「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第494話 社長業で専念しなければならない課題とは?
●経営者の仕事は?
経営者の仕事は何でしょうか。
現場を回すことでも、トラブル対応に追われることでもありません。
経営者が専念しなければならないのは、「儲かる事業構造」をつくることです。儲かる事業構造がなければ、商売は始まりません。
例えば、どれだけ一生懸命に製造しても、そもそも儲からない商品や製品であれば、努力は報われないのです。現場の工夫や改善は重要ですが、儲かる事業構造が前提となります。
儲かる事業構造の起点は現場作業にはありません。どの商品・製品で、どの市場から、どうやって儲けるのかという構想にあります。
さらに、中小製造企業は少数精鋭です。個の力に頼るだけでは限界があります。一人ひとりの力を引き出し、チームとして相乗効果を生み出す視点が欠かせません。
人のやる気をどう引き出すか、仕事のやり方の設計を考える必要もあるのです。
儲けるために何を考えるべきか。大きな視点、長期の視点で儲かる事業構造を描くことが、経営者の仕事です。これが、弊社が一貫して伝えてきた社長業の原点となります。
●お客様に選ばれる商品、製品、サービスを効率よく造る
【企業という組織の正体――市場に選ばれなければ存在できない】
「組織」と聞くと、何を思い浮かべますか?
政府、行政、軍隊、宗教、学校、そして企業。これらは、いずれも人が集まり、役割を分担し、ルールを決めて動くという点では共通しています。
しかし、企業とその他の組織との間で、決定的な違いもあります。企業には、必ず「市場」があり、「お客様」という存在がいることです。
言い換えれば、企業とは「選ばれなければ存在できない組織」なのです。
この違いは、歴史を振り返ると、より鮮明になります。
【政府・行政・宗教と企業の決定的な違い――東インド会社が示したもの】
政府、行政、軍隊、宗教、学校といった組織は、人類の歴史とともに存在してきました。紀元前の2000年以上前から形を変えながら存続しています。
政府、行政、軍隊、宗教、学校といった組織の主な目的は「秩序の維持」や「組織の存続」です。そして、こうした組織には、元来「市場」「お客様」という視点はなかったのです。
一方、企業という組織は、歴史的に、意外と浅い存在と言えます。
世界初の恒常的な株式会社としてよく知られるのは、1602年に設立されたオランダ東インド会社です。日本では、関ヶ原の戦い(1600年)の直後にあたります。
つまり、企業の歴史は、せいぜい400年余りに過ぎません。しかもその誕生理由は明確でした。「市場で価値を提供し、利益を上げ、投資を回収する」。
企業とは、最初から市場と向き合うことを宿命づけられた組織でした。
歴史を踏まえると、企業経営において「お客様に選ばれるかどうか」が中心に据えられるのは、自然なことです。そもそも、選ばれないと生き残れません。
利益アップも給料アップも、その原資はすべて市場にあります。
中小製造企業の経営者が、いやでも市場に向き合い、「天の声」としてお客様の声に耳を傾けざるを得ないのは、この宿命ゆえです。
そして、歴史が浅いだけに、まだまだ、試行錯誤の状況にあるとも言えます。マーケティング理論は日進月歩です。
【製造業経営者に突きつけられる二つ目の問い――効率よく造れているか】
製造業は、単に売るだけの仕事ではありません。原材料を仕入れ、それを工場で「加工」し、価値を生み出します。価値を生み出す舞台が自社の中にあるという点が、製造業の大きな特徴です。
そこで、経営者には、さらに、次の問いが必ず突きつけられます。
「我が社は、効率よく造れるだろうか?お客様の要望に応えるペースで製造できるか?」
お客様は納期を求め、希望価格を求めます。私たちはボランティアではありませんから、利益を生み出す条件の中で、それを同時に満たさなければなりません。ここに中小製造業の難しさがあります。効率よく造り、付加価値額を積み上げるのです。
