「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第411話 他人の拡販をあてにしていないか?

「なるほど、新商品開発の前にやることがありますね。」

 

PJに着手して1年が経過しようとしている消費財メーカー経営者の言葉です。

 

営業利益率が二けた前後で推移する事業を展開しています。売上高移動累計も右肩が上がりです。当面は問題なさそうです。

しかし、一方で人時生産性が伸び悩んでいます。その背景はいろいろありますが、議論の中で徐々に論点が明らかになってきました。

 

一層の付加価値額を積み上げたい、その経営者は商品開発を考えています。多くの製造経営者は現状維持に安住しません。商品開発、技術開発は絶対です。

これをやらないと業界、競合に置いてけぼりを喰います。したがって、この経営者の心意気やヨシ!です。

ただ、なにごともそうですが、手順があります。少数精鋭の中小製造企業なら、なおさらです。先の経営者はそのことに気付きました。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

製造事業を5億、10億、20億、50億・・・と豊かに成長させたかったら、経営者は外へ出て市場に働きかけなければなりません。経営者の仕事場は外にあります。

そして、働きかけ方は4通り。

1)既存顧客へ既存商品

2)既存顧客へ新商品

3)新規顧客へ既存商品

4)新規顧客へ新商品

 

1)は市場の深掘りです。

今、取引をさせていただいているお客様から、一層の要望を引き出します。働きかけの切り口はスマイルカーブです。ただ、この深掘りには限界があります。

従来からのお客様なので、何かあれば、あちらから電話を掛けてくれるのです。それがないというのは、今は要望が無いと言うことでもあります。

 

一層の積み上げをしたかったら、2)あるいは3)です。

先の経営者は2)を考えていました。考え方は間違っていません。しかし、商品開発は手間暇がかかります。大手のように経営資源が潤沢にあるなら、失敗も許されます。しかし、その余力がない中小製造企業では、手順を踏んで新商品開発に取り組む必要があるのです。

 

・2)をやる前に3)を徹底的にやる

この順番です。

市場には、我が社の商品を知らない「新規」のお客様がたくさんいるはずです。そのお客様と出会い、我が社の商品を知ってもらって、生の声を聴きます。

この場合のお客様とは、単なる取引先とは違う「本当のお客様」のことです。

 

 

 

 

 

先の経営者がお世話になっている主要取引先は、7つの卸業者さん、商社さんです。大小さまざまな取引先が300社以上あるなかで、上位7社で売上高の4分の3を占めています。

我が社の命脈を保つのに、これらの卸業者さん、商社さんとの密なお付き合いは欠かせません。全て先代が開拓してくれたお客様ですが、先代の時代から、先代と一緒にあししげく足を運んだこともあり、今も、大切なパートナーとしてお付き合いが継続出来ています。

ありがたいことです。

 

「これらの7社は全て、大事なお客様です。」とは先の経営者の言葉。

この言葉に間違いはありません。

ただ、大事なお客様である上位7社の卸業者さん、商社さんが「本当のお客様」かどうか?

「本当のお客様」は見極める必要があります。一層の積み上げを実現させるカギを握っているのは「本当のお客様」だからです。

 

 

 

 

 

私自身が関わっていた製品で、「本当のお客様」の声を始めて耳にしたのは、自動車部品工場勤務時代です。

その工場は、足回り部品サプライヤのティア1でした。その時のお客様は、自動車メーカーです。OEMだったので、お客様は自動車メーカーという認識で間違いではありません。

 

ただ、本当のお客様?はとなると・・・・。

本当のお客様は自動車を購入したユーザーの方々です。

 

一般的な自動車ユーザーは、自動車部品、それ単体には興味を抱きません。一方で、内装品や足回り部品など、自動車の装備品や部品、それ単体に興味を持ってくれる人がいます。

クルマ愛好家、自動車マニアです。

自動車部品工場時代に扱っていたのはそうした方々の興味を引く類いの足回り部品でした。

 

自動車業界の展示会には、モーターショー(今はモビリティショー)を始め、各種展示会が、当時もあり、私が所属していた工場も積極的に出展していたのです。

展示会の中には、自動車メーカー担当者よりも、クルマ愛好家、自動車マニアの方が多く足を運ぶような展示会もありました。「本当のお客様」の声を始めて耳にしたのはその場です。

 

ブースの説明員として訪問者への対応をするわけですが、明らかに自動車メーカーの担当者ではない方々も訪問してくれました。クルマに興味を持っていた若い方々です。

・この塗装はカッコイイですが、どんな塗装なのですか?

・なるほど、これは軽いですが、この軽量化技術の●●法とはどんなものなのですか?

質問事項が意外と専門的でした。専門的なことに興味をもつユーザーもいることを肌で知ったわけです。

 

自動車メーカーへ部品を納入するティア1という立場では、自動車メーカーがお客様です。ただ、その商品や製品を手にするユーザーがいます。ある意味では、「本当のお客様」とはこうしたユーザーとも言えるのです。

それまで自動車メーカーとしかやり取りをしたことがなかっただけに、「本当のお客様」の声に触れる機会は貴重でした。その部品単体で何が「売り」になるのか知ったからです。

知ったというよりも、教えてもらったと言えます。

 

最終消費者や使用者に選ばれないと商品や製品は売れません。そして選ばれるか?選ばれないか?は、原則、考えても分からないものです。

扱っている製品に求められていることは、それを選んでくれる最終消費者や使用者、「本当のお客様」から教えてもらいます。

 

