

見事な成果が出ています。見事なので「これは見事ですね。完全試合達成の要因は何でしょう?この要因を押さえれば、積み上げはできますよ。」と先の経営者へ言葉をかけました。

「完全試合」の移動累計にはそれ相当の理由があります。たまたま、そうなることはあり得ません。良好であるなら、良好である背景や要因を理解していないと、変化があったときにまずいです。

 

 

 

 

 

先の企業が扱っている部品は最終消費者に近い業界に関連しています。したがって、その業界の国内市場は人口規模に影響を受けると推察されました。

日本の人口は2010年頃をピークに、それ以降、減少モードに入っています。減少モードに入って、10年以上経過したところです。先の企業が扱っている部品の業界、市場は減少モードにあると推測されます。

それにも関わらず、この3年間、売上高移動累計が毎月、50百万円/年ほどのペースで右肩上がりを維持しています。

市場自体が成長していないのに、我が社の売上高移動累計は着実に右肩上がりなのはなぜか?お客様である商社担当者の話から推察できそうなことがありました。

・同業他社の廃業により、その分が我が社に流れてきているから。

 

「市場動向は数字で把握しなければ、将来が見通せなくて心配ですね」とは先の経営者の言葉。売上が伸びていると、なんとなく現状に安心していても、安価なアジア製品が、ヒタヒタと国内市場を浸食しているかもしれません。

輸入品という競合があるなら、国内市場に占める輸入品の推移を知る必要があります。まずは、市場規模です。

・(国内)市場規模を把握する

・国内に流入してくる安価な海外製品規模を把握する

 

将来数値を創る際、我が社が向き合っている市場の状況を知らないと不安になります。今後、市場が縮小傾向にあるなら、市場に身を任せることはできません。

・市場規模は維持されるが、安価な海外品が増える。

・市場規模は右肩下がりである上に、安価な海外品が増える。

市場規模と将来の見通しは大事です。

 

自動車部品工場時代、工場で扱っている部品の市場規模は毎年、調査されていました。足回り部品です。燃費向上が自動車業界のニーズである以上、動力がエンジンであろうがモーターであろうが関係なく、軽量化された足回り部品は商売になると考えていました。

「車が全て空を飛ぶようにならないかぎり事業は大丈夫だ。」こんな認識を全員で持っていたので、研究開発にも迷わず取り組めたのです。

 

 

 

 

 

客観的なデータがないと、我が社が造っているモノは、将来も市場から求められ、今後も無くなることは絶対にないと思い込みがちです。

正常性バイアス。自分の思考や願望の確証となりそうな情報ばかり探してしまい、反対意見は軽視するので、市場変化に気付かず、自分は大丈夫だとの思い込みに陥ります。

 

構造改革とは人時生産性を高める改革です。現場改革、意識改革を通じて、儲かる事業モデルを創ります。活動の舞台は市場です。

その舞台が成長モードなのかどうかを知ることは、生き残り条件のひとつです。

・(国内)市場規模を把握する

・国内に流入してくる安価な海外製品の規模を把握する

・市場規模は維持されるが、安価な海外品が増える

・市場規模は右肩下がりである上に、安価な海外品が増える

こうした判断を数字でやれるようにします。

 

 

 

 

 

先の企業では、扱っている部品の業界、市場を調べたことがありません。そもそも、市場と向き合うという考え方をしていませんでした。

具体的には、これから調べますが、先の企業が関連している市場は、概ね、伸び悩みか、縮小傾向にあるようです。

それでも、売上高移動累計が右肩上がりなのは、同業他社の廃業により、その分が我が社に流れてきているからです。先の経営者は、あたりの裏付けを取ろうと考えています。

これから取る戦略は残存者利益戦略です。これから、生き残り戦略を具体化します。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、市場が将来も伸びることを知っているから人時生産性向上に打ち込める

衰退する現場は、我が社の製品は無くならないと思い込んでいるだけなので変化に慌てる