「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第415話 目標売上高を達成する指針を示しているか?

「どうしたらいいのか、具体的に浮かばないですね。」

40人規模板金加工企業、製造課、現場キーパーソンの言葉です。

 

新たな事業年度を迎えるに当たって、この企業の経営者は新たな宣言をしました。従業員の処遇についてです。経営者は従業員の奮起を促したいと考えています。多くの経営者と同じように、「固定費は将来投資」と考えている経営者です。

 

ただ、こうした経営者の想いは従業員にしっかり時間を掛けて、教えられなければなりません。従業員は将来よりも、過去と足元に目が向くからです。経営者のように将来のことに意識が向きません。

そこで、実践会を通じて、経営者の意図を説明していきます。

 

さて、新たな宣言とともに、利益目標も提示されました。多くの経営者もそうしています。利益は●●まで増やしたい・・・。経営者の切なる願望です。

そして、右腕役が、この願望を実現する現場での作戦を立てることになります。

 

そこで、右腕役も含めた4名のプロジェクトメンバーへ次のように尋ねました。

「現場では具体的に何をどうしなければならないでしょうか?」

経営者から営業利益の利益目標が出されたので、それを実現する具体策、手順を立てなければなりません。メンバーの1人である製造課現場キーパーソンが答えてくれました。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

経営者は、日程計画3本柱のひとつ、大日程計画で、年間利益計画を従業員へ示します。

経営者の思考は逆算です。例えば、「今年は従業員1人当たり100万円程度の営業利益を確保したい」というように考えることになります。根拠は業界平均などです。

仮に従業員が35人なら、目標年間営業利益3,500万円となります。3,500万円/年なので、ざっくり300万円/月の利益です。そして、その利益規模から目標売上高が設定されます。

経営者による逆算思考です。

 

新年度を迎えるにあたって、「今年度も、受けた仕事を納期通りさばいていこう!」という姿勢だけでは、成り行き経営とのそしりを免れません。一方、利益300万円/月、売上高〇〇円/月の目標を掲げれば、獲りに行く経営となります。

獲りに行く経営では、毎月、達成、未達の客観的判断ができるので、もはや成り行きではありません。経営者の意志と意図が現れます。

ただ、現場の協力を引き出そうと考えるなら、売上高と利益の数値目標だけでは足りないのです。先の現場キーパーソンも「具体的にはわからないですね。」と言っていました。

 

 

 

 

 

生産状況を金額で見える化することがしばしばやられています。経営者は従業員の思考回路へコスト意識や収益意識を組み込もうと考え、あえて具体金額を従業員へ知らせます。

日々是決算での付加価値額や不良損金額など。これは大切な指導の一環です。

 

ただし、現場で管理しているのは、時間とモノであることに留意しなければなりません。金額はあくまで換算された結果であり、現場が直接に管理しているのは作業時間や出来高です。したがって、売上高や利益の金額目標だけでは、現場はイマイチ実感できません。

 

目標売上高は作業時間や出来高に変換して伝えます。中小製造現場で多くやられている機能別レイアウトによる特注品生産ではなおさらです。生産現場では、ボトルネックと上手に付き合う必要があります。

ボトルネックを事前に認識してもらうために、目標売上高は作業時間や出来高に変換した目標を指示します。

 

・昨年度は1,000個/月製造したが、今年度は1,200個/月製造して欲しい。

・製品A3,000個/月に加えて、製品B2,000個/月と製品C500個/月も製造して欲しい。

・昨年度平均加工CT3.0分を2.5分へ短縮して欲しい。

・昨年度平均製造LT8.5日を7.5日へ短縮して欲しい。

 

現場の協力を得るために、現場で管理できる2つの観点、時間とモノで指示を出します。したがって、各種作業標準時間のマスターデータがあれば、的確な指示が出来きるのです。

