「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第409話 少数派の前向きな従業員に注目をしているか?
「いろいろなお客様から声が掛かって受注の機会はあります。」
来月からPJに着手する50人規模部品メーカ経営者の言葉です。
コロナ前から売上高が横ばいです。収益も水面を上にいったり下にいったり。トントン水準です。この状況を脱却するためにやることは「積み上げ」です。
「積み上げ」機会の有無が論点となります。「売上を積み上げることは可能ですか?」との問いかけに対して、経営者から力強い言葉が返ってきました。冒頭の言葉です。
ただし、それにも関わらず、長年トントン水準で変わりません。
その状況を脱するのが今回のPJの目的です。
先の経営者は製造を現場へ任せていました。そして、現場は現場独自の判断基準で日程計画を組んでいたのです。納期遵守のために無理をしません。
その考え方は非難されるものでありませんが、経営者が手にする多くの受注機会を活かせていないのです。ここに経営者と現場でのズレがあります。
経営者は現場へ指導しなければなりません。
・受注機会を手にできている経営者の仕事ぶりを理解させる。
・受注機会を活かすやり方に変える。
収益は水面付近にありますが、受注を積み上げることは直ぐにでもできると断言できる経営者の存在はこの企業の強みです。経営者も現場もそのことに気付いていていないようです。
中小企業庁が、中小製造企業の倒産原因として挙げている項目は下記です。
・放漫経営
・過少資本
・連鎖倒産
・既往のしわよせ
・信用性の低下
・販売不振
・売掛金回収難
・在庫状態悪化
・設備投資過大
「既往のしわよせ」とは、長期的に業績が悪化しているのにも関わらず、それを把握していないために倒産してしまうことです。昨今は人手不足や後継者不在なども加わっていると推察されます。
項目はいろいろありますが、最も多い原因は何か?
・販売不振です。
年度によって若干の差異がありますが、60~70%を占めています。
倒産に至る経緯は複雑で複合的です。上記の項目が絡み合っていると推察されます。ただ圧倒的な割合で販売不振です。
つまり、売上を獲得する機会さえ確保できていればなんとかなるとも言えます。内部にすったもんだがあろうがなかろうが、売上を確保できれば生き残れるのです。
経営者の仕事場は外にあります。「販売不振」を回避するのは経営者の仕事です。
販売不振に直面してから、販売不振の対策を打っているようでは間に合いません。
コトが起きてから対応するやり方を成り行き経営と言います。納期遵守に懸命な現場での仕事ならそれでも十分ですが、経営者が現場と同じ仕事のやり方をしていてはダメです。
そうならないように将来を見通し、将来のために「今」何をやらなければならないかをロードマップに記述し実践するしかありません。
転ばぬ先の杖。
経営者の目線は外、時間軸は将来。
危機を回避する、起きてはならないことを起こさない、最悪の事態を避ける。経営者の仕事は先手必勝、販売不振はそうしてこなかった付けが回ってきた結果です。
受注の手立てをたくさん持っていれば、経営者は売上高を見通せます。
販売不振を未然に防げるのです。
ただし、手立てを手にすることは容易なことではありません。
市場に身を置いて、お客様と競合に向き合い、業界のトレンドを把握して、顕在的ニーズや潜在的ニーズを探ります。そこで得られた知見をもとにお客様へ魅力的な提案ができて初めてお客様に選ばれるのです。
経営者は「内」のすったもんだに、時間を割いている暇はありません。
「外」での社長業に没頭できるよう、右腕役と現場キーパーソンに工場を仕切ってもらう必要があります。
人時生産性向上PJの目的は、現状の5,000円台、6,000円台で頭打ちになっている人時生産性を7,000円台、8,000円台へ高めることです。
利益アップと給料アップ。
PJで取り組むからには、こうした数値成果を目指すのは当然のことです。
ただ、長期的にはもっと重要な目的があります。
経営者が不在でも右腕役と現場キーパーソンが工場を仕切れるようにすることです。
・全社一丸、製販一体。指示導線が機能する体制作り。
経営者から現場へのトップダウンをできるようにします。このトップダウンがあるから、ボトムアップが生まれます。ここは重要な論点です。
今もしばしばし、大手製造企業での品質不正問題報道を耳にします。現場からのボトムアップがない、あるいはあっても経営層が真摯な対応ができない製造企業の末路です。
トップダウンが機能していない、つまり指示導線が機能していない結果です。
経営者が不在にしていても右腕役と現場キーパーソンが工場を仕切れるようにすることの重要性が分かります。
「作業者からのボトムアップがありません。気になっています。」
先の経営者の言葉です。
原因は指示導線が曖昧でトップダウンができていないところにあります。経営者の判断基準ではなく、現場の判断基準で仕事が処理されているのです。
経営者の判断基準ではなく、現場の判断基準で仕事がやられている状況を放置してきたことに原因があるわけですが、そのことに気付いた今、ここから手を打ちます。
これから改革を進めばいいのです。
経営者による従業員への宣言、説明。言葉を尽くして経営者の構想を従業員へ訴えます。
訴えることの多くはビフォーアフターです。
「今まで〇○だったけれども、これからは●●に変わって欲しい。」
従業員に「変わること」をお願いすることになります。
「こちらが言ったとおりに従業員は変わってくれない心配があります。」
先の経営者は、従業員へ訴えても、期待した反応がないかもしれないとの懸念も抱いています。これまでのやり取りから、経営者はそうした恐れを感じているようです。
だから、経営者は手を替え品を替え、従業員へ構想を伝えるのです。経営者の判断基準を明確にするのです。
新年度、月末、週一、毎朝。経営者が従業員へ意思表示する機会は多々あります。口頭や文書。手段もいろいろあります。
経営者の本気度は、繰り返し語る姿勢から醸成されるものです。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、です。
なぜ、繰り返し、繰り返し、繰り返しなのか?
