「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第423話 お客様の気持ちを考えた行動を指導しているか?

「日頃からそのように指導しています。」

個別相談で訪問した80人規模の設備メーカー、経営者の言葉です。

経営課題の解決策を話し合った後、現場を見学することにしました。経営者自らが現場を案内してくれ、作業中の従業員たちと対面することになりました。

現場に足を踏み入れると、作業に集中している従業員たちが「こんにちは」と元気に挨拶をしてくれました。

このような挨拶は他の工場でもよく見られますが、この現場では特に印象的でした。全員が自然に、しかも気持ちのこもった挨拶をしてくれたのです。

経営者の従業員に対する指導の熱意と成果が垣間見えます。私は経営者に「従業員の挨拶が素晴らしいですね」と声をかけると、笑顔で言葉を返してくれました。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

5Sの最後の項目は「躾(しつけ)」です。弊社は「決められたルールを守ること」と定義しています。

組織の能力を構成する2つの要素、すなわち「ルールを作る能力」と「ルールを守る能力」のうち、躾は後者を高めるための重要な要素です。どんなに優れたルールや仕組みがあっても、それを守る能力が低ければ意味がありません。

ここで経営者が意識すべきは、従業員にルールを守る姿勢を身につけさせることです。それが組織全体の成長に直結します。

 

「躾」は、家庭で教えられるべきものと思われがちですが、企業の現場でも非常に重要です。企業は事業集団であり、自己啓発や個人の成長を目指す場ではなく、全ての活動が「お客様の要望に応える」ことを目的としています。

例えば、お客様が工場見学に訪れる際、彼らが求めているのは単なる工場の見学ではなく、信頼できるビジネスパートナーであるかどうかの判断材料です。

現場が整理整頓され、作業者がきびきびと動いている姿を見れば、お客様は安心し、その企業に対する信頼感が高まります。

 

特に印象的なのは、作業者からの挨拶です。これがただの形式的なものではなく、心からの挨拶であれば、お客様に「ここなら安心して任せられる」と感じさせる力があります。

先ほどの経営者が「現場での挨拶もお客様の気持ちを考えよ」と指導している理由が、まさにここにあります。従業員一人ひとりが、お客様に対してどういう印象を与えるかを意識することが、企業全体の評価に直結するのです。

 

 

 

 

 

このような経営者の指導は、現場の従業員の意識改革にも繋がります。

経営者が「お客様の要望に応えるのが我々の使命である」と繰り返し伝えることで、従業員たちの意識が変わり始めます。

単なる挨拶にとどまらず、日々の行動や言動が自然とお客様の視点を意識したものになっていきます。これが「意識改革」です。

時間をかけて徹底することで、組織全体の行動が一貫し、お客様に信頼される企業へと成長していきます。

 

弊社が支援している企業の中には、新たなお客様が工場見学を行った際、「このような現場なら安心してお任せできます」と言われた事例もあります。

これが直接的に受注に結びついたわけではないかもしれませんが、少なくともお客様の信頼を得る要因となったことは間違いありません。

 

 

 

 

 

お客様は常に市場に存在し、企業の外にいます。経営者の仕事はその「外」に向けて行うものです。しかし、工場という「内」の役割も非常に重要です。

お客様が工場を訪れる時、それは単なる見学ではなく、ビジネスの重要な局面であることが多いのです。現場の雰囲気、作業者の働きぶり、作業者同士の会話など、全てが営業活動の一部となり、お客様に対するメッセージを発信しています。

 

経営者としての仕事は、長期的な視野で従業員の意識を育てることにあります。

「お客様の要望に応えるのが我々の使命だ」というメッセージを繰り返し伝えることで、従業員の意識が変わり、それが企業全体の成長に繋がるのです。これは一朝一夕でできることではありませんが、時間をかけて取り組むべき重要な仕事です。

先ほどの経営者も、10年前に事業を引き継いだ際から、このような指導を続けてきました。その結果、現在では全ての従業員が、心からの挨拶でお客様を迎えるようになったのです。

 

このように、企業の成長には、現場での従業員一人ひとりの行動が大きな影響を与えます。そしてその行動を導くのは、経営者のトップダウンです。お客様の気持ちを考えた挨拶や行動は企業全体の信頼を築く礎となります。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、お客様の気持ちを考えた挨拶や行動ができるので信頼を獲得する

衰退する現場は、形式的な挨拶や行動しかできないのでお客様に響かない