同時に、ここにしかない面白さもあります。経営資源に制約があるからこそ、造り方に知恵を加え、工夫し、カイゼンを積み上げることで、選ばれ続ける会社へと進化できるのです。
【変化を生み出す管理か、変化を止める管理か】
このとき、避けて通れないのが「管理」という考え方です。管理と聞くと、締め付けや監視を思い浮かべるかもしれません。しかし、製造現場では、管理の目的が違います。
政府や行政など、歴史の長い組織では、ときに「自己保身」や「組織存続」を目的とした管理がやられるのです。変化を恐れ、改革よりも管理が仕事の中心になる。これは歴史の中で繰り返されてきた姿です。
中小製造企業が、この仕事のやり方を真似した瞬間、市場で置いてきぼりを食らいます。私たちに必要なのは、その正反対の管理です。
変化を促し、改革・カイゼンを前に進める管理です。
改善とは「良くする」活動ですが、良くするためには必ず「今の立ち位置」が必要になります。before/afterのbeforeを設定しなければ、進む方向は見えません。
そこで力を発揮するのが、生産管理3本柱(品質・原価・工程)です。品質を守り、原価を意識し、工程を整えます。これは現場を縛る道具ではありません。現場を前に進める知識の体系です。
変化を回避する管理ではなく、変化を生み出す管理。この違いを理解できるかどうかが、儲かる工場経営の分かれ道になります。
そして、忘れてはならないのは、効率よく造るとは、個人の頑張りに頼ることではないという点です。
少数精鋭の中小製造企業ほど、チームの力が問われます。バラバラに動けば、一見速そうでも前には進まない。ボートで言えば、オールの向きが揃っていない状態です。
ベクトルを揃え、限られた工数で最大の付加価値を生み出す仕組みをつくる。
ここに「お客様に選ばれる商品、製品、サービスを効率よく造る」という儲かる工場経営の核心があります。
貴社の「管理」は、変化を回避するためのものですか。
それとも、変化を促すためのものですか。
この問いに向き合うことが、社長業の思考を一段引き上げるきっかけになるはずです。
●工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある
もし、経営者一人で、成果を出すことを完結できるなら、それが、最も効率的かもしれません。しかし、現実はそうなりません。一人でやれることはたかが知れています。
人の手が必要です。
だから、多くの中小製造企業が、時間と手間をかけて採用活動を行い、わざわざ外部から人を迎え入れています。それはなぜか。答えは明確です。
成長のためには、一定水準の規模と、多様な力を組み合わせる必要があるからです。
「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があります。個の力を足し算するだけではなく、知恵と経験を掛け合わせれば、成長のスピードは一気に高まるのです。チームの力が生み出す相乗効果は、一人で到底たどり着けない成果を可能にします。
製造業は技術の世界で戦っています。現場で直面する課題の多くは、「できないことを、どうすればできるようにするか」という問いです。
技術開発や工程改善に携わったことのある方なら、この問いがどれほどのストレスを伴うか、理解できるでしょう。一人で抱えきれない課題も、チームであれば乗り越えられます。
この実感こそが、製造業で、組織をつくる意味であり目的です。体感するものです。
中小製造企業の強みとして、しばしば「柔軟性」「小回り」「機動性」が挙げられます。しかし、これらは決して一人の能力で実現できるものではありません。
経営、現場、営業、それぞれの役割が連動し、タイミングよく噛み合って初めて発揮される力です。つまり、強みの正体は「チームとして機能しているかどうか」にあります。
ここで、経営者が持たなければならない重要な視点があります。
それは、「従業員は他人である」という前提です。
他人である以上、経営者が考えていることや期待していることが、自然に伝わることはありません。協力を得るためには、伝える努力が欠かせないのです。
一人ひとりに対して、何を大切にしてほしいのか、どんな仕事のやり方を求めているのかを、具体的に示す必要があります。
