「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第83話 モノづくりにおける2つの全体最適化
現場だけでなく、工場全体の全体最適化も設計していますか?
弊社のご支援は製造現場を舞台にしています。
製造現場にモノ、お金、情報の3つの流れをつくることがご支援の目的であり、その手掛かりは現場にあるからです。
現地、現物、現実の3現主義。
答えは現場にしかありません。
ですから、弊社では現場を観察し、現場と対話することを重視します。
現場リーダー、各工程キーパーソンと直接に話をする機会を作り、さらには、可能な限り、現場、全員と話をする。
ご支援の早い段階でこうした対応をします。
それぞれの現場には、その現場特有のモノづくりの「型」があります。
製造企業の活動の中心となる工場は、一見、どこも同じように見えますが、細部ではどれ一つとして同じところはなく、独自の工夫があるものです。
皆さんの工場は外観上、普通の工場であり、見た目は他の工場と似たようなものでしょう。
しかし、内部には独自の工夫がたくさんあるはずです。
つまり、モノづくり現場は”注文住宅”と言えます。
外観は、いわゆる”家”ですが、その中の仕様はどの家庭ひとつとっても同じところはありません。
現場独自の工夫は、長年の経験を積み重ねて出来上がったものであり、3つの流れをつくるさいに、欠かせないものです。
そこで、その現場独自の工夫、強みを把握したいのならば、現場へ直接に聞くのが効果的ではないでしょうか?
ですから、現場との対話を重視するのです。
弊社のご支援は、流れ分析から始めますが、それと並行して、強みを整理するため、現場との対話にも時間を割きます。
流れ分析と現場との対話がご支援前半での山のひとつですが、その前にやっておかなければならないことがあります。
それは、一体感の醸成、ベクトル合わせです。
前回のコラムでベクトル合わせについて書きました。(現場のベクトルを揃えるために)
・経営者の想いの見える化
・プロジェクト
この2点を挙げました。
この2点は一体感を醸成する取り組みの進め方、手段です。
5年先、10年先の見通しを示して大きな目的を現場で共有しやる気を引き出します。
そして、プロジェクトという納期を明確にした取り組みで、一気呵成に仕組みをつくりあげます。
そのとき、プロジェクトで取り上げるテーマが、現場における「全体最適化」なのです。
現場における全体最適化とは、滞りのない3つの生産の流れを作ることであり、一衣帯水、一気通貫の現場づくりが目標となります。
工程内での部分最適化に留まらず、次工程と隣接した工程との意思疎通、さらに、それを全て繋げて工程全体へと波及させるのです。
これが、現場における全体最適化のイメージです。
さて、儲かる工場経営の視点では、こうした現場を対象にした全体最適化に加え、もうひとつ、忘れてはならない全体最適化があります。
それは、工場全体を対象にした全体最適化です。
現在、ご支援をしている企業に、金属板金加工企業があります。
新規顧客を開拓し、売上高規模を拡大させようと、現場改革に乗り出しました。
その企業では、営業担当者が複数いて、それぞれの担当者が受注した案件を、個別に設計や現場へ製造の依頼をしています。
個別に対応しているので、受注情報が一元化されていません。
その結果、製造現場は、生産計画の全体像を把握できず、届いた受注票へ都度、対応することになります。
現場は、依頼が届いたら製造するだけという状況でした。
「製造現場が、設計や営業と繋がりを持って仕事をすれば、もっと効率よく仕事ができますよね。」
状況を打破したいと考えた若手現場担当者の言葉です。
ここの企業では、工場全体を対象にした全体最適化から着手することにしました。
工場には3つの大きな機能があります。
設計、製造、営業。
当然のことながら、モノづくり事業は製造のみでは成立しません。
設計:顧客に届ける価値を創る。
製造:顧客に届ける価値を造る。
営業:顧客に届ける価値を売る。
創って、造って、売る。
この3つがそろって初めて、コア技術がお金に変換されます。
自社の製品が顧客に選ばれない限り、現場がどんなにいい仕事をしても、お金につながらないという事実を理解させることは重要です。
そのように考えると、工場の3大機能のうちで製造がおかれた位置は極めて重要であると気づきます。
つまり・・・、
設計 - 製造 - 営業
顧客に届ける価値を創って、売るのをつなぐのが製造です。
仕事上、設計や営業は顧客と対峙する機会がしばしばであり、顧客が何を欲しているのか肌で感じています。
製造はその両者の間で仕事をしているのです。
製造が積極的に、前工程となる設計、後工程となる営業と連携する仕組みをつくり、顧客の欲していることを理解します。
具体的には、製造は、定期的に設計や営業とミーティングを持つことです。
目的は顧客の声を知ること。
この一点です。
工場全体が、顧客の顔を思い浮かべることで一致している状態を目指します。
工場全体のベクトルが顧客へ向いている状態です。
そのためには、自分たちが汗して造った製品が顧客に選ばれているのか、選ばれていないかを、設計や営業を通して知る必要があります。
製造は絶対に直接に知ることができないからです。
価値を造る役割が製造です。
顧客の欲していることを現場で共有できれば、独りよがりにならず、的を射た価値を形にできます。
先の若手現場担当者は、製造と設計をつなぐ取り組みを始めました。
顧客から届く仕様を、現場へ分かりやすく示すことからです。
そうすることで、的確な工程計画を設定できるとともに、顧客に求められている加工仕様の整理ができます。
現場が工程計画に頭を悩ませることもなくなり、設計へのフィードバックがしやすい雰囲気も醸成されそうです。
こうして、製造現場のひとりひとりが、顧客を理解する一歩目を踏み出しました。
工場全体が顧客の顔を思い浮かべる仕事のやり方へ向かい始めたのです。
全体最適化の対象を2つの視点でとらえます。
・ミクロの視点:製造現場(前工程―後工程)
・マクロの視点:工場全体(設計-製造-営業)
どちらの視点であっても、モノ、お金、情報の3つの流れをつくることが目的であることに変わりはありません。
製造が主導して設計や営業と連携します。
工場の全体最適化の仕組みをつくりませんか?