経営者が、一度や二度、訴えたからと言って、従業員全員に、即、そのことが浸透することは期待できないからです。
現場が知らず知らずに身につけた「現在」の思考回路は、「過去」から生み出されたものです。それを変えるには時間がかかります。これには社会学的経験則も影響しています。
2:8法則という社会学的経験則です。
社長の宣言に対して、前向きに考えてくれるのは、10人中2人、30人中6人、50人中10人にとどまるというものです。
人は易きに流れます。変わるにはエネルギーが必要です。誰も率先して変わりたくありません。今のままが楽です。
それだけに、前向きに考えてくれる2:8法則の「2」の人たちは本物です。経営者の言葉を真摯に受け止める気質を持っています。
そうであるなら、経営者は2:8法則の「2」の人たちに焦点を当てるのです。
「変わってくれない従業員」ではなく、少数派ですが「変わろうとしてくれる従業員」に注目します。そうして小さなPDCAを回すのです。
そうした従業員に白羽の矢を立てて、プロジェクトを始めます。最初は小さくです。
そして、このメンバーには、持ち前のdriving forceを高めてもらいたいのです。外部の視点に触れることがその機会になります。比べる機会を与えられるからです。
そして、ここに経営者による「フォローと評価」を加えます。2:8法則の「2」の人たちはここで確信を持つのです。
「このプロジェクトをしっかりやって社長の期待に応えたい。」
ここまでくれば、2:8の法則は拡張されます。2:8の後ろの8がさらに2:8になり、さらに後ろの8がさらに2:8になり・・・。経営者は従業員の中から出てくる「2」の人を探るのです。
プロジェクトを進める過程で、意外な若手やベテランが協力的な姿勢を示してくれるということが起きます。ご支援先の現場でのことです。
少なくない従業員が変化の機会を待ち望んでいると感じています。
2:8の法則によると、どうしても変われない人が存在することになります。この人たちを変えようとしても労多くして功少なしです。そもそも、少数精鋭の中小現場でそこに時間を費やす余裕はありません。
経営者は意識改革の手順を理解するべきです。
経営者の宣言→繰り返し、繰り返し、繰り返し→2:8法則「2」の人の探索→「2」の人のdriving force→経営者による「フォローと評価」→2:8の法則の拡張
「driving force」と「フォローと評価」が意識改革の要点です。
そして、忘れてならないことがあります。
経営者が「2」の人が力一杯仕事に没頭できる環境整備しなければならないということです。少数派の「2」の人が、人に関するストレスを感じさせないようにします。
これは絶対です。一生懸命にやっている人が、心の折れる事態に直面することは避けなければなりません。経営者の仕事です。
先の経営者は、受注を確保する手立てをたくさんもっています。
売上を伸ばす機会がありながら、それを逃してきた現場は損をしてきたわけです。モッタイナイことです。人時生産性向上の機会を失ってきました。
売上高を伸ばす機会を手にしていながら、誤った現場の判断基準を放置したことが原因で、我が社を右肩上がりにできなかったのです。
先の経営者が、我が社の現状を隠すことなく現場へ想いを込めて説明し、改革の協力を請えば、必ず事態は前向きに動きます。人時生産性を高めて不幸になる人はいません。
そもそも、売上獲得の自信を持っている経営者はそれ自体が強みです。その強みを全社で認識したいところです。
機会は生かさないとそのうち無くなります。
来月からの改革を急ぎたいです。
次は貴社の番です。
成長する現場は、2:8の法則の「2」の人に焦点を当てるので2:8の法則が拡張していく
衰退する現場は、2:8の法則の「8」の人を変えようとしてできず時間を浪費していく