「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第417話 積み上げる規模と勢いを把握しているか?
「同業他社からの引継ぎ業務です。」
40人規模の自動車部品メーカーの経営者の言葉です。
右腕役と現場キーパーソンで構成されたプロジェクトメンバーは我が社の人時生産性を高める論点を理解しています。人時生産性を高める手段の理解がバラバラでは成果は出にくくなるのは明らかです。
プロジェクト成功の可否はメンバー間のベクトル揃え次第と言えます。ベクトルの向きが揃っていないと相互補完性も高まりません。
今まさに、右腕役と現場のキーパーソンが一丸となってプロジェクトを進めており、PDCAサイクルを自主的に回せる体制が整いつつあります。チーム力が高まれば、内の仕事を現場に任せられるので、経営者は市場とじっくり向き合えるようになるのです。
先の経営者は、3年先、5年先を見据えた儲かる事業を考えるために、既存の仕事を再評価し、戦略的に分類しています。
「今、重視している仕事は何ですか?」との問いに返ってきたのが冒頭の言葉です。
・利益は固定費VS付加価値額から生まれる。
・経営者が持っている時間は有限である。
製造業の収益構造を考える上で欠かせない2つの論点です。
製造業の収益構造は、固定費と付加価値額の大小関係で決まります。そして、経営者が持つ時間は有限であり、限られたリソースをどのように現場へ投入するかが成功の鍵です。
人件費や設備費など、将来のための投資が経営者の意志や意図として、固定費に現れます。その投資を回収する戦略が重要です。
経営者は年度初めに固定費を設定し、その回収を12ヶ月以内に達成することを目指します。付加価値額、粗利、スループット、限界利益、貢献利益で定義される、いわゆる「儲け」が回収の原動力です。
中小製造企業の豊かな成長に、効果的な設備投資は欠かせません。そして、効率的な設備投資を実践する際、投資の回収期間は重要な役割を果たします。
今、投資した設備で、永続的に利益を生めるわけではありません。技術の進化や競合の追随のためです。したがって、技術の「賞味期限」内に投資を回収することが求められます。
経営者は常に「投資→回収→投資→回収→投資→」を考え、効率的な回収を目指します。特に製造業では、設備老朽化だけでなく、技術革新に置いてけぼりを喰わないよう、これを見越した計画が必要です。
技術で戦う意識を持った経営者は、常に、投資→回収→投資→回収を考え、回収期間で設備を最大限に活用する意識を持っています。
老朽化対応更新投資しかやらない経営者にはこの意識はありません。
「やれやれ、設備が新しくなってヨカッタ、ヨカッタ。」
設備投資をゴールと考える経営者に回収期間という発想は生まれにくいのです。こうした意識の違いが、長期的な経営の成否を左右します。
この「回収」の考え方は、設備投資に限らず、日々の事業遂行にも当てはまります。経営者は期首に固定費を決め、その回収を12ヶ月以内に達成することを目指すのです。
経営者の経営への意志と意図は、人件費と設備費に現れます。その固定費を12ヶ月間で回収しなければなりません。14ヶ月で回収できたとしても、それは赤字です。
固定費回収の原動力が付加価値額です。弊社でお伝えしている、「詰めて、空けて、取り込む」の対象物となります。貴社の収益力、収益体質はこれらの積み上げ方で決まるのです。
そして、付加価値額の積み上げ方は事業モデルで決まります。
「お客様に選ばれる製品を効率よく造る」ことが儲かる工場経営の要諦であり、これが戦略部分です。良い戦略があれば、多少の不手際があっても利益を生みます。
が、その逆はありません。事業モデルが悪ければ、どんなに優れたチームでも利益を上げることは難しいのです。事業モデルが我が社の全てを決めています。
付加価値額の積み上げ方はこれ次第だからです。
付加価値額の積み上げ方は、「規模」と「スピード」で表現できます。
・規模:どこまで積み上げるのか?
・スピード:どんな勢いで積み上げるのか?