儲かる工場経営の要諦は「お客様に選ばれる商品を効率良くつくること」にありますが、「お客様に選ばれる」とは、そういうことだと、その時の経験を通じて、知ったわけです。

 

 

 

 

 

先の経営者が扱っている消費財の最終消費者は、主に病院や介護施設にいます。

そうであるなら、我が社の「本当のお客様」はそこにいるのです。先の経営者が出会うべき「本当のお客様」は、病院や介護施設にいます。

 

卸業者さん、商社さんは「取引先」であり、最終消費者である全国の病院や介護施設やその他のお客様と我が社を繋ぐ役割を果たしてくれています。先の経営者は、卸業者さん、商社さんが持っているネットワーク、流通の仕組みを使わせてもらっているのです。

 

全国津々浦々、我が社の商品を使いたいと思い立ってくれたお客様は、メーカーではなく、卸業者さん、商社さん、代理店へ連絡を入れます。

我が社だけで、この全国津々浦々の販売網を構築しようとすると、莫大な時間とお金が掛かるのです。先の経営者は、そこのところを、卸業者さん、商社さんに助けてもらっています。

ただし、「取引先」ですから、ここまでです。

 

一層の付加価値額を積み上げたいと考えている経営者がやりたい事はただ一つ。

拡販です。

拡販の手段として、まずは、徹底的に3)をやります。

 

「たしかに、御世話になっているけれども、我が社の商品を優先して拡販してもらったことはないですね。」

お世話になっている卸業者さん、商社さんが、我が社の商品を優先して、積極的に、全国津々浦々、拡販で時間を割いてくれることは、稀であろうと想像できます。

一時的なキャンペーンでそうしてくれることはあるかもしれません。ただ、我が社の商品を優先し、継続的に、拡販してくれること期待しても、期待外れになるはずです。

ただし、考えてみれば、これは当然のことです。

卸業者さん、商社さんも商売で仕事をしています。多品種の商品を抱えているのです。我が社の商品を優先させる理由があれば、そうしてくれますが、そうでなければ、我が社の商品も「one of them」です。

先代からのお付き合いとのことで、重要なパートナーと考えてくれているのは事実ですが、積極的な拡販まではやってくれません。

ただ、これは普通のことです。

 

 

 

 

 

拡販は経営者の仕事です。

我が社の商品や製品を知らない「本当のお客様」のところへ足を運び、声を聴きます。全国津々浦々、経営者自身が「本当のお客様」と向き合わない限り、我が社の商品や製品の価値を伝えることはできません。他人ではダメです。

 

「本当のお客様」の声を聴くことに没頭しているうちに、新規の受注に繋がることがあるのです。そうなったら、ここで、卸業者さん、商社さんを紹介して受注へつなげます。

さらに、「本当のお客様」の声に新商品開発のヒントが隠されているかもしれません。そうなれば、ここで、新商品開発を考え始めるのです。

なにせ、それを直に消費、使用している「本当のお客様」の声です。ヒントが的を外す懸念は圧倒的に低くなります。

だから下記です。

・2)をやる前に3)を徹底的にやる。

 

先の経営者はこのことに気付きました。

経営者は拡販の大事な仕事をすすめ、お世話になっている卸業者さん、商社さんのネットワーク、物流の仕組みを活用させてもらう、というのが、積み上げの際の、正しい姿勢です。

 

ただ、当然ですが、簡単なことではありません。

足を運んでも、全く興味を持ってもらえないこともあるのです。ガッカリします。ストレスも感じるでしょう。

しかし、それをやらないと、まだ見ぬ「本当のお客様」に出会うことはないのです。大変なので経営者の仕事です。

 

 

 

 

 

さて、先の経営者は、「本当のお客様」のところへおじゃまして、声を聴いてみようと考えることは、何度かあったようです。ただし、それを実践に移せませんでした。

なぜか?

工場の管理業務が気になって、時間を割けなかったからです。現場ですったもんだが起きている中、経営者が現場を離れては、収拾がつかなくなります。

 

「本当のお客様」の声を聴くことの有用性は論を俟ちませんが、それを継続的に実践するには、膨大な手間暇がかかります。

経営者が本気で全国津々浦々、「本当のお客様」と向き合おうとしたら、工場をほとんど不在にしなければならなくなるからです。この仕事は社長にしかできません。

そして、この社長業の実践には、前提条件があります。

 

・経営者が工場を不在にしても、工場がしっかり回る仕組みがあること

 

右腕役と現場キーパーソンが指示導線を機能させて、不在の経営者に代わって現場を仕切れていなければ、外に出ている経営者はホテルで枕を高くして寝られません。現場の勝手は半D難基準で仕事をやらてたら、たまったものではありません。

 

先の経営者は、この1年で仕組みの土台を構築しました。これから、実践会を通じて、右腕役と現場キーパーソンが、実務に取り掛かります。

そうやって、先の経営者は外での社長業、「本当のお客様」への拡販に専念できるのです。人時生産性向上活動の仕組みは経営者が外での仕事に没頭するためのものでもあります。経営者が工場を不在にしてもしっかり回るのです。

 

拡販は経営者の仕事です。我が社の商品、製品の価値は、経営者でなければ伝えられないので、他人には任せられません。

先の企業は、営業利益率2桁維持の実現へ向けた実務を始めました。これからがPJでの成果の刈り取りです。製販一体の取り組みに期待をしています。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、本当のお客様へ拡販をしたい経営者を支援しようと仕組みで頑張る

衰退する現場は、仕組みづくりをしないので、現場が気になる経営者は外で仕事ができない