説得して「やる気を持たせる」ことはできません。経営者にできるのは、やる気を引き出す環境をつくることだけです。その環境は、組織の風土や文化として形づくられていきます。
風土や文化は、勝手に生まれるものではありません。現場を歩き、声をかけ、判断を下す。その一つひとつの経営者の言動が、積み重なって、醸成されるのが風土や文化です。
さまざまな工場を訪問し、現場に足を踏み入れた瞬間、感じる雰囲気や空気があります。整理整頓の度合い、音の響き、働く人の表情。これらは偶然ではありません。経営者の言葉と行動の結果が、現場に、にじみ出ていると感じるのです。
人を採用するということは、「他人」を迎え入れるということを意味します。そうであるなら、受け入れた後の対応が大事です。
何を任せ、何を期待し、どこまでを判断してよいのか。その基準を示さなければ、チームの力は発揮されません。「他人」を「人材」に変えられるかどうかは、経営者次第です。
工場経営の本質は、他人の力を借りて、自分の想いを形にしていくことにあります。経営者がすべてをやってはだめです。この観点に目を向けたとき、社長業は現場作業から一段高い次元へと引き上げられます。
そして、この視点を持てた経営者だけが、次の成長ステージに進むことができるのです。「任せる」と「丸投げ」の違いを説明できる経営者だけがそうなれます。
●経営者の戦略的な思考
経営者に求められる戦略的思考の軸のひとつは、「将来」をどう描くかにあります。
足元の仕事に追われている限り、将来は決して見えてきません。経営者の仕事は、今日の受注をさばくことではなく、数年先に我が社がどの位置に立っているかを構想し、そこへ至る道筋を考えることです。
そのためには、経営者自身が工場の外に出て、市場と向き合う時間を確保しなければなりません。お客様と直接会い、声を聞き、変化の兆しを感じ取る。そこで初めて、「お客様に選ばれ続ける商品・製品・サービスとは何か」が見えてきます。
工場の中に閉じこもっていては、市場の変化も、競合の動きも分かりません。経営者の仕事場は現場ではなく、市場にあるのです。
しかし、経営者が外に出るためには、前提条件があります。それは、経営者が不在でも工場が回る状態をつくることです。
右腕役や現場キーパーソンが育ち、判断基準が共有され、仕組みとして現場が動く。これがなければ、経営者は工場のことが常に気になり、外の仕事に専念できません。
中小製造企業経営者の戦略的思考とは、将来構想と同時に、その構想を支える体制づくりを並行して考えることです。製造業は外と内を同時並行して考えなければなりません。
多くの中小製造企業で見られるのは、経営者が「現場が心配だから」と言って外に出られず、結果として先手を打てない状態です。これでは、いつまでたっても受け身の経営から抜け出せません。
経営者が、現場に張り付くほど、会社の将来は見えにくくなる。
この逆説を理解することが重要です。
戦略とは、特別な理論や難しい言葉ではありません。「どこで勝つのか」「何を捨てるのか」「限られた経営資源をどこに集中させるのか」を決めることです。
そして、その判断を支えるのが、外と内からの視点です。お客様に選ばれる構想があり、それを効率よく実現する仕組みがあり、他人の力を借りて実行できる組織がある。
その全体像を描き続けることが、社長業の核心です。
経営者が戦略的な思考に専念できたとき、現場は不思議なほど安定します。なぜなら、判断基準が明確になり、迷いが減るからです。
将来構想を描き、それを言葉と形で示し続ける。この積み重ねが、儲かる事業構造を生み出し、持続的な成長につながります。
社長業とは、忙しさから逃れることではありません。忙しさの質を変えることです。
現場の忙しさから一歩離れ、将来を考える忙しさへと自分を引き上げる。その覚悟を持てるかどうかが、経営者としての分かれ道になります。
弊社は、これからも、挑戦する経営者を力強く後押しして参ります!
成長する現場は、経営者が構想した儲かる事業構造の上で一生懸命に働き儲けを積み上げる
衰退現場は、経営者と一緒になって現場のトラブルに対応するけれど儲けが積み上がらない