そして、積み上げ方のパターンは4つです。
1.規模は大、スピードも速
2.規模は大、スピードは遅
3.規模は小、スピードは速
4.規模は小、スピードも遅
理想的な事業モデルは1です。額も大きく、ドンドン、ドンドン、積み上がります。
アップルのiphoneのようなファンを多数抱えている独自製品。
こうした製品の事業がそれです。ただし、下請け型モデルの多い中小製造企業ではそうした製品を手にできることは稀です。
したがって、中小製造企業の現実的な事業モデルは2~4となります。
中小製造企業で注目したいのは3です。積み上げる勢いがあります。積み上げるスピードが速いのです。コスパ、タイパが良い事業と言えます。価格決定権を一定水準手にできれば、積み上げの勢いを増大させることが可能です。
先の企業では「同業他社からの引継ぎ業務」が3にあたります。
地域での同業者が種々の事情で廃業しています。そうした同業者が引き受けていた製品はロットが小さい上に多くの場合、造るのに手間暇がかかるのです。
いわゆる「面倒くさい仕事」。大手の同業者は手を出しません。
一方、それまでの発注元はサプライヤーがいなくなると困ります。撤退する同業者から引き継ぐよう依頼された仕事に、価格交渉の余地が生まれてくるのです。
手間暇かかって、めんどうくさいけれども、価格交渉の余地があるので、一定水準のコスパ、タイパを確保できます。1件、1件の規模は小さいかもしれません。ただ、丁寧に拾えば、固定費を回収するのに十分な規模になる可能性があります。
地域での残存者利益戦略は3になり得るのです。弊社ご支援先のいくつかはこの戦略を重視しています。勢いよく積み上げられる仕事は成長の原動力になるのです。
ただし、勢いだけでは、全ての固定費を回収できません。規模を稼ぐ仕事も確保したいです。中小製造企業の規模に応じた薄利多売、一定規模以上の数量で稼ぎます。
こうした仕事の@付加価値額は小さいかもしれません。ただ、数量で稼げるなら、規模は大きくなります。その結果、回収に貢献するのです。規格品であることが多いので、収益上の安定感も増します。
現実的な事業モデルは2と3の組み合わせです。
勢いで稼ぐのか?
規模で稼ぐのか?
その組み合わせが販売戦略の要点です。それに合わせて工場では、仕事のやり方を変えます。外に合わせて内を変えるのが儲かる工場経営です。
3年先、5年先を見通して、儲かる事業を考える場合、2なのか?3なのか?両者のバランスを決めて、外へ獲りにいくことになります。
ところで、4の扱いは、工場の能力次第です。
能力>負荷にあるなら、4も大事です。勢いがなかろうが、規模が小さかろうが回収するのに貢献しています。固定費配賦式の現価計算で赤字評価になるかもしれませんが、こうした仕事を切ってはダメです。
ただし、能力<負荷の状況にあって、さらに4の代替業務として2や3がある場合、4の仕事を見直す必要があります。
以上は回収の観点を持てば、判断できることです。
すでにお分かりと思いますが、どんな勢いで付加価値額を積み上げるのか?とは、人時生産性のことに他なりません。現場に見せる積み上げグラフの傾きです。
積み上げるスピードが問われるのでタイムマネジメントとなります。
「現場のことを任せられるようになってきたので、外で出られるようになりました。」
先の経営者の言葉です。まだまだ発展途上にあるチームですが、右腕役と現場キーパーソンが連携し始めました。連携の大切さを理解してくれたのかもしれません。
そうなるとトップダウンの指示導線が機能し、経営者は内の仕事を現場に任せられるようになります。
外の仕事に専念するために欠かせない、全社一丸、製販一体を理解している経営者です。
次は貴社の番です!
・成長する現場は、稼ぐ勢いや稼ぐ規模の違いを理解しているので面倒な仕事にも頑張る
・衰退する現場は、面倒な仕事を避けるため、稼ぐ機会をみすみす逃し、気付かない