逆に言うと、マスターデータがなければ、指示も曖昧なまま、経営者の意図が現場へ浸透することはありません。ここに現場都合が優先される思考の原因があります。

 

 

 

 

 

さらに、マスターデータに基づく的確な指示を受けた現場キーパーソンは、ボトルネックが見えてきます。我が社の生産能力を知る上で大事なことです。

ある射出成形メーカー生産管理担当者が生産能力の検討をしていた時、次のように日々の困りごとを語っていました。

「特定の射出機でしかできない製品の受注が多くなると出来高を伸ばせなくて困ります。」

 

・製品Aの生産可能設備:設備1と設備2

・製品Bの生産可能設備:設備1のみ

 

・設備1の生産能力:500個/月 

・設備2の生産能力:1,000個/月 

※したがって、工場全体の生産能力1,500個/月

 

上記の現場で、次の計画は達成できるか?

●計画1 製品A1,000個/月 製品B 500個/月  工場全体1,500個/月

●計画2 製品A 500個/月 製品B1,000個/月  工場全体1,500個/月

 

計画1では計画通り1,500個/月製造できますが、計画2では1,000個/月までしかできません。設備1がボトルネックなっているからです。

●計画1 設備1で製品Bを500個、設備2で製品Aを1,000個  計1,500個/月

●計画2 設備1で製品Bを500個、設備2で製品Aを 500個  計1,000個/月

 

金額ではなく、作業時間や出来高による具体的な指示があると、現場はボトルネックを認識して、精度が高い判断ができます。

計1,500個/月という指示だけだったら、現場は上記の判断ができません。

ボトルネックを認識したら、現場には、ボトルネックに対応するお作法があります。ただし、指示が1,500個/月だけでは、そうした判断ができないわけです。

 

 

 

 

 

経営者の思考は逆算なので、経営者の計画は利益から考えることになります。そこから必要売上高を算出するのです。必要売上高があれば、実績売上高とのギャップが分かります。経営者の姿勢は「獲りに行く経営」となるのです。成り行き経営とは一線を画します。

 

そして、経営者は目標売上高や目標利益を工場の「言葉」に翻訳して伝えるのです。

現場で管理している時間とモノで言い換えます。CT、LT、出来高です。この数値を示されれば、現場は経営者の意志を理解できます。現場には、目標売上高、目標利益を達成するための目安になる指針を示すのです。そうすれば、現場では具体的に考えられます。

目安程度の精度でも構いません。CT、LT、出来高で示されれば、現場の指針になります。

目安になる指針をもった現場は、羅針盤を備えた船と同じです。途中、嵐などで苦労するかもしれませんが、目的地への方向がはっきりしています。船は遭難しません。

 

 

 

 

 

収益の源泉はお客様です。したがって、収益計画の最上位にあるのは販売計画です。大手企業の中長期計画を見れば分かります。業界動向や販売戦略から説明されているのです。工場のことはその後です。

そして、販売計画とセットで示されるのが製造計画です。

現場にはボトルネックが存在しています。蓋を開けてからすったもんだしたくありません。生産設備毎、品種毎、生産ライン毎、製造の内訳を現場へ知らせれば、問題を事前に認識できて、先手必勝で行動できます。

 

販売計画→製造計画→ボトルネック認識→阻害要因の除去→必要売上高達成

経営者は利益目標、売上高目標を示したら、現場には、それらを達成するための目安になる指針、CT、LT、出来高も伝えます。それが、製造計画です。

製造計画が販売計画と現場をつなぐ役割を担っています。

 

現場の協力を引き出すために、現場で管理できる2つの観点、時間とモノで指示します。そして、それは作業標準時間のマスターデータがあればできるのです。

経営者はこうした基本を現場へ指導する必要もあります。全ては、経営者が外での社長業に専念するためです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、製造計画でボトルネックを認識して先手を打ち売上高を積み上げる

衰退する現場は、製造計画がないので当日のすったもんだで売上高が積